決算は黒字。返済も一度も遅れたことがない。
それなのに、なぜか最近、銀行員の反応が前より少しよそよそしい——そう感じていないでしょうか。
気のせい、で片づけていい話ではないかもしれません。
銀行の中で、あなたの会社は内部格付け(信用格付け)という点数で管理されています。そしてこの点数は、決算書の良し悪しだけで決まるものではありません。社長が日々「良かれ」と思ってやっている行動が、知らないうちに評価を一段ずつ削っていることが、現場では本当に多いのです。
私は税理士であり、国が認定する認定経営革新等支援機関として、社長と一緒に経営改善計画を作り、それを銀行に通してきました。東京プロマーケット上場準備中の企業の監査役、社会医療法人の監事を務め、複数社の経営会議・取締役会に同席しています。40社を超える財務の現場で、銀行が「この会社をどう見ているか」を、審査を受ける側ではなく設計する側の目で見てきました。
この記事では、年商5〜10億の製造業・卸売業の社長が、悪気なくやってしまう銀行評価を下げる5つのNGを、正直に書きます。派手な失敗ではありません。むしろ「真面目な社長ほどやってしまう」種類の行動ばかりです。
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1. 銀行の「評価」は、そもそもどこで決まっているのか?
結論から書きます。銀行の評価は、決算書という「点」ではなく、社長の日々の振る舞いを含めた「線」で決まっています。ここを誤解していると、決算だけ良くしても評価が上がらない理由が見えません。
銀行は取引先ごとに内部格付けという点数をつけ、そこから「正常先」「要注意先」といった区分に振り分けています。一般的には、おおむね次のような並びです。
| 区分 | おおまかな状態 | 融資への姿勢 |
|---|---|---|
| 正常先 | 業績・財務ともに問題が小さい | 前向きに検討 |
| 要注意先 | 何らかの懸念がある | 条件が厳しくなる傾向 |
| 要管理先 | 返済に懸念がある | 新規は止まりやすい |
| 破綻懸念先以下 | 状況が深刻 | 回収を意識した対応へ |
私の体感では、この格付けが1区分下がるだけで、金利の交渉余地は狭まり、新規の借入は途端に重くなります。区分の細かい数字や社内基準は銀行ごとに違うので、ここは「傾向」として押さえてください。
大事なのは、この点数が「定量」と「定性」の2つで組み上がっているということです。定量は決算書の数字そのもの。ここは動かしにくい。一方の定性は、経営者の資質、数字を語れるか、報告が丁寧か、といった日々の振る舞いです。そして、これから挙げる5つのNGは、その多くが定性、あるいは「本当は動かせたはずの定量」を、社長自身が悪気なく削ってしまっている行動なのです。
2. NG①:期末の「節税」で、利益を消していないか?
まず、いちばん多いNGから書きます。期末に慌てて「利益を消す節税」をやりすぎることです。真面目な社長ほど、これをやってしまう。
決算前に利益が出そうだと分かると、税金を減らしたい一心で、駆け込みの設備購入、生命保険、決算賞与、前倒しの経費——と手を打つ。気持ちは痛いほど分かります。目の前の納税額は、確かに減ります。
ただ、銀行は逆側からこの決算書を見ています。銀行が返済能力の指標として重く見るのが債務償還年数——「今ある借入を、毎年の利益(キャッシュ)で割ると、返し切るのに何年かかるか」です。利益を消せば、この分母が小さくなり、償還年数は伸びます。私の体感では、目安として10年を超えるあたりから審査側は警戒しはじめる傾向があります。
つまり、節税で守った現金より、失った信用のほうが高くつくことがある。税金を100万円単位で減らした代わりに、借りられたはずの何千万円が借りにくくなる、という取り違えです。ここは税理士の腕の見せどころで、「残すべき利益」と「落としていい経費」を分けて設計しないといけません。債務償還年数の考え方は債務償還年数の読み方|銀行員の頭の中の”ものさし”を握るで詳しく書いています。
言葉を選ばずに書きます。成長期に借入で勝負する会社にとって、行きすぎた節税は「税金を減らす行為」ではなく、「銀行からの調達力を、自分で削る行為」になりかねません。
3. NG②:メインバンク1行に、すべてを預けていないか?
2つ目は、取引を1行に集中させすぎることです。これも「あの銀行には長く世話になっているから」という義理堅い社長ほど陥ります。
1行取引は、平時は楽です。窓口が1つで済むし、担当者との関係も深くなる。ただ、その1行の融資姿勢が変わった瞬間——担当者が代わった、支店の方針が変わった、業界全体の与信が絞られた——に、逃げ場がなくなります。私が現場で何度も見てきたのは、「メインが渋くなった途端、他に相談できる銀行が一行もなかった」という状態です。
銀行側から見ても、1行取引の会社は「他行から評価されているのか分からない会社」に映ることがあります。複数行が適切に取引している会社のほうが、むしろ「よそも貸しているなら」と安心材料になる面がある。ここは直感に反するところです。
成長期に持っておきたいのは、民間銀行に加えて、日本政策金融公庫という別ルートを平時から動かしておくことです。金利や審査の目線が民間と違うため、いざという時の備えになります。公庫と地銀の使い分けは日本政策金融公庫と地方銀行の使い分けで整理しています。
晴れている今のうちに、2行目・3行目との関係を細くでも作っておく。雨が降ってから傘を探しても、もう間に合わないことが多いのです。
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4. NG③:決算書だけ渡して、試算表を止めていないか?
3つ目は、銀行に決算書しか渡していないことです。「決算のときに一式出しているから十分だろう」——そう思っている社長は少なくありません。
ですが、銀行員から見れば、決算書は1年前の姿です。決算から次の決算までの丸1年、その会社が今どうなっているのかを示す資料がないと、銀行は「暗い部屋の中を手探りしている」状態に置かれます。人は、見えないものを警戒します。銀行も同じです。
ここを埋めるのが、月次試算表です。毎月あるいは四半期ごとに、最新の試算表を自分から渡している会社は「透明性が高く、数字を管理できている」と評価されやすい。逆に、決算のときしか数字が出てこない会社は、意図せず「何か見せたくないものがあるのでは」という色眼鏡で見られることがあります。隠しているつもりがなくても、です。
製造・卸のように在庫や売掛が大きく動く業種では、この差がとくに効きます。試算表で在庫や売掛の動きを説明できる会社と、決算まで数字がブラックボックスの会社とでは、同じ業績でも銀行の安心感がまるで違う。決算書のどこを銀行が見ているかは経営者のための決算書の読み方にまとめました。
試算表を出すことは、手の内をさらす行為ではありません。「この会社は管理できている」という一番安い信用の積み立てです。
5. NG④:自社の数字を、自分の言葉で語れているか?
4つ目は、面談で数字を税理士や経理任せにして、社長自身が語れないことです。これは意外なほど評価に効きます。
銀行員は、数字そのもの以上に「経営者が自社の数字を分かっているか」を見ています。融資面談で「そのあたりは税理士に聞いてもらえれば」と社長が答えた瞬間、審査側の心の中で評価が一段下がる——この場面を、私は何度も見てきました。他人が作った計画を持ってきた社長、と受け取られてしまうのです。
逆に、粗利率がなぜ動いたのか、来期の売上をどう積むのか、借りたお金を何で返すのかを、社長が自分の言葉でぼそぼそとでも語れると、銀行は前のめりになります。数字の巧拙より、自分の会社の数字を握っている当事者かどうかを見ているからです。
ここで完璧なプレゼンは要りません。必要なのは「資金使途(何に使うか)」と「返済原資(何で返すか)」の2つの筋を、自分の口で通せること。この2つが語れるだけで、面談の空気は変わります。銀行に伝わる計画の骨格は銀行に伝わる事業計画書の書き方|押さえるべき5要素で整理しています。
銀行融資は”数字の審査”であると同時に、“返済ストーリーの審査”です。そのストーリーの語り手は、税理士ではなく、社長本人でなければ意味がありません。
6. NG⑤:短期の運転資金を、設備に回していないか?
5つ目は、資金の「使い道」と「借り方」がねじれていることです。具体的には、短期の運転資金として借りたお金を、機械や工場といった長期の設備に回してしまう。製造業でとくに起きやすいNGです。
設備は、何年もかけて利益を生みながら回収していく資産です。それを、1年以内に返す前提の短期資金でまかなうと、「回収する前に返済期限が来る」という無理な構造になります。手元は一時的に回っているように見えても、返済のたびに資金繰りが締めつけられ、いずれ別の借入で穴を埋める自転車操業に近づいていきます。
そして銀行は、この構造を決算書から読み取ります。短期借入で長期資産を買っている会社は、審査側から見れば「資金繰りの設計ができていない会社」です。悪気なくやっていても、財務の基本を外していると受け取られてしまう。
正しくは、設備投資には長期の設備資金を、日々の仕入や人件費の立て替えには運転資金を、と資金の性質と借入の期間を合わせるのが原則です。当たり前に聞こえて、成長のスピードが速い会社ほど、目先の資金でその場を凌いでいるうちに、ここがねじれていきます。
資金使途と返済期間を整えるだけで、追加の利益を1円も出さずに、銀行から見た財務の見え方が変わることがあります。ここは「稼ぐ」より先に「整える」で効く領域です。
❌ ここで多くの社長が失敗するパターン
評価が下がったと感じた時に、いきなり銀行の担当者へ「うちの格付け、下げましたよね?下げないでください」と直談判すること。担当者に格付けの決定権はなく、この直談判は関係を悪くするだけで評価は動きません。評価は、直談判ではなく、ここまでの5つのNGを一つずつ潰し、試算表と数字の説明を積み上げることでしか戻りません。近道を探すほど遠回りになります。
7. この5つを直しても、評価が戻りにくい会社はあるのか?
正直に書きます。あります。ここを隠して「直せば必ず上がります」と言うのは、無責任だと思うからです。
1つ目は、本業がそもそも赤字で、利益の出る構造になっていない会社。この場合、試算表を出しても数字を語っても、審査側が見る根っこ(返済能力)が弱いままです。必要なのは銀行対応の改善より先に、事業の採算そのものの立て直しです。順番を間違えると、化粧だけして体調不良を放置することになります。
2つ目は、すでに実質的な債務超過に近く、複数行から新規を止められている会社。ここまで来ると、5つのNGを直す段階ではなく、既存借入の返済条件の見直し(リスケ)を含む抜本的な立て直しのフェーズです。打ち手の種類が変わります。
3つ目は、社長自身が数字と向き合う気がまだない会社。厳しい言い方ですが、これは相性の問題です。試算表も面談も「面倒だ、税理士に丸投げしたい」という前提のままでは、どんな手法も定着しません。逆に言えば、この記事をここまで読んでいる時点で、あなたはもう向き合う気のある社長です。
自社がどれに当たるのか——単に振る舞いを直せば戻る段階なのか、構造から作り直す段階なのか。その見極めこそが、外部の目に相談する一番の価値です。すでに融資を断られた後の立て直しについては銀行融資を断られた次の一手で詳しく書いています。
8. よくあるご質問(FAQ)
Q1. 銀行の内部格付けを、自分で知る方法はありますか?
正式には開示されません。ただ、債務償還年数・自己資本比率・営業利益といった審査側が重く見る数字を自社の決算で採点し直すと、おおよその位置は見当がつきます。担当者との会話のトーンや、金利・条件の提示のされ方も手がかりになります。より正確に知りたい場合は、決算書を前に専門家と一緒に見ると特定しやすくなります。
Q2. 節税と銀行評価は、どうバランスを取ればいいですか?
「残すべき利益」と「落としてよい経費」を分けて設計するのが基本です。近い将来に借入で勝負したい会社ほど、利益を無理に消さず、債務償還年数を悪化させないことを優先したほうがよい場面が多くなります。逆に、当面は大きな借入予定がない会社なら、節税の比重を上げる判断もあり得ます。会社の資金計画とセットで決めるべきで、税額だけを見て決めるのは危険です。
Q3. 試算表は、顧問税理士が月次で作っていない場合はどうすれば?
まずは四半期ごとでも構わないので、最新の数字を銀行に出せる体制を作ることが先決です。顧問税理士が月次に対応していないなら、月次と銀行対応を含めた支援ができる税理士に切り替えるか、社内で簡易な月次を回す仕組みを整える方法があります。頻度より「決算以外にも数字を出している」という事実が効きます。
Q4. すでに評価が下がった実感があります。どのくらいで戻りますか?
会社の状況によりますが、振る舞いの問題(試算表・数字の説明・銀行対応)が中心なら、私の体感では半年から1年ほどで銀行の反応が変わってくることが多いです。試算表の提出を続け、資金使途と返済原資を自分の言葉で語り、必要なら経営改善計画を添える。この積み上げが評価を戻します。ただし本業の採算そのものに問題がある場合は、より時間がかかります。
Q5. メインバンクとの関係を保ちつつ、他行や公庫と付き合っても失礼になりませんか?
なりません。複数の金融機関と適切に取引することは、成長企業ではむしろ健全な姿と受け止められます。メインバンクを大切にしつつ、日本政策金融公庫や2行目との関係を平時から細く持っておくことは、いざという時の備えであり、メインへの不義理にはあたりません。多くの社長がこの選択肢を知らずに1行に依存しています。
Q6. 大阪以外の会社でも、銀行評価の相談はできますか?
できます。当事務所は大阪市淀川区ですが、オンラインで全国対応しています。決算書と直近の試算表を事前に共有いただければ、初回から「銀行から見た貴社の評価」と、下がっている点の直し方について具体的に議論できます。
9. まとめ|評価は、日々の振る舞いの積み上げで決まる
銀行評価を下げる5つのNGを、最後に整理します。どれも、真面目な社長ほどやってしまう行動です。
- NG①——期末の行きすぎた節税で利益を消し、債務償還年数を自分で悪化させる
- NG②——メインバンク1行に集中し、いざという時の逃げ場を作っていない
- NG③——決算書だけ渡して試算表を止め、銀行を暗闇に置いている
- NG④——自社の数字を税理士任せにして、社長が自分の言葉で語れない
- NG⑤——短期の運転資金を長期の設備に回し、資金繰りの構造をねじらせている
共通しているのは、どれも「悪意」ではなく「知らなかっただけ」だということです。逆に言えば、知って一つずつ潰していけば、追加の利益を出さなくても、銀行から見た会社の姿は確実に変わります。評価とは、決算の一発勝負ではなく、日々の振る舞いの積み上げなのです。
知らないまま同じ行動を続け、来年もまた「なぜか銀行員の反応が冷たい」と感じながら資金繰りに気を揉むのか。それとも、今日この5つを点検して、銀行と対等に向き合える社長になるのか。その分かれ目は、会社の規模でも景気でもなく、心当たりのあった一つを、今すぐ直しにいくかどうかです。
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節税と調達力のバランス設計、取引銀行のポートフォリオ、月次試算表の運用、資金使途と借入期間の整理、経営者保証の見直し——銀行から見た会社の評価を上げ続ける意思決定を、税理士業務の枠を超えて一気通貫で伴走するのが Luxe Partners です。一度直して終わりにせず、評価が下がらない財務構造が固まるところまで、社外CFOとして毎月の経営会議で並走します。
この記事を書いた人
稲田光浩(いなだ みつひろ)
税理士/稲田光浩税理士事務所 代表
年商1〜10億の成長企業オーナー専門・認定経営革新等支援機関・freee認定アドバイザー
- 顧問先:成長期の中小企業・スタートアップ・医療歯科・飲食等
- CFO顧問の伴走実績あり、新規CFO顧問の受付を再開しています
- 監査役:東京プロマーケット 上場準備中の企業 1社
- 監事:社会医療法人 1法人
- 経営会議・取締役会への参加経験:複数社
- プロジェクト型支援領域:経営ダッシュボード設計・構築/経営計画策定/資金調達伴走/経理業務フロー改善/AI活用設計
〒532-0011 大阪市淀川区西中島4-2-21 ミツフ新御堂筋ビル605


