役員社宅の家賃を計算するときに使うのは、固定資産税の課税標準額です。評価額ではありません。
この2つは別物で、土地では最大6倍ちがいます。取り違えると、役員から家賃を取り過ぎます。会社の経費にできたはずの金額を、自分で減らしてしまうことになる。
まずそこを押さえたうえで、どこで、どうやって手に入れるかを書きます。
手元に賃貸借契約書がありますか
社宅の話は、契約書の名義が会社か個人かで入口が変わります。個人名義のままだと、そもそもこの計算に入れません。契約書と直近の決算書があれば、どこから手をつけるかはその場で整理できます。
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評価額と課税標準額は、土地で最大6倍ちがう
固定資産税には、よく似た名前の数字が2つ出てきます。
- 評価額……その土地・建物の価格として市町村が決めた金額
- 課税標準額……実際に税率を掛ける金額
建物はこの2つがほぼ一致します。問題は土地です。
人が住んでいる土地には、課税標準額を下げる特例が置かれています。地方税法349条の3の2。住宅用地なら評価額の3分の1、200平方メートル以下の部分(小規模住宅用地)なら6分の1です。
つまり、評価額3,000万円の土地でも、課税標準額は500万円ということが普通に起きる。
そして社宅家賃の計算式が使うのは、安いほうの課税標準額です。ここで評価額を入れると、賃貸料相当額は跳ね上がる。役員が会社に払う金額が増え、その分だけ会社の経費が減る。損をするのは会社です。
税務署から指摘されるたぐいの間違いではありません。だから誰にも言われないまま、何年も続きます。
だから取るのは「公課証明書」。評価証明書では足りない
窓口で「評価証明書をください」と言うと、課税標準額が載っていない紙が出てきます。
| 書類 | 載っているもの |
|---|---|
| 評価証明書 | 評価額のみ |
| 公課証明書 | 評価額+課税標準額+税相当額 |
必要なのは公課証明書です。名前が似ているので、申請書の種類を選ぶところで間違えやすい。
大阪市の場合、申請書は「固定資産(土地・家屋・償却資産)評価証明書交付申請書」という名前のまま、証明の種類を選ぶ欄で公課証明書を指定します。書類の名前で判断せず、中の欄を見てください。
借りている物件でも、借主が自分で取れる
「自分の持ち物じゃないから取れない」と思われがちですが、取れます。
地方税法382条の3で、市町村長は政令で定める者から請求があれば証明書を交付しなければならないと定められています。この「政令で定める者」に借地人・借家人が入っています。所有者の協力がなくても、借主の立場で請求できる。
実際に大阪市で取るときに持っていくものは、この3つです。
- 賃貸借契約書(コピーで足ります。大阪市では原本を求められませんでした。自治体によって運用が違うので、初めての市区町村なら電話で一本確認したほうが早い)
- 本人確認書類(運転免許証など)
- 会社の代表者印
手数料は1枚300円。土地と家屋で2枚なので600円です(大阪市の場合)。申請書は市のサイトからダウンロードできるので、先に押印まで済ませて持っていくと窓口が早く終わります。
所有者に頼む方法も使えます。毎年春に届く「固定資産税・都市計画税の納税通知書」の冊子に課税明細書が綴じ込まれていて、ここに課税標準額が載っています。管理会社を通している場合は管理会社へ、直接契約なら家主へ、この写しをお願いする。
どちらでも構いません。ただ、所有者が出し渋ったときに「じゃあ無理ですね」と引き下がる必要はない、ということは知っておいてください。
一棟のうちの一室だけ借りている場合、敷地はどう按分するか
マンションの一室を借りているとき、公課証明書に出てくるのは土地全体の課税標準額です。そのまま計算式に入れると、敷地まるごとを借りていることになってしまう。按分が要る。
いちばん素直なのはこれです。
敷地全体の面積 × (借りている部屋の床面積 ÷ 建物全体の延床面積)
法律で「この式でやれ」と決まっているわけではありません。合理的であれば別の方法でも通る。区分所有の登記があるなら、登記簿の敷地権割合を使うほうが素直な場合もあります。
ここで大事なのは、どの式を選んだかより根拠を残すことです。
私は監査役・監事として、役員報酬や社宅の扱いが決議される場に立ち会っています。そこで繰り返し見てきたのは、金額そのものより「それをどう決めたか」が問われる場面です。税務調査でも同じことが起きます。だから私は、按分の計算書を1枚作って社宅規程と一緒にファイルしておくようお勧めしています。あとから思い出して説明するのは、まず無理です。
この3つは、やりがちです
❌ 評価額で計算してしまう……土地で最大6倍ずれます。役員から取り過ぎる方向にずれるので、誰にも指摘されません
❌ 評価証明書を取ってしまう……課税標準額が載っていません。窓口でもう一度並ぶことになります
❌ よく分からないので家賃の50%を取っておく……小規模な住宅ならまず取り過ぎです。会社の経費を自分で減らしています
取れた数字を、どの式に入れるか
ここから先は社宅家賃そのものの話なので、要点だけ書きます。
まず、借りている家が「小規模な住宅」に当たるかどうかで式が変わります(所得税基本通達36-41)。
- 法定耐用年数30年以下の建物……床面積132平方メートル以下
- 法定耐用年数30年超の建物……床面積99平方メートル以下
当てはまれば、賃貸料相当額は次の3つの合計です。
- 建物の課税標準額 × 0.2%
- 12円 × (建物の総床面積 ÷ 3.3平方メートル)
- 敷地の課税標準額 × 0.22%
当てはまらない場合、会社が借りて貸しているなら「会社が払う家賃の50%」と「自社所有だったときの算式額」のいずれか多いほうになります(所得税基本通達36-40)。
世の中で「家賃の50%を役員から取れば大丈夫」と言われているのは、この部分です。ただ正確には「いずれか多いほう」なので、50%では足りないことがあります。算式額のほうが大きければ、そちらが基準です。
逆に小規模な住宅に当たれば、この50%の縛りがありません。3つの合計額だけで済みます。だから最初に床面積を確認するわけです。132平方メートルか99平方メートルか、どちらの線で見るかは建物の構造で変わります。
どのくらい小さくなるか。小規模な住宅の賃貸料相当額が、家賃の50%を超えることは実務上まずありません。課税標準額に0.2%や0.22%を掛けた金額なので、桁が違います。
つまり、「とりあえず50%を取っておけば安全」と言われて50%を徴収している会社は、たいてい取り過ぎです。本来もっと会社の負担にできたはずの金額を、自分で役員に付け替えている。
50%という数字がひとり歩きしているのは、小規模でない住宅の話が混ざっているからです。役員社宅の多くは小規模な住宅に当たります。自社がどちらなのかを確かめないまま50%を払い続けているなら、一度計算し直す価値があります。
計算の全体像と、法人契約への切り替えから規程の整備までの手順は、別記事にまとめています。
→ 役員社宅で節税|家賃の何割を会社負担にできる?賃貸料相当額の計算と導入手順
課税標準額が、どうしても取れないときは
ここまでの方法でも取れないことがあります。
- 新築の1年目……固定資産税は1月1日時点の状況で課税されます。年の途中で完成した建物には、その年度の課税標準額がまだありません
- 所有者が応じない……課税明細書の写しを頼んでも出してもらえない
- 自治体の運用が違う……借家人の請求に対して求められる書類は、市区町村でまちまちです。契約書の原本を求められることもあります
- 所有者と賃貸者が違う……サブリース契約などにより、一棟をまとめて借り上げた会社が賃貸者になっているケース。入居者が契約するのは賃貸者であって、所有者ではありません。所有者とは直接の関係がないため、所有者からの課税明細をもらえないケースがありました
私が実際に取れなかったのは、このケースです。サブリース契約により、所有者と賃貸者が違っていました。契約の相手は賃貸者なので、所有者から課税明細を出してもらうことができません。
管理会社に確認してもらいましたが、どうしても出せないという回答でした。ここは粘ってもどうにもなりません。
こうなると、本来の計算式は使えません。別の一定の方法で計算することになります。
実務上の逃げ道はひとつです。会社が払っている家賃の50%以上を、役員から徴収しておく。これで給与課税のリスクは避けられます。
小規模な社宅であれば、最低50%を徴収しておけば実務上問題になることはほとんどありません。理由は単純で、小規模な住宅の賃貸料相当額は、まず家賃の50%を下回るからです。正しく計算した金額より多く取っているので、課税される差額が出ない。
ただし、これは安全側に倒しているだけで、正解ではありません。本来なら会社の経費にできた金額を、役員に肩代わりさせています。取れない事情が解消したら——翌年度になって課税標準額が出たら、所有者が代わったら——必ず計算し直してください。
そしてもうひとつ注意があります。50%で安全なのは、小規模な住宅の場合だけです。132平方メートル(または99平方メートル)を超える住宅では、算式額のほうが50%より大きくなることがあります。そのときは50%では足りません。どちらの住宅なのかは、床面積と建物の構造が分かれば確認できます。課税標準額が取れなくても、ここだけは先に判定しておいてください。
計算が合っていても、徴収が止まっていれば意味がない
最後に、計算の外側の話をひとつ。
社宅で問題になるのは、導入したかどうかではありません。規程どおりに毎月徴収できているか。私が監査や経営会議の場で繰り返し見てきたのも、決めた仕組みが動き続けているかどうかでした。
最初の年はきちんと給与から天引きしていたのに、担当者が変わったタイミングで止まっている。金額だけ据え置きで、建物の構造が変わったのに見直していない。こういう形で崩れます。
徴収が止まれば、その分は役員給与とみなされます。源泉所得税の徴収漏れになり、社会保険の報酬にも跳ねる。計算を丁寧にやった意味が、そこで消えます。
課税標準額を取りに行くのは年に一度の作業ですが、徴収は毎月です。手間がかかるのは、むしろ後者のほうです。
まとめ
- 社宅家賃の計算に使うのは課税標準額。評価額ではない。土地では最大6倍ちがう
- だから取るのは公課証明書。評価証明書には課税標準額が載っていない
- 借主の立場でも請求できる(地方税法382条の3)。所有者から課税明細書の写しをもらう方法もある
- 一室だけ借りているときは敷地を按分する。式より根拠を残すことが大事
「調べ方は分かった。うちの場合はどうか」で止まったら
床面積が境目にある、一棟のうちの一室で按分の根拠に迷う、何年も見直していない——このあたりは、物件の資料を見ないと答えが出ません。賃貸借契約書と直近2期の決算書があれば、その場で整理してお返しします。
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よくある質問
評価額と課税標準額は、どちらを使うのですか
課税標準額です。社宅家賃(賃貸料相当額)の計算式は「その年度の固定資産税の課税標準額」と定められています。土地は住宅用地の特例で評価額の3分の1、200平方メートル以下の部分は6分の1になるため、評価額で計算すると賃貸料相当額が過大になります。
借りている物件の課税標準額を、借主が取れますか
取れます。地方税法382条の3により、政令で定める者の請求があれば市町村長は証明書を交付しなければならないとされており、借地人・借家人がこれに含まれます。賃貸借契約書の写し、本人確認書類、会社の代表者印を持って市区町村の固定資産税担当窓口で請求します。
評価証明書と公課証明書は何が違いますか
評価証明書は評価額のみが記載されます。公課証明書は評価額に加えて課税標準額と税相当額が記載されます。社宅家賃の計算には課税標準額が必要なので、公課証明書を請求します。
マンションの一室だけ借りている場合、敷地の課税標準額はどう計算しますか
証明書には土地全体の課税標準額が記載されるため、按分が必要です。「敷地全体の面積×(借りている部屋の床面積÷建物全体の延床面積)」で計算する方法が一般的ですが、合理的であれば他の方法も認められます。どの方法で計算したかを記録に残し、社宅規程と一緒に保管してください。
課税標準額がどうしても取得できない場合は、どうすればよいですか
新築1年目や、サブリース契約などにより所有者と賃貸者が異なる場合など、課税標準額が取得できないことがあります。この場合は会社が支払っている家賃の50%以上を役員から徴収しておけば、給与課税のリスクは避けられます。小規模な住宅であれば賃貸料相当額は家賃の50%を下回るためです。ただし本来より多く徴収していることになるため、取得できるようになった時点で計算し直してください。なお小規模な住宅に当たらない場合は、算式額が50%を超えることがあるため50%では不足する可能性があります。
「毎年きちんと回る形」にしておきたい方へ
社宅に限らず、一度決めた仕組みは放っておくと静かに止まります。月次で数字と運用の両方を見続け、止まる前に気づく体制については、Luxe Partners でご案内しています。
監修:稲田 光浩(税理士)
稲田光浩税理士事務所 代表。近畿税理士会所属・税理士登録番号135413。認定経営革新等支援機関。
2007年から会計事務所に勤務し、2021年10月に大阪・西中島で独立。決算書を作る側であると同時に、東京プロマーケット上場準備企業の監査役、社会医療法人の監事として、出てきた数字を見て判断する側の席にも座っています。監査役としては監査計画の策定から監査報告書の作成まで実際に行い、取締役会と経営会議の両方に出席しています。
稲田光浩税理士事務所/〒532-0011 大阪府大阪市淀川区西中島4-2-21 ミツフ新御堂筋ビル605/TEL 06-7777-1762(平日9:00-20:00・土日祝対応可)
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根拠:所得税基本通達36-40・36-41(国税庁)/タックスアンサー No.2600 役員に社宅などを貸したとき(国税庁)/地方税法349条の3の2、382条の3(e-Gov法令検索)。手数料・必要書類は大阪市の例です。自治体により運用が異なるため、事前にご確認ください。


