本院は黒字で、ユニットは埋まり、勤務医も一人育ってきた。
そろそろ2院目を、と物件情報を見始めて、ふと止まっていないでしょうか。
「開業のときは公庫と銀行が貸してくれた。でも分院のときも、同じように貸してくれるのだろうか」と。
検索すると出てくるのは、開業資金の記事ばかりです。
自己資金は2〜3割、内装はいくら、ユニットはいくら。
どれも、すでに1院を経営しているあなたには、答えになっていません。
結論から書きます。分院の融資は、開業融資とは審査の土俵が違います。開業融資が「あなたという人」を見る審査だとすれば、分院の融資は「本院の決算書と、あなたがいない院の収支」を見る審査です。ここを開業のときと同じ感覚で申し込むと、通らないか、通っても条件が悪くなります。
申し遅れました。私は大阪で税理士事務所を営む稲田光浩です。税理士法人の医療専門部で歯科医院・医療法人の税務と経営改善に携わったあと独立し、いまは社会医療法人の監事、東京プロマーケット上場準備中の企業の監査役を務め、複数社の経営会議・取締役会に外部の立場で参加しています。つまり、お金を「借りる側」の隣と、「使い道を審査する側」の席、その両方に日常的に座っている人間です。
この記事は、これから開業する先生向けではありません。
すでに本院を経営していて、2院目を現実的に考え始めた院長に向けて書きます。銀行が分院計画のどこを見ているか、投資回収をどう組むか、自己資金と借入のバランス、医療法人化との順序、そして分院で失敗する資金計画のパターンまで、現場の目線で正直に書きます。
「うちの本院の数字で、分院の融資は通るのか」を先に知りたいなら
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1. なぜ分院の融資は、開業融資より通りにくいのか?
結論から書きます。開業融資は「実績がないから、人を見る」審査。分院の融資は「実績があるから、数字を見る」審査です。そして数字で見られるとき、院長が思っている以上に、本院の決算書は多くを語ってしまいます。
開業のとき、銀行や公庫が見ていたのは何だったか。
経歴、勤務先での実績、自己資金の貯め方、事業計画書の筋の良さ。
つまり、「この先生なら、たぶん大丈夫だろう」という人への期待で貸していたわけです。歯科医師の開業融資は、他業種の創業融資に比べて通りやすいと言われてきました。私の体感でも、それは間違いではありません。
ところが、分院の融資では前提が変わります。
本院には決算書がある。返済の実績がある。
銀行は、もう「期待」で貸す必要がありません。実績で判断できるからです。
これは、本院がうまくいっている院長にとっては追い風のはずです。ところが現場では、逆のことが起きます。
壁①:本院の「実績」が、そのまま評価になる
本院が黒字であっても、銀行が見るのは利益の額だけではありません。売上に対する人件費の比率、院長の役員報酬(個人なら事業主の取り分)を引いたあとに何が残るか、減価償却前の利益で既存の返済をどれだけ余裕をもって賄えているか。
言葉を選ばずに書きます。
「黒字」と「貸せる決算書」は、別物です。
公的な統計も、この点では楽観を許しません。厚生労働省の第25回医療経済実態調査(令和7年実施)では、医療法人立の歯科診療所の33.6%が赤字、個人立では損益差額が750万円未満の施設が4割を占めると報告されています(出典:中央社会保険医療協議会「第25回医療経済実態調査の概要」)。銀行の審査担当者は、こうした業界平均を頭に入れた上で、あなたの本院の決算書を読みます。「歯科だから安心」という時代ではなくなっているのです。
もう一つ、銀行が頭に入れている数字があります。歯科診療所の施設数です。厚生労働省の医療施設動態調査では、歯科診療所数は2016年頃をピークに減少に転じています(出典:厚生労働省「医療施設動態調査(令和7年12月末概数)」)。市場全体が縮む中で2院目を出す、という計画を銀行に持ち込むわけです。だからこそ「なぜこの立地で、なぜ今なのか」を本院の数字で語れるかどうかが問われます。
壁②:既存の借入と「合算」で見られる
開業時の借入がまだ残っている院長がほとんどでしょう。分院の借入は、その残高に上乗せで審査されます。
銀行が見ているのは、本院の借入残高と分院の新規借入を足した合計を、本院の返済原資(減価償却前の利益)で何年で返せるか、という一本の物差しです。一般に「債務償還年数」と呼ばれ、中小企業では10年以内が一つの目安とされます。歯科医院の場合、設備投資が大きく借入も大きくなりやすいので、この物差しで見たときに本院の返済余力が思ったより小さい、ということが珍しくありません。
債務償還年数の考え方と計算は、こちらの記事で詳しく書いています。
債務償還年数の計算方法と改善策
壁③:「院長の分身」問題
これが、歯科の分院に特有で、銀行が最も気にしている点です。
本院の売上は、院長自身の診療で成り立っています。
では分院は、誰が診るのか。
銀行の審査担当者は、分院の計画書を見ながら、頭の中でこう考えています。「本院の実績は院長の腕で作られた数字。分院には院長がいない。この計画書の売上は、誰の腕で作られる数字なのか」。
ここで勤務医の名前が出てこない計画書、あるいは「院長が週2日行く」だけの計画書は、本院の売上が落ちるリスクとして読まれます。分院の売上が立つかどうか以前に、本院の返済原資が減るのではないか、という疑いです。
私は医療法人の監事として、分院計画が理事会に上がる場面に何度も立ち会ってきました。計画が最初に突き返されるのは、ほぼ例外なく「誰が分院を診るのか」が曖昧なときです。銀行も、同じところを見ています。
2. 銀行は、分院計画のどこを見ているのか?
結論から書きます。銀行が分院の計画で見ているのは「分院が儲かるか」ではなく、「分院がこけたときに、本院で返せるか」です。銀行融資は数字の審査ではなく、返済ストーリーの審査です。分院の計画書は、この順番で読まれます。
一枚の図にすると、本院の決算書を土台にして、その上に分院計画が乗っている構造です。土台が細ければ、上に何を乗せても審査は通りません。
① 本院の返済余力——分院を足しても、まだ余裕があるか
本院の減価償却前の利益から、既存の年間返済額を引いた残り。これが分院の借入に回せる返済原資です。銀行は、分院の売上がゼロでも、この残りで分院の返済を何年もたせられるかを見ています。
現場で何度も見てきましたが、院長の頭の中では「分院の売上で分院の返済をする」計算になっています。銀行は、そうは見ていません。分院の売上は「あれば良い」もの。返済の担保は本院。この前提のずれが、面談でのかみ合わなさを生みます。
② 本院の人件費率と、院長依存度
本院の売上のうち、院長自身の診療が何割を占めているか。勤務医や衛生士がどれだけ売上を作っているか。レセプトの担当医別の集計があれば、銀行は必ず見たがります。
院長の診療が売上の8割を占める本院から院長が分院に通い始めれば、本院の売上は落ちる。銀行はそう読みます。逆に、勤務医が本院の売上の半分を作っている医院なら、「院長が抜けても本院は回る」と説明できます。この一点で、審査の空気は大きく変わります。
③ 分院の管理者(院長)は誰か
医療法上、診療所の開設者は原則として自ら管理者となる必要があり、複数の診療所の管理者を兼ねるには都道府県知事の許可が必要です。実務上、歯科の分院展開は医療法人の形で進めることがほとんどで、分院には分院の管理者(分院長)を置くことになります。
銀行はこの分院長について、「誰か」「いつから」「条件は」「辞めたらどうするか」まで聞いてきます。勤務医の名前と経歴、雇用条件、そしてその人が辞めた場合の代替案。ここが計画書に書かれていない限り、分院の売上計画は「絵」として扱われます。
④ 投資額の内訳と、回収年数
内装、ユニット、レントゲン、滅菌設備、保証金、運転資金。分院の投資額は本院の開業時と同じか、物価上昇でそれ以上になりがちです。銀行は総額よりも、「この投資を、分院の利益で何年で回収する計画か」「その年数は設備の耐用年数や返済期間と整合しているか」を見ます。
ここは次の章で、数字を使って書きます。
面談で、実際に何を聞かれるのか
院長から「分院の面談では何を聞かれるのか」とよく質問されます。私が融資の相談に同席してきた範囲で、聞かれることはほぼ次の3つに集約されます。
一つ目、「先生は分院に週何日行かれますか。その間、本院はどなたが診ますか」。これは院長依存度の確認です。
二つ目、「分院の先生は、もう決まっていますか。どういう条件で来られますか」。これは分院長の実在性の確認です。
三つ目、「分院の患者さんが計画どおり来なかった場合、本院でどこまで支えられますか」。これは返済ストーリーの確認です。
3つとも、分院の話をしているようで、実は本院の話を聞いています。分院の面談は、本院の面談。ここに気づいて準備した院長と、分院の夢を語りに行った院長とでは、面談の空気がまるで違います。
3. 分院の投資回収計画は、どう組めばいいのか?
結論から書きます。分院の投資回収計画は、「損益分岐の売上」と「回収年数」の2つの数字が、計画書の中で整合していればいい。逆に言えば、この2つが計算されていない計画書は、銀行にとって読む価値がありません。
数字で示します。ただし以下はモデル計算であり、実在の医院の数字ではありません。
仮に、分院の投資総額を7,000万円とします。内訳は内装・設備で6,000万円、保証金と運転資金で1,000万円。自己資金を1,500万円入れ、5,500万円を10年返済で借りるとします。
このとき、年間の元金返済は550万円。金利を仮に1.5%とすれば、初年度の利息は80万円前後です。
分院の固定費は、分院長の給与、衛生士・受付の人件費、家賃、リース、光熱費、広告費。仮に月額350万円、年間4,200万円と置きます。変動費(材料・技工・外注)を売上の20%と置くと、損益分岐の売上は、4,200万円÷(1−0.2)=5,250万円。月に約440万円です。
ここまでが「損益分岐」の数字。
問題は、この先です。損益分岐を超えただけでは、返済はできません。年間550万円の元金返済は経費ではなく、税引後の利益に減価償却(現金の出ていかない経費)を足し戻した「現金」から払うものだからです。このモデルでは設備6,000万円を10年で償却すると仮定して減価償却は年600万円。元金返済550万円を下回っているので、会計上の利益がゼロでも現金はぎりぎり回る計算になります。ただし、返済期間が設備の耐用年数より短いと減価償却が返済額を下回り、利益が出ていないと返済できない構造に逆転します。ユニットなど耐用年数の短い設備が多い歯科では、ここを確認せずに返済期間を決めてはいけません。
回収年数の計算は、こうなります。投資総額7,000万円を、分院の年間キャッシュフロー(税引後利益+減価償却)で割る。仮に分院の年間売上が7,000万円に達し、利益率が10%なら税引後でおよそ500万円前後、これに減価償却600万円を足した1,100万円が年間のキャッシュフロー。7,000万円÷1,100万円で、回収には約6.4年かかります。
銀行が見ているのは、この「6.4年」が返済期間の10年に収まっているか、そして分院の売上が7,000万円に達するまでの1〜2年を、本院の余力で支えられるかの2点です。
立ち上がり期間を「ゼロ」で計画する院長が多すぎる
正直に書きます。私が分院計画を見て最も多く直すのは、この部分です。
開院初月から損益分岐の売上が立つ前提で組まれた計画書が、本当に多い。本院の開業時を思い出してください。初月から月440万円の売上が立ちましたか。
分院は本院のブランドがあるぶん立ち上がりは早い傾向がありますが、それでも損益分岐に達するまで半年から1年は見ておく必要があります。その間の赤字を誰が埋めるか。それが「運転資金」であり、「本院の余力」です。この部分を計画書で正面から書いている院長は、銀行から信頼されます。赤字の期間を隠さず書ける計画書のほうが、通ります。これは経験上、間違いない。
本院の売上減少リスクを、数字で織り込む
院長が週に何日分院に行くのか。その分、本院の売上はいくら落ちるのか。
本院の売上が院長の診療に依存しているなら、院長が週2日分院に行けば、本院の売上は単純計算で4割近く落ちる可能性があります。この減少分を本院の計画に織り込んだ上で、「それでも本院の返済余力はこれだけ残る」と示す。ここまで書いた計画書を、私は銀行の担当者が「こういう計画書なら話が早い」と評した場面に立ち会っています。
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4. 自己資金と借入のバランスは、どう決めるのか?
結論から書きます。分院の自己資金は「投資額の何割」で決めるものではなく、「本院の手元資金を、いくらまで減らしていいか」から逆算するものです。開業時の「自己資金2〜3割」という目安を、そのまま分院に持ち込むと危険です。
理由は単純で、分院を出す院長には、守るべき本院があるからです。
開業時は、自己資金を全部入れても、失うものは自分の貯金だけでした。
分院では違います。本院の手元資金を分院に入れすぎると、本院の資金繰りが細り、分院の立ち上がりが遅れたときに両方が同時に苦しくなる。2院を同時に資金ショートさせる最短ルートが、「自己資金を頑張って多く入れること」なのです。
本院の手元資金は、月商の何か月分を残すか
私の体感では、本院の手元資金は、本院と分院を合わせた月間固定費の3か月分は残しておきたい。分院の立ち上がりが計画より半年遅れても、本院の資金で耐えられる水準がこのあたりです。
仮に本院の月間固定費が400万円、分院が350万円なら、合計750万円。その3か月分で2,250万円。本院の預金がこれを下回るほど自己資金を分院に入れるなら、自己資金を減らして借入を増やすほうが、経営としては安全です。
借入を増やすと、銀行の見方は悪くなるのか
ここは院長からよく聞かれる質問です。
「自己資金を多く入れたほうが、銀行の印象はいいんですよね?」
半分正解で、半分違います。自己資金の割合が高いほど銀行のリスクは下がるので、印象は良くなります。ただし銀行がそれ以上に嫌うのは、融資実行後に本院の預金残高が急に減ることです。銀行は融資先の預金の動きを見ています。自己資金を入れた翌月に本院の残高が底をつけば、「この医院は余力がない」という評価に変わります。
自己資金を多く入れて手元を薄くするより、自己資金を抑えて手元を厚く保ち、「手元資金はこれだけ残します。理由は分院の立ち上がりリスクへの備えです」と説明するほうが、返済ストーリーとしては筋が通ります。
公庫と銀行、どちらに、どう頼むか
開業時に日本政策金融公庫を使った院長は多いでしょう。分院でも公庫は選択肢になりますが、すでに1院の実績があるなら、本院の取引銀行をメインに据え、公庫を併用する形が現実的です。
理由は、本院の預金口座と返済実績を持っている銀行が、最も正確にあなたの医院を評価できるからです。その銀行が「本院の実績なら分院にも貸せる」と判断すれば、保証協会なしのプロパー融資で組める可能性も出てきます。プロパー融資への道筋は、こちらで詳しく書いています。
プロパー融資への3ステップ
ただし、デメリットも正直に書きます。メインバンク1行に集中させると、その銀行の姿勢が変わったときに逃げ場がなくなります。分院の融資をきっかけに2行目との取引を作っておくことは、3院目以降を考えるなら必要な布石です。
5. 医療法人化と分院は、どちらを先にすべきか?
結論から書きます。歯科の分院展開は、実務上ほぼ医療法人化が前提です。そして順序は、「法人化してから分院」が基本。ただし、法人化の手続きには時間がかかるため、分院の物件を探し始める前に法人化の段取りを始めないと、物件のタイミングに間に合わない、というのが現場で最も多い失敗です。
なぜ個人では分院が難しいのか
医療法では、診療所の開設者は原則として自らその診療所の管理者となることが求められ、複数の診療所を管理するには都道府県知事の許可が必要です。個人の院長が本院を管理しながら分院も管理する、という形は原則として認められません。
医療法人であれば、法人が開設者となり、各診療所に管理者(分院長)を置くことで複数の診療所を運営できます。だから分院を出すなら法人化、という話になるわけです。
法人化にかかる時間と、分院のタイミング
医療法人の設立は、都道府県への設立認可申請が必要で、申請の受付は多くの都道府県で年2回程度に限られています。申請から認可、登記、そして本院を法人に引き継ぐ手続き(個人の廃止と法人の開設)まで含めると、準備開始から法人として診療を始めるまで、私の体感では半年から1年を見ておく必要があります。
ここで起きる失敗が、「良い物件が出たから契約した。法人化はこれから」というパターンです。法人化が間に合わず、個人で分院を出せないまま家賃だけが発生する。あるいは、法人化を急いで本院の引き継ぎが雑になり、借入の引き継ぎや資産の移転で税務上の問題を抱える。どちらも、順序を間違えたことが原因です。
法人化は、銀行の見方にも影響する
銀行にとって、医療法人は「院長個人」と「医院」が分かれた存在になります。法人の決算書で医院の収益力が見えるようになり、理事長の報酬が経費として明確になる。これは銀行にとって審査しやすい形です。
一方で、法人化直後は法人としての決算書がまだ1期分しかありません。個人時代の確定申告書3期分と合わせて見てもらうことになりますが、銀行によっては「法人としての実績が浅い」と扱うところもあります。分院の融資を申し込む時点で、法人の決算を1期は終えていることが、審査を安定させる一つの目安です。
個人で借りていた開業時の借入を法人に引き継ぐ手続きも、分院の融資と同じ銀行で同時に進めるのが現実的です。ここで借入の引き継ぎを先送りにすると、個人の借入と法人の借入が混在し、銀行から見て「誰の借金か」が分からなくなります。
6. 分院で失敗する資金計画には、どんなパターンがあるのか?
結論から書きます。分院の資金計画で失敗する院長は、診療の腕が悪いわけではありません。計画の「順番」と「前提」を間違えているだけです。私が医療専門部の時代から見てきた中で、繰り返し出てくるのは次の3つです。
❌ 分院の資金計画で失敗する3パターン
その1:分院の売上で分院の返済をする前提で組む。立ち上がり期間を見込まず、開院初月から損益分岐を超える計画書。銀行はこの時点で「楽観的」と判定し、本院の余力で支えられるかを厳しく見始めます。分院の売上がゼロでも1年は本院で支えられる計画が、通る計画です。
その2:自己資金を入れすぎて、本院の手元資金を薄くする。「自己資金が多いほうが印象がいい」と本院の預金をぎりぎりまで入れた結果、分院の立ち上がりが遅れた半年後に本院の資金繰りが詰まる。2院同時に苦しくなる最短ルートです。手元資金は2院合計の固定費3か月分を下限に残してください。
その3:分院長が決まる前に、物件と融資を進める。「いい物件が出たから先に押さえた。先生はこれから探す」という順番。銀行は「誰が診るのか」が決まっていない計画を売上ゼロで評価します。分院長の採用は、物件より先。これは経験上、間違いない。
3つに共通しているのは、本院を守る視点が抜けていることです。分院を出す院長は、分院を成功させたい気持ちが強いぶん、本院の数字を軽く見がちです。しかし銀行が見ているのは本院であり、分院が失敗したときにあなたを支えるのも本院です。
7. 分院を出していい医院と、まだ早い医院の違いは何か?
結論から書きます。分院を出していい医院は、「院長が本院から週2日抜けても、本院の利益が返済をまかなえる医院」です。この条件を満たしていないなら、分院より先にやることがあります。
デメリット、というより、合わない医院のことも正直に書きます。
まだ早い医院の3つのサイン
一つ目。本院の売上の7割以上を院長自身が作っている医院。院長が抜けた瞬間に本院の数字が崩れるので、分院以前に、勤務医が売上を作る体制を先に整える必要があります。
二つ目。本院の既存借入の債務償還年数が、すでに10年を超えている医院。分院の借入を足せば、合算の償還年数はさらに伸びます。先に本院の収益を改善して償還年数を縮めるほうが、結果として分院の融資も通りやすくなります。
三つ目。本院の手元資金が月間固定費の3か月分を下回っている医院。分院を出すための自己資金がそもそもない状態で借入だけで分院を出すと、立ち上がりの遅れに耐えられません。
出していい医院が、先にやっておくこと
本院の担当医別の売上集計を1年分そろえること。法人化の段取りを始めること。取引銀行の担当者に「1〜2年以内に分院を考えている」と早めに伝えて、銀行側にも準備の時間を渡すこと。
私が監事として理事会で見ている限り、分院の計画がスムーズに通る法人は、例外なく計画を出す1年以上前から銀行と会話を始めています。物件が出てから銀行に駆け込む院長と、1年前から銀行に数字を見せている院長では、同じ決算書でも審査の速度と条件が変わります。
歯科医院の財務を、院長の意思決定の場で一緒に考える私の関わり方は、こちらのページで書いています。
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8. よくあるご質問(FAQ)
Q1. 個人のまま分院を出すことはできませんか?
医療法上、診療所の開設者は原則として自ら管理者となる必要があり、複数の診療所の管理者を兼ねるには都道府県知事の許可が必要です。実務上、歯科の分院展開は医療法人化して、法人が開設者となり各診療所に管理者を置く形で進めるのが一般的です。法人化の認可申請は受付時期が限られるため、分院を考え始めた時点で段取りを始めることをおすすめします。
Q2. 本院の借入が残っていても、分院の融資は受けられますか?
受けられる可能性は十分にあります。ただし審査は、本院の既存借入と分院の新規借入を合算して、本院の返済原資(減価償却前の利益)で何年で返せるかという物差しで行われます。本院の借入残高そのものより、合算した債務償還年数と、院長が分院に行くことで本院の売上がどれだけ落ちるかの見立てが評価を左右します。
Q3. 分院の自己資金は、投資額の何割が目安ですか?
開業時の「2〜3割」という目安を分院にそのまま当てはめるのは危険です。分院では守るべき本院があるため、本院と分院を合わせた月間固定費の3か月分を本院の手元に残した上で、出せる範囲を自己資金とする逆算が安全です。自己資金を増やして手元を薄くするより、手元を厚く残して理由を説明するほうが、銀行の評価としても筋が通ります。
Q4. 分院長(勤務医)が決まる前に、融資の相談をしてもいいですか?
相談自体は早いほど良く、1〜2年前から「分院を考えている」と伝えておくことをおすすめします。ただし、融資の正式な申し込みは分院長の候補が決まってからにしてください。「誰が診るのか」が決まっていない計画は、銀行から分院の売上を見込めない計画として扱われます。採用の見通しを持ってから申し込むほうが、結果として早く、良い条件で通ります。
Q5. 大阪の事務所のようですが、他府県の歯科医院でも相談できますか?
できます。当事務所は大阪市淀川区ですが、オンラインで全国対応しています。医療法人の設立認可は都道府県ごとに運用が異なるため、その点は個別に確認しながら進めます。本院の直近の決算書(または確定申告書)と借入の返済予定表を事前に共有いただければ、初回の45分で、銀行から見た御院の現在地と分院の借入余力の見立てまで具体的にお伝えします。
9. まとめ|分院の融資は「本院の決算書」が受ける審査
分院の融資は、開業融資の延長ではありません。
開業のときは、銀行はあなたという人を見て貸しました。
分院のときは、本院の決算書と、あなたがいない院の収支を見て貸します。
本院の返済余力。既存借入との合算。院長が抜けたときの本院の売上。分院長は誰か。立ち上がりの赤字を誰が埋めるか。法人化の順序。
ひとつひとつは難しい話ではありません。
ただ、これを診療の合間に、院長一人で組み立てるのは現実的ではない。院長の脳の余白は、診療と採用とスタッフの面倒で、もう埋まっているはずです。
私は税理士法人の医療専門部で歯科医院の経営改善に携わり、いまは社会医療法人の監事として、分院計画が理事会で審議される場に座っています。銀行がどこを見て、どこで首をかしげるかを、審査する側の席で見てきました。その目で、あなたの本院の数字と分院計画を一緒に見ることができます。
物件が出てから銀行に駆け込み、「本院の数字がこうだから」と条件を飲まされる分院展開になるのか。
それとも、1年前から本院の数字を整え、銀行に「この計画なら」と言わせてから物件を選ぶ分院展開になるのか。
分かれ目は、今日、本院の決算書を誰と一緒に見るかです。
「銀行から見た御院の現在地」と「分院の借入余力」を、物件が決まる前に一緒に確認しませんか
本院の直近の決算書(または確定申告書)と借入の返済予定表があれば、45分の無料相談で、本院の返済余力、院長依存度、分院の借入余力の見立て、法人化の段取りまで、具体的にお話しします。物件を見始める前の医院ほど、打てる手は多くなります。
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この記事を書いた人
稲田光浩(いなだ みつひろ)
税理士/稲田光浩税理士事務所 代表
年商1〜10億の成長企業オーナー専門・認定経営革新等支援機関・freee認定アドバイザー
- 顧問先:成長期の中小企業・スタートアップ・医療歯科・飲食等
- 税理士法人の医療専門部で歯科医院・医療法人の税務と経営改善支援に従事(独立前)
- 監査役:東京プロマーケット 上場準備中の企業 1社
- 監事:社会医療法人 1法人
- 経営会議・取締役会への参加経験:複数社
- プロジェクト型支援領域:経営ダッシュボード設計・構築/経営計画策定/資金調達伴走/経理業務フロー改善/AI活用設計
〒532-0011 大阪市淀川区西中島4-2-21 ミツフ新御堂筋ビル605


