「決算書は税理士に任せている」──その一言が、経営の伸びしろを止めている
皆さんこんにちは。経営支援特化型の税理士、稲田です。
「決算書?毎年税理士に作ってもらっているから大丈夫」──そうおっしゃる経営者の方は少なくありません。しかし、決算書は税理士のために作るものではなく、社長自身が経営判断に使うためのものです。
決算書を「読める社長」と「読めない社長」では、銀行交渉の進め方、設備投資の判断スピード、そして会社の成長スピードに大きな差が生まれます。今回は、経営者として最低限押さえておくべき決算書の読み方のポイントをお伝えします。
決算書が「読めない」社長に共通する3つの特徴
1. 売上と利益の関係を感覚で捉えている
「売上が増えているから利益も出ているはず」と考えてしまう経営者は多いですが、実際には売上が増えても原価率や固定費が上がっていれば、利益は減少します。損益計算書(PL)の売上総利益率や営業利益率を定期的にチェックする習慣がなければ、いつの間にか赤字体質に陥っていることもあります。
たとえば、年商1億円の会社で売上が前年比110%に伸びたとしても、外注費や材料費が120%に増えていれば、利益率は下がっています。売上の伸びに安心するのではなく、「売上に対して利益がどう変化しているか」を常に確認する視点が大切です。
2. 貸借対照表(BS)を見たことがない
PLは見ても、BSはほとんど見ないという社長は非常に多いです。しかし、銀行が融資審査で最も重視するのはBSです。自己資本比率、借入金依存度、総資産に対する現預金の割合──これらの数字が健全かどうかで、銀行からの評価は大きく変わります。
BSは「会社の体力」を表す書類です。PLが「1年間の成績表」だとすれば、BSは「今の健康状態」を示すもの。どれだけ売上が好調でも、BSが弱ければ銀行からの信頼は得られません。自社のBSの読み方については、「よいBSと悪いBSの見分け方」で詳しく解説しています。
3. キャッシュフローと利益の違いがわからない
「利益が出ているのにお金が足りない」という状況は、中小企業では珍しくありません。これは、利益とキャッシュフローが一致しないことが原因です。売掛金の回収サイトが長い、在庫が増えている、借入金の返済額が大きいなど、PLだけでは見えない資金の流れを把握する必要があります。
具体的には、PLで500万円の利益が出ていても、売掛金が前年より300万円増え、借入金の元本返済が年間400万円あれば、実質的な手元資金はマイナスになります。この「利益≠キャッシュ」のギャップを理解していない社長が非常に多いのです。資金繰りの仕組みをもっと詳しく知りたい方は「財務コンサルティングで資金繰りが変わる理由」もご参照ください。
決算書の基本構造をおさらい
決算書の読み方を理解するために、まず基本構造を押さえておきましょう。決算書は主に以下の3つの書類で構成されています。
損益計算書(PL)は、1年間の「売上→費用→利益」の流れを示す書類です。売上高から売上原価を引いた「売上総利益(粗利)」、そこから販管費を引いた「営業利益」、さらに営業外損益を加味した「経常利益」という構造になっています。
貸借対照表(BS)は、決算日時点の「資産・負債・純資産」のバランスを示す書類です。左側(資産)と右側(負債+純資産)が必ず一致する構造になっており、会社の財務的な健全性がひと目でわかります。
キャッシュフロー計算書(CF)は、実際のお金の動きを「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つに分類して示す書類です。中小企業では作成義務はありませんが、資金繰りを把握するうえで非常に重要です。
最低限チェックすべき3つの数字
決算書を完璧に理解する必要はありません。まずは以下の3つの数字を毎月チェックする習慣をつけてください。
①営業利益率──本業の稼ぐ力を測る
計算式:営業利益 ÷ 売上高 × 100
営業利益率は、本業でどれだけ効率よく稼げているかを示す指標です。業種にもよりますが、5%以上を目安にしましょう。
たとえば、売上高1億円で営業利益が300万円であれば、営業利益率は3%。これは「100円売って3円しか残らない」ということです。人件費や家賃などの固定費を見直し、5%以上を目指すことが安定経営の第一歩です。
PLの「営業利益」の行を見れば、この数字はすぐに確認できます。
②自己資本比率──会社の安全性を測る
計算式:純資産 ÷ 総資産 × 100
自己資本比率は、会社の財務的な安全性を示す指標です。30%以上あれば銀行からの評価も安定します。
BSの右下にある「純資産の部」の合計と、「資産の部」の合計を使って計算します。この比率が高いほど、借入に頼らない健全な財務体質であることを意味します。逆に10%を下回ると、銀行から「債務超過に近い」と判断されるリスクがあります。なお、中小企業庁「中小企業白書」によると、中小企業の自己資本比率の平均は約40%前後とされています。
銀行がどのようにBSを評価しているかについては「銀行からの評価を向上させる財務分析」でも解説しています。
③月商倍率(現預金÷月商)──手元資金の余裕を測る
計算式:現預金残高 ÷(年間売上高 ÷ 12)
手元にどれくらいの運転資金があるかを示す指標です。最低でも1.5ヶ月分、できれば3ヶ月分以上を確保したいところです。
BSの「現金及び預金」の金額を、月商(年間売上÷12)で割るだけで計算できます。この数字が1.0を下回っている場合は、突発的な支出があった際に資金ショートするリスクがあります。
決算書を読むときの実践ステップ
「3つの指標はわかったけれど、実際にどうやって読めばいいの?」という方のために、具体的な手順をお伝えします。
ステップ1:まずPLの「営業利益」を確認する
PLの一番上にある売上高から目を下ろし、「営業利益」の行を見つけてください。前年と比較して増えているか減っているか、そしてその原因が売上の変動なのか、コストの増加なのかを確認します。
ステップ2:BSの「純資産」と「総資産」を確認する
BSの右下にある「純資産の部」の合計額をチェックします。マイナスであれば債務超過の状態です。総資産に対する比率(自己資本比率)を計算し、30%以上かどうかを確認しましょう。
ステップ3:現預金残高を月商で割る
BSの左上にある「現金及び預金」の金額を確認し、月商で割ります。これが月商倍率です。前年と比較して増えているか減っているかもチェックしてください。
ステップ4:前年比較で「変化」を読む
決算書は単年度で見るよりも、前年との比較で見る方が有益です。売上・利益・資産・負債それぞれの増減を確認し、「なぜ変化したのか」を考える習慣をつけることが重要です。
数字が読めると、経営判断が変わる
決算書が読めるようになると、経営判断の質が劇的に変わります。
たとえば、設備投資を検討するとき。「なんとなく必要そうだから」ではなく、「現在の営業利益率と借入返済額を考慮すると、投資回収に何年かかるか」を具体的にシミュレーションできるようになります。
銀行交渉でも、自社の財務状態を数字で説明できる社長は、金融機関からの信頼度が格段に上がります。融資条件の交渉や金利の引き下げ交渉でも、有利に進めることができるのです。
また、経営判断に迷う場面では、感覚ではなく数字を軸に判断することで、ブレない意思決定ができるようになります。数字に基づく判断の重要性については「経営者は基準を持つ必要がある|ブレない軸の作り方」でも詳しくお伝えしています。
まとめ:決算書は「経営の健康診断書」
決算書は、会社の健康診断書のようなものです。健康診断の結果を医者だけが見て、本人が見ないということはありませんよね。会社の経営も同じです。
まずは今回ご紹介した3つの指標──営業利益率・自己資本比率・月商倍率──だけでも確認する習慣を始めてみてください。それだけで、経営の見え方が大きく変わってきます。
「数字が苦手」という方も、ポイントさえ押さえれば決算書は決して難しいものではありません。大切なのは、完璧に理解することではなく、定期的に数字を見る習慣をつけることです。
当事務所では、決算書の読み方から経営判断への活かし方まで、経営者の方にわかりやすくお伝えする財務コンサルティングを行っています。「数字を味方につけたい」と感じたら、ぜひ一度ご相談ください。


