朝から晩まで働いて、社員も忙しく動いていて、売上も昨年より伸びている。
それなのに決算書を見ると、利益がほとんど残っていない——そんな状態が、もう何期か続いていないでしょうか。
「もっと頑張れば残るはずだ」と自分に言い聞かせて、また現場に戻る。
でも、心のどこかで分かっているはずです。
これは頑張りの問題ではない、と。
正直に書きます。利益が残らないのは、社長の努力不足ではありません。お金が消えていく「場所」を、月次の数字で特定できていないだけです。逆に言えば、利益が残る会社には、残るための仕組みがあります。精神論ではなく、構造の話です。
私は大阪で、年商1〜10億の成長企業の財務に伴走している税理士です。現在、東京プロマーケット上場準備中の企業の監査役、社会医療法人の監事を務め、複数社の経営会議・取締役会に出ています。その現場で何度も見てきた「利益が消える5つの原因」と、それぞれに対して月次でどの数字を見れば止血できるのかを、この記事で全部書きます。
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この記事の内容
原因①:商品別・得意先別の粗利率を、最後に見たのはいつですか?
結論から書きます。利益が残らない会社で最も多いのは、会社全体の粗利率がじわじわ下がっているのに、誰も気づいていないケースです。私の体感では、これが5つの原因の中で一番多い。
なぜ気づけないのか。
試算表で見ているのが「会社全体の粗利率」だけだからです。
全体の粗利率は、儲かる商品と儲からない商品が混ざった平均値です。仕入価格の上昇、値引きの常態化、儲からない商品の構成比の増加——こうした劣化は平均値の中に埋もれて、1年経ってようやく「あれ、下がってるな」と分かる。
モデルケースで示します。年商5億円・粗利率30%なら、粗利は1億5,000万円。ここで粗利率が2ポイント下がると、売上が1円も減っていないのに、粗利が年間1,000万円消えます。社員2〜3人分の人件費に相当する金額が、値引きと原価上昇の中に溶けている計算です。
直し方|月次で見るべき数字
- 商品群別(または部門別)の粗利率——全体平均ではなく、せめて3〜5区分に割って毎月見る
- 主要得意先別の粗利率——売上上位の得意先ほど、値引きで粗利率が低くなりがち。「売上1位の得意先が粗利では5位」はよくある話です
- 粗利率の前年同月比——単月の水準より「劣化の傾き」を見る
会計ソフトの部門設定や販売データの集計で、この分解は十分できます。特別なシステムは要りません。
原因②:固定費が、売上と一緒に膨らんでいませんか?
結論から書きます。成長期の会社は、売上が増えるときに固定費も一緒に増え、増えた粗利を食い尽くすことがよくあります。現場で何度も見てきました。
売上が伸びると、気が大きくなる。
人を増やす。事務所を広げる。システムを入れる。役員報酬も上げる。
一つひとつは正しい投資に見えます。問題は、足し算をしていないことです。粗利率30%の会社で売上が1,000万円増えても、増える粗利は300万円。そこに人件費・家賃・システム費で300万円の固定費が乗れば、忙しさだけが増えて、利益は1円も増えません。
私は「人を増やすな」と言いたいのではありません。社員に報いる経営は、目指すべき姿です。ただし順番があります。先に粗利の増加を確定させ、その範囲内で固定費を増やす。この順番を守るだけで、固定費は「浪費」から「社員への投資」に変わります。なお、粗利率や労働分配率の業種別の目安は中小企業庁「中小企業実態基本調査」でも公表されています。
直し方|月次で見るべき数字
- 固定費の総額と内訳の前年同月比——売上より速いペースで増えていないか
- 労働分配率(人件費÷粗利)——粗利の何%を人件費に充てているか。比率で見ると「昇給できる余力」も逆算できます
- 損益分岐点売上高(固定費÷粗利率)——月にいくら売れば赤字にならないか。この1本のラインを社長が即答できる会社は強い
原因③:値決めが「原価に何%乗せるか」のどんぶりになっていませんか?
結論から書きます。値決めを「原価×掛け率」の習慣だけで決めている会社は、利益を自分で削っています。
「うちの業界は昔から3割乗せ」。
「他社もこれくらいだから」。
——その掛け率、誰がいつ決めたものか、答えられるでしょうか。
原価ベースのどんぶり値決めには、構造的な欠陥があります。原価が上がったときに価格転嫁が遅れること、そしてお客様が感じている価値より安く売ってしまうことです。値上げを怖がって据え置いた結果、仕入や外注費の上昇を全部自社で吸収している会社を、私は現場で何度も見てきました。
稲盛和夫氏は、「値決めは経営である」という言葉を残しています。値決めは経理の作業ではなく、経営者の意思決定そのものです。お客様が納得して払える上限を見極める仕事は、社長にしかできません。
直し方|月次で見るべき数字
- 主要商品・サービス別の値決め根拠の棚卸し——「掛け率の習慣」か「価値基準」かを一度仕分けする
- 値上げ・価格改定した取引の粗利率変化——改定の効果を数字で確認し、次の改定の判断材料にする
- 失注率——値上げしても失注が増えていないなら、まだ価格に余地があるサインです
ここまで読んで「うちのことだ」と感じたら
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原因④:利益とキャッシュを混同していませんか?——利益は在庫と売掛金に化ける
結論から書きます。「利益が残らない」と感じている社長の一定数は、実は利益は出ているのに、そのお金が在庫と売掛金に化けている状態です。損益計算書の問題ではなく、貸借対照表の問題。ここを混同すると、打ち手を間違えます。
利益は、意見。キャッシュは、事実。
私はこの言葉を、面談で何度も使います。
売上を計上しても、入金は2か月後。仕入の支払いは先に来る。売上が伸びるほど、売掛金と在庫が膨らみ、手元のお金はむしろ減る——成長期の会社ほど、この「勘定合って銭足らず」が起きやすい構造になっています。
そしてこの構造は、銀行との関係にも直結します。銀行融資は”数字の審査”ではなく、”返済ストーリーの審査”です。利益とキャッシュの動きを自分の言葉で説明できる社長は、それだけで銀行の見る目が変わります。
直し方|月次で見るべき数字
- 売掛金・在庫の残高と回転期間——売上の伸びより速く増えていたら黄信号
- 月次の資金繰り表——利益ではなく「入金と出金」で3〜6か月先まで見る
- 借入の年間返済額と、税引後利益+減価償却費の比較——返済原資が足りているかの基本チェックです
原因⑤:その「忙しさ」は、儲かる仕事から来ていますか?
結論から書きます。「忙しいのに利益が残らない」の最終形は、忙しさの中身が低収益の仕事で埋まっている状態です。そして多くの場合、社長はそれに薄々気づいています。気づいていて、切れない。
手間ばかりかかる小口の取引。
値引きを重ねた昔からの付き合い。
断れない特注対応。
売上としてはカウントされる。社員の時間も確実に使う。でも粗利はわずかしか残らない——こうした取引が現場を埋めると、会社は「フル稼働の低収益企業」になります。社員は疲れ、利益は残らず、還元もできない。
言葉を選ばずに書きます。低収益の取引を「義理」で抱え続けることは、社員の時間と会社の未来を切り売りすることと同じです。付き合いを切れとは言いません。ただ、価格を見直す・取引条件を変える・工数を減らす、という選択肢は必ずあります。それを判断するには、まず取引ごとの採算を数字にすることです。当事務所が「数字で売上を伸ばす」スタンスを取っているのは、削る判断と伸ばす判断が同じ数字から生まれるからです。
直し方|月次で見るべき数字
- 得意先別の粗利額(率ではなく額も)——上位2割の取引先が粗利の何割を稼いでいるか
- 案件・取引ごとの投入時間と粗利の対応——正確な原価計算でなくていい。ざっくり「手間の割に残らない取引」を炙り出せれば十分です
- 低収益取引の価格改定・条件変更の実行数——見るだけでなく、毎月1件でも動かす
❌ やってはいけないこと:「売上を増やせば解決する」と考える
利益が残らない会社が最初にやりがちなのが、「とにかく売上を増やそう」という打ち手です。しかし、粗利率が劣化したまま・固定費が膨らんだまま・低収益取引を抱えたまま売上を増やすと、赤字の構造ごと拡大し、資金繰りはむしろ悪化します。順番は逆です。先に「どこで消えているか」を数字で特定し、漏れを止めてから売上を伸ばす。穴の空いたバケツに水を注ぎ続けてはいけません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 決算書のどこを見れば、利益が残らない原因が分かりますか?
最初に見るべきは3か所です。①粗利率の推移(2〜3期比較で劣化していないか)、②固定費の総額の推移(売上より速く増えていないか)、③売掛金・在庫の残高(売上の伸び以上に膨らんでいないか)。この3つで、5つの原因のどれに近いかの見当が付きます。
Q2. 商品別・得意先別の粗利管理は、自社だけでできますか?
できます。会計ソフトの部門別集計や、販売管理データの集計から始められます。ただ、私の体感では、仕組みを作ること自体より「毎月見て、判断して、動く」の継続でつまずく会社が多いです。月次面談で数字を一緒に見る相手(税理士・財務の伴走者)を持つと、継続率は大きく変わります。
Q3. 大阪の会社でなくても相談できますか?
できます。当事務所は大阪市淀川区(西中島)ですが、オンラインで全国対応しています。決算書と試算表があれば、月次の数字の見方から資金繰り・銀行対応までオンラインで伴走できます。
まとめ|利益が残る会社には、仕組みがある
5つの原因を並べます。
- 原因①:粗利率の劣化——商品別・得意先別に分解して、月次で傾きを見る
- 原因②:固定費の膨張——粗利の増加を確定させてから、その範囲内で増やす
- 原因③:どんぶり値決め——掛け率の習慣を捨て、価値基準で経営者が決める
- 原因④:利益とキャッシュの混同——在庫・売掛金・返済まで含めて資金繰り表で見る
- 原因⑤:低収益取引の抱え込み——取引ごとの採算を数字にして、毎月1件動かす
共通しているのは、どれも根性ではなく、月次の数字で直せるということです。利益が残る会社には、仕組みがあります。そしてその仕組みは、社長が一人で抱え込むためのものではなく、数字の見張り番を置いて、社長の脳の余白を取り戻すためのものです。
余白ができれば、未来の話ができます。
利益が残れば、社員に還元できます。
その順番を作るのが、財務の仕事です。
このまま「忙しいのに残らない」決算をもう1期繰り返すのか。それとも、来月の試算表から「どこで消えているか」を数字で突き止めにいくのか。——分かれ道は、今月の月次からです。
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粗利管理の仕組みづくり・資金繰り設計・銀行対応・事業計画——お金まわりの意思決定を、税理士業務の枠を超えて一気通貫で伴走するのが Luxe Partners です。「利益が残る仕組み」を、御社の月次に組み込みます。
この記事を書いた人
稲田光浩(いなだ みつひろ)
税理士/稲田光浩税理士事務所 代表
年商1〜10億の成長企業オーナー専門・freee認定アドバイザー
- 顧問先:成長期の中小企業・スタートアップ・医療歯科・飲食等
- CFO顧問の伴走実績あり、新規CFO顧問の受付を再開しています
- 監査役:東京プロマーケット 上場準備中の企業 1社
- 監事:社会医療法人 1法人
- 経営会議・取締役会への参加経験:複数社
- プロジェクト型支援領域:経営ダッシュボード設計・構築/経営計画策定/資金調達伴走/経理業務フロー改善/AI活用設計
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