結論から書きます。粗利率の目安は、業種によってまったく違います。中小企業全体の平均は25.6%。ただし卸売業は14.9%、宿泊業・飲食サービス業は68.0%(出典:中小企業庁「中小企業実態基本調査 令和6年確報」)。「全業種共通の合格ライン」は存在しません。
それでも、「うちの粗利率は高いのか、低いのか」と気になって検索されたのではないでしょうか。
その感覚は、正しい。
ただ、見る場所が少し違います。
他社平均と比べることより、自社の粗利率が「去年より上がっているか、下がっているか」を追うこと。これが粗利率の使い方の本質です。
私は税理士として、東京プロマーケット上場準備中の企業の監査役、社会医療法人の監事を務め、複数社の経営会議・取締役会に出ています。その現場で毎月のように見るのが、「売上は伸びているのに、粗利率が下がって利益が残らない」会社です。社員さんに還元したい、未来に投資したい——その原資は、すべて粗利から生まれます。
この記事では、粗利率の計算式と限界利益率との違い、業種別の傾向、そして粗利率1%の改善が利益にどれだけ効くのかまで、順番に書いていきます。
自社の粗利率、「業種平均と比べてどうか」で止まっていませんか
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1. 粗利率の目安は結局何%なのか?
冒頭の繰り返しになりますが、答えは「業種で大きく違うので、単一の目安はない」です。全体平均は25.6%でも、卸売業なら14.9%で普通、飲食なら68.0%あっても人件費と家賃で消えていきます。
だから、業種平均との比較は「参考」止まりにしてください。
本当に見るべきは、こちらです。
粗利率は「他社との比較」ではなく、「自社の3期分の推移」で見る。
私が経営会議で最初に確認するのも、この推移です。粗利率が3期連続で下がっている会社は、売上が伸びていても要注意。値上げできていないか、仕入・外注費の上昇を転嫁できていないか、儲からない仕事の比率が増えているか——原因は必ずどこかにあります。
逆に、粗利率が横ばい以上を保てている会社は、価格決定力が生きている証拠です。これは経験上、間違いない。
2. 粗利率はどう計算するのか?限界利益率との違いは?
計算式はシンプルです。
粗利率(%)= 売上総利益 ÷ 売上高 × 100
※売上総利益 = 売上高 − 売上原価
決算書の損益計算書で、売上高のすぐ下にある「売上総利益」。あれを売上高で割るだけです。
もう一つ、経営判断でよく使うのが限界利益率です。
限界利益とは、売上高から変動費(売上に比例して増減する費用。仕入・材料費・外注費・運賃など)だけを引いた利益のこと。人件費や家賃のような固定費(売上が増えても減っても、ほぼ一定でかかる費用)は引きません。
違いを一言で言えば、こうなります。
- 粗利率——決算書ベース。銀行や外部との会話、過去との比較に使う
- 限界利益率——経営判断ベース。「この注文、受けるべきか」「あといくら売れば固定費を回収できるか」に使う
製造業や建設業では、労務費や減価償却費が売上原価に含まれるため、粗利率と限界利益率が大きくズレます。「粗利は出ているのに、なぜか現金が残らない」という違和感を、私は面談の場で何度も聞いてきました。多くの場合、この2つの混同が原因です。利益と現金のズレについては、利益が残らない原因の記事で詳しく書いています。
3. 業種別の粗利率はどのくらい違うのか?
中小企業庁「中小企業実態基本調査 令和6年確報」から、主な業種の売上高総利益率を挙げると、次のような水準です。
| 業種 | 売上高総利益率 |
|---|---|
| 全業種平均 | 25.6% |
| 卸売業 | 14.9% |
| 情報通信業 | 47.3% |
| 宿泊業・飲食サービス業 | 68.0% |
数字だけ見ると「飲食は儲かる商売」に見えますが、粗利率が高い業種ほど固定費(人件費・家賃)も重い。粗利率の高低は、ビジネスモデルの構造の違いであって、優劣ではありません。あくまで傾向として読んでください。同じ卸売業でも、扱う商材や商流で数%は平気で変わります。
業種平均より低いから、即ダメな会社ではない。
平均より高いから、安心できるわけでもない。
平均値は「自社の立ち位置をざっくり知る地図」であって、「合格証」ではない。私はそう捉えています。
「うちの粗利率、この3年でどう動いているか」即答できますか
即答できないなら、月次の数字が経営判断に使える形になっていないのかもしれません。3期分を拝見し、推移の読み方をお伝えします。
4. 粗利率1%の改善は、利益にどれだけ効くのか?
ここが、この記事で一番伝えたいところです。
仮に、年商5億円の会社を考えてみます(以下はすべてモデル計算です)。
粗利率が1%改善すると、粗利は年間500万円増えます。そして、粗利の増加分は、固定費が変わらなければそのまま営業利益に落ちます。
仮にこの会社の営業利益率が3%(営業利益1,500万円)だとすると——
粗利率1%の改善=営業利益1,500万円が2,000万円へ。利益が3割増える計算です。
逆方向から見ると、もっと生々しい。仮に粗利率25%の会社が、増収で同じ500万円の粗利を上乗せするなら、単純計算で2,000万円の売上増が必要です。2,000万円を新たに売る労力と、粗利率を1%動かす労力。どちらが現実的か、自社の数字で一度計算してみてほしいのです。
私の体感では、値決めと仕入の見直しを何年もやっていない会社ほど、この1〜2%の余地が眠っています。売上を追う前に、粗利率を疑う。順番はこちらが先です。
5. 商品別・得意先別に分解すると、何が見えるのか?
会社全体の粗利率は、しょせん「平均値」です。そして平均値には、罠があります。
平均の中には、儲かっている商品と、赤字すれすれの得意先が混ざっている。
私は複数社の経営会議に出ていますが、商品別・得意先別に粗利を並べ直したときの会議室の空気は、毎回同じです。全体でしか見えていなかった数字が、「この商品が稼ぎ頭で、この取引先は運賃と手間を入れるとほとんど残っていない」という景色に変わる。社長が一番驚かれるのは、私の体感では、「昔からの付き合いで続けている大口の取引ほど、粗利率が低い」という事実です。
全体の粗利率が25%でも、その中身が「40%の商品」と「10%の商品」の混合なら、打ち手はまったく変わります。平均値だけ見ている限り、この差は永遠に見えません。
分解の切り口は、まず2つで十分です。
- 商品別(またはサービス別)——どの商品が粗利を稼ぎ、どの商品が薄いのか
- 得意先別——値引き・特別対応・物流コストまで含めて、どの取引先にいくら残っているのか
ここまで見えて初めて、「何を伸ばし、何の価格を見直し、どこと交渉するか」という経営判断ができます。社員さんが頑張った成果がどこで生まれ、どこで漏れているのか——それを数字で示すのは、経営者の仕事であり、私たち財務側の仕事でもあると思っています。
6. 粗利率の改善は、どこから手を付ければいいのか?
入口は3つしかありません。値決め(売価)・仕入(原価)・構成比(何を多く売るか)です。
- 値決め——最後に価格を見直したのはいつか。コスト上昇分を転嫁できているか
- 仕入・外注——相見積もり・発注ロット・支払条件の見直し余地はないか
- 構成比——粗利率の高い商品・得意先の比率を、意図して増やしているか
ただし、正直に書きます。どの順番で、どの商品から、どの得意先に、どう切り出すか——ここの設計は会社ごとにまったく違い、技術が要ります。だから、具体的な進め方は記事には書きません。個別のご相談で、私が御社の商品別・得意先別の数字を見ながらお伝えしています。
❌ やってはいけないこと
- 粗利率を上げようと、全商品・全得意先に一律値上げをかける——価格への反応は取引先ごとに違い、一番失いたくない主力得意先から離れていきかねません。
- 業界平均より高いからと安心して、推移を見なくなる——異変は平均比較では気づけません。下がり始めを見逃すと、打ち手が限られます。
- 粗利率の低い得意先を、数字だけ見て即切りする——物流の効率や紹介の源泉になっている場合があります。切る前に「なぜ低いか」の分解が先です。
7. よくあるご質問(FAQ)
Q1. 粗利率と営業利益率、どちらを見るべきですか?
両方見ますが、役割が違います。粗利率は「商売そのものの儲かる力」、営業利益率は「固定費を払った後に残る力」を表します。営業利益率が低いとき、原因が粗利率の低下なのか固定費の膨張なのかで打ち手は正反対になるため、まず粗利率の推移から確認するのが実務的です。
Q2. 粗利率が業界平均より低い場合、どうすればいいですか?
あわてて平均に寄せる必要はありません。まず自社の3期分の推移を確認し、下がっているなら商品別・得意先別に分解して「どこで下がっているか」を特定します。原因が値決めなのか、仕入コストなのか、構成比の変化なのかで対策が変わります。平均との差より、推移と中身が先です。
Q3. 限界利益率は、実務でどう使うのですか?
主に「損益分岐点の把握」と「受注可否の判断」に使います。固定費を限界利益率で割れば、最低限必要な売上高(損益分岐点売上高)が出ます。また、繁忙期の追加受注や値引き案件を受けるかどうかは、粗利率ではなく限界利益率ベースで判断しないと誤ります。
8. まとめ|粗利率は「比べる数字」ではなく「動かす数字」
最後に、この記事の要点です。
- 粗利率の目安は業種で大きく違う(全体25.6%・卸売14.9%・宿泊飲食68.0%/中小企業庁調査)。単一の合格ラインはない
- 見るべきは他社平均との比較ではなく、自社の3期分の推移
- 仮に年商5億なら、粗利率1%の改善は年間500万円。営業利益を3割動かし得るインパクトがある(モデル計算)
- 会社全体の粗利率は平均値。商品別・得意先別に分解して初めて、打ち手が見える
粗利は、社員さんの給与も、賞与も、未来への投資も、すべてを生み出す源泉です。私が経営会議で繰り返し伝えているのも、この一点です。その源泉を「なんとなく全体の数字」のまま、来期も過ごすのか。それとも、商品別・得意先別に分解して、1%を取りにいく1年にするのか。
分かれ道は、今日の決算書の見方から始まります。
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この記事を書いた人
稲田光浩(いなだ みつひろ)
税理士/稲田光浩税理士事務所 代表
年商1〜10億の成長企業オーナー専門・freee認定アドバイザー
- 顧問先:成長期の中小企業・スタートアップ・医療歯科・飲食等
- CFO顧問の伴走実績あり、新規CFO顧問の受付を再開しています
- 監査役:東京プロマーケット 上場準備中の企業 1社
- 監事:社会医療法人 1法人
- 経営会議・取締役会への参加経験:複数社
- プロジェクト型支援領域:経営ダッシュボード設計・構築/経営計画策定/資金調達伴走/経理業務フロー改善/AI活用設計
〒532-0011 大阪市淀川区西中島4-2-21 ミツフ新御堂筋ビル605


