分院展開の資金調達 完全ガイド|銀行提出前チェックリスト付き

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分院展開の資金調達
完全ガイド

銀行提出前チェックリスト付き
1院目と全く違う「分院の審査」を、提出前に整える

この資料でできること
・分院の融資で銀行が見ている4つの場所を、本院の数字で確認する
・投資回収計画を、計算テンプレートに書き込んで完成させる
・銀行面談で聞かれる質問と、口にしてはいけないNGワードを先に知る
・必要書類と提出前チェックリストで、申込みの抜けをなくす
稲田光浩税理士事務所 税理士 稲田光浩(近畿税理士会 登録番号135413)
社会医療法人 監事/東京プロマーケット上場準備企業 監査役/認定経営革新等支援機関
大阪市淀川区・オンライン全国対応

1. 分院の融資は、開業融資と何が違うのか3つの壁

開業融資は「あなたという人」への期待で貸す審査。分院の融資は「本院の決算書」と「あなたがいない院の収支」を見る審査です。同じ感覚で申し込むと、通らないか、条件が悪くなります。

壁① 本院の実績が、そのまま評価になる

銀行が見るのは利益の額だけではありません。人件費率、院長の取り分を引いた後に残る利益、減価償却前の利益で既存返済をどれだけ余裕をもって賄えているか。「黒字」と「貸せる決算書」は別物です。

参考:第25回医療経済実態調査(令和7年実施・中央社会保険医療協議会)では、医療法人立歯科診療所の33.6%が赤字、個人立では損益差額750万円未満が4割と報告されています。銀行はこの業界平均を頭に入れて本院の決算書を読みます。

壁② 既存借入と「合算」で見られる

分院の借入は、開業時の借入残高に上乗せで審査されます。物差しは「本院の借入+分院の借入」÷「本院の減価償却前利益」=債務償還年数。中小企業では10年以内が一つの目安です。

本院の返済余力を先に計算する
減価償却前の利益(税引後利益+減価償却費)− 既存の年間元金返済額 = 分院の返済に回せる原資。
この原資で分院の年間返済額を賄えるかが、銀行の最初の関門です。

壁③ 「院長の分身」問題

本院の売上は院長の診療で成り立っています。分院は誰が診るのか。院長が分院に通えば本院の売上が落ちる——銀行はこれを「本院の返済原資が減るリスク」として読みます。勤務医の名前が出てこない計画書、「院長が週2日行く」だけの計画書は、ここで止まります。

分院の面談は、本院の面談。 「先生は週何日分院に行かれますか」「分院の先生は決まっていますか」「分院の患者さんが計画どおり来なかった場合、本院でどこまで支えられますか」——3つとも分院の話のようで、本院の話を聞いています。

2. 銀行は分院計画のどこを見ているか4つの確認ポイント

銀行が見ているのは「分院が儲かるか」ではなく「分院がこけたときに、本院で返せるか」です。融資は数字の審査ではなく、返済ストーリーの審査。本院の数字を、以下の4か所で先に確認してください。

確認ポイント銀行が見ている内容本院の数字を記入
① 本院の返済余力減価償却前利益 − 既存年間返済額。分院の売上がゼロでも分院の返済を何年もたせられるか    万円/年
② 院長依存度本院売上のうち院長自身の診療が占める割合。担当医別の売上集計があれば必ず見られる院長  %/勤務医  %
③ 分院長の実在性誰が・いつから・どんな条件で。辞めた場合の代替案まで候補:      
着任時期:
④ 投資額と回収年数総額より「分院の利益で何年で回収するか」。回収年数が返済期間・設備の耐用年数と整合しているか投資総額    万円
回収   年

債務償還年数(合算)を計算する

項目記入欄
A. 本院の既存借入残高     万円
B. 分院の新規借入予定額     万円
C. 本院の減価償却前利益(直近期)     万円
D. 院長が分院に行くことによる本院の利益減少見込み     万円
債務償還年数 = (A+B) ÷ (C−D)     年
判定の目安 10年以内:申込みに進める水準/10〜15年:本院の収益改善か自己資金の再設計が先/15年超:分院より本院の立て直しが先。※金融機関・業種・担保の有無により判断は異なります。あくまで準備段階の目安です。

3. 投資回収計算テンプレート書き込んで銀行に出せる形にする

「損益分岐の売上」と「回収年数」の2つが計画書の中で整合していれば、銀行は読んでくれます。右欄に御院の数字を記入してください。左の「例」はモデル計算で、実在の医院の数字ではありません。

STEP1 投資総額と資金調達

項目例(モデル)御院の数字
内装・設備(ユニット・レントゲン・滅菌等)6,000万円
保証金・敷金・仲介手数料500万円
運転資金(立ち上がり6か月分の赤字補填)500万円
投資総額7,000万円
自己資金1,500万円
借入額/返済期間/金利5,500万円/10年/1.5%
年間元金返済額(借入額÷返済年数)550万円

STEP2 損益分岐の売上

項目例(モデル)御院の数字
月間固定費(分院長給与・スタッフ人件費・家賃・リース・光熱費・広告費)350万円
年間固定費(×12)4,200万円
変動費率(材料・技工・外注÷売上)20%
損益分岐売上 = 年間固定費 ÷ (1−変動費率)5,250万円(月437万円)

STEP3 回収年数

項目例(モデル)御院の数字
安定期の年間売上(開院2〜3年目の見込み)7,000万円
税引後利益(売上×利益率−税金の概算)500万円
減価償却費(設備6,000万円÷10年)600万円
年間キャッシュフロー(税引後利益+減価償却)1,100万円
回収年数 = 投資総額 ÷ 年間キャッシュフロー約6.4年
判定:回収年数 < 返済期間 か6.4年 < 10年 ○
注意:減価償却費が年間元金返済額を下回る場合(返済期間が設備の耐用年数より短い場合)、利益が出ていないと返済できない構造になります。ユニット等の耐用年数と返済期間の整合を必ず確認してください。

4. 自己資金の決め方と、医療法人化の順序本院を守る逆算

自己資金は「投資額の何割」ではなく「本院の手元資金から逆算」

開業時の「自己資金2〜3割」を分院に持ち込むと危険です。分院を出す院長には守るべき本院があり、本院の預金を分院に入れすぎると、分院の立ち上がり遅れで2院が同時に苦しくなります。

項目記入欄
本院の月間固定費    万円
分院の月間固定費(計画)    万円
合計固定費 × 3か月分(本院に残す手元資金の下限)    万円
本院の現在の預金残高    万円
分院に入れられる自己資金の上限 = 預金残高 − 3か月分    万円
銀行に伝える一文:「手元資金は○○万円残します。理由は、分院の立ち上がりが計画より遅れた場合への備えです」——自己資金を多く入れて手元を薄くするより、この説明のほうが返済ストーリーとして筋が通ります。

医療法人化と分院の順序

医療法上、診療所の開設者は原則として自ら管理者となる必要があり、複数の診療所の管理者を兼ねるには都道府県知事の許可が必要です。実務上、歯科の分院展開は医療法人化が前提になります。

時期の目安やること
分院の18〜12か月前法人化の段取り開始(設立認可申請は多くの都道府県で年2回程度)。取引銀行に「1〜2年以内に分院を考えている」と伝える
12〜9か月前本院の担当医別売上集計を1年分そろえる。分院長候補の採用活動開始
9〜6か月前法人設立・本院の引き継ぎ(個人廃止→法人開設)。個人名義の借入を法人へ引き継ぐ相談を同じ銀行で進める
6〜3か月前法人として1期目の決算を終えていることが望ましい。分院長の内定。物件の絞り込み
3か月前〜投資回収計画(本資料P4)を完成させ、融資の正式申込み。物件契約は融資の見通しが立ってから
最も多い失敗:「良い物件が出たから先に契約した。法人化はこれから」。法人化が間に合わず、個人で分院を出せないまま家賃だけが発生します。順序は、法人化→分院長→物件→融資。

※医療法人の設立認可の時期・要件は都道府県により運用が異なります。所轄の都道府県の公表情報をご確認ください。

5. 銀行面談で聞かれる質問リスト答えを書いてから行く

分院の面談で聞かれることは、分院の話のようで本院の話です。以下の15問に、数字を入れて答えられる状態にしてから面談に臨んでください。答えられない質問があれば、それが計画書の穴です。

本院について

本院の売上のうち、先生ご自身の診療は何割ですか。担当医別の売上集計で答える。感覚で答えない
先生が分院に週○日行かれる間、本院の売上はどのくらい落ちる見込みですか。減少額を織り込んだ本院の計画を持参する
本院の既存借入の返済は、直近で遅れたことはありませんか。返済予定表と通帳で即答できるように
本院の減価償却前の利益から既存返済を引いて、いくら残りますか。本資料P2の計算式
本院の手元資金は、分院開院後にいくら残りますか。本資料P5の逆算

分院について

分院の院長(管理者)は、どなたですか。いつから、どんな条件で来られますか。名前・経歴・雇用条件を書面で
その先生が辞めた場合、どうされますか。代替案を先に用意する。「考えていない」は最悪の答え
分院の損益分岐の売上はいくらで、何か月目に到達する計画ですか。P4 STEP2。初月から達成の計画は信用されない
到達までの赤字は、何で埋めますか。運転資金の借入か、本院の余力か、明示する
なぜこの立地で、なぜ今なのですか。本院の患者の居住地分布・紹介の流れなど、本院の数字で語る
投資総額の内訳と、見積りの根拠は。業者見積りを添付。相見積りがあればなお良い
回収年数は何年で、返済期間と整合していますか。P4 STEP3

体制・法人について

医療法人化の手続きはどの段階ですか。法人の決算は何期終えていますか。個人時代の申告書3期分も併せて持参
個人名義の既存借入は、法人に引き継ぎますか。同じ銀行で同時に進めるのが現実的
分院が計画どおりいかなかった場合、撤退の判断基準はありますか。「○か月連続で損益分岐を下回ったら見直す」など、基準を持っている院長は信頼される

6. 必要書類チェック と NGワード集持参前に指差し確認

必要書類チェックリスト

本院に関する書類分院に関する書類
  • 決算書(法人)または確定申告書(個人)直近3期分
  • 直近の試算表(当期の足元)
  • 既存借入の返済予定表(全行分)
  • 借入一覧表(借入先・残高・金利・返済期限を1枚に)
  • 担当医別の売上集計(直近1年)
  • 本院の月次売上推移(直近2年)
  • 本院の通帳写し(直近6か月)
  • 院長の経歴書・歯科医師免許の写し
  • 分院の事業計画書(本資料P4の投資回収計算を含む)
  • 資金使途の内訳と業者見積り(内装・設備・機器)
  • 物件の概要資料・賃貸借条件(契約前の段階でよい)
  • 分院長候補の経歴書・雇用条件書(内定書)
  • スタッフ採用計画と人件費計画
  • 立地の根拠資料(本院患者の居住地分布・周辺の診療所分布)
  • 医療法人の定款・登記事項証明書(法人の場合)
  • 医療法人設立認可のスケジュール(法人化前の場合)

面談で口にしてはいけないNGワード集

NGワード銀行にこう聞こえる言い換え
「分院の売上で分院の返済をします」本院で支える気がない。楽観的「分院の売上がゼロでも、本院の余力で○年は返済できます」
「分院の先生はこれから探します」売上計画は絵に描いた餅「候補は○名で、○月着任の条件で内定しています」
「開院初月から黒字の計画です」立ち上がりを理解していない「損益分岐は○か月目。それまでの赤字は運転資金○万円で埋めます」
「自己資金は全部入れます」融資後に手元が薄くなる。余力なし「手元に○万円残します。立ち上がり遅れへの備えです」
「本院は私がいなくても大丈夫です」(根拠なし)院長依存度を把握していない「担当医別の集計で、勤務医が売上の○割を作っています」
「他の銀行にも同じ話をしています」(あいまいに)資金管理ができていない借入一覧表を出し、「メインは御行、併せて公庫に○万円相談中です」と明示
「法人化は分院が決まってから考えます」順序を理解していない「法人化は○月の認可申請で進めています」
「景気が悪いので本院の売上が落ちました」原因を特定できていない「落ちた理由は○○で、○○の手を打ち、直近の試算表では回復しています」

7. 銀行提出前チェックリスト全部に✓が付いてから出す

本院の数字分院の計画
  • 合算の債務償還年数を計算した(P3)
  • 本院の返済余力(減価償却前利益−既存返済)を把握した
  • 院長依存度を担当医別集計で示せる
  • 院長が分院に行く分の本院売上減少を計画に織り込んだ
  • 本院の手元資金を固定費3か月分以上残す設計にした
  • 借入一覧表を1枚にまとめた
  • 役員貸付金(個人なら事業主貸の異常)がないか確認した
  • 分院長候補の名前・条件・着任時期が書面にある
  • 分院長が辞めた場合の代替案を用意した
  • 損益分岐売上と到達月を計算した(P4)
  • 到達までの赤字の埋め方を明示した
  • 回収年数<返済期間を確認した
  • 減価償却費と元金返済額の関係を確認した
  • 法人化のスケジュールと分院の時期が整合している
  • 物件契約は融資の見通しが立ってから、の順序になっている

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稲田光浩(いなだ みつひろ) 税理士/稲田光浩税理士事務所 代表
税理士法人の医療専門部で歯科医院・医療法人の税務と経営改善支援に従事したのち、2021年独立。社会医療法人 監事、東京プロマーケット上場準備中の企業 監査役、複数社の経営会議・取締役会に外部の立場で参加。認定経営革新等支援機関・freee認定アドバイザー。
〒532-0011 大阪市淀川区西中島4-2-21 ミツフ新御堂筋ビル605 https://inada-tax.com
関連記事:歯科医院の分院展開、資金調達はどう組むか(inada-tax.com/blog/shika-buin-shikin-chotatsu/)/歯科医院の意思決定に同席する税理士(inada-tax.com/shika-zeirishi/)/無料資料室(inada-tax.com/tools/)

本資料は2026年8月時点の公表情報に基づく一般的な解説であり、個別の融資判断・医療法人設立の可否を保証するものではありません。モデル計算は例示であり、実在の医院の数字ではありません。金融機関・都道府県により取り扱いは異なります。無断転載を禁じます。
発行:稲田光浩税理士事務所 2026年8月 第1版

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