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会社には現金がある。でも自分の通帳には、たいして入っていない。
社長個人の資産と会社の資産は別物です。別物なのに、多くの社長は会社のほうだけ見ています。会社に3,000万円あるから安心だ、と。そのお金は、自分のものではありません。
ここでは、毎年コツコツ積む方法を5つ並べます。退職のときに一度に受け取る話(役員退職金)は別の記事にあるので、そこに至るまでの何年か、何に積んでおくかという話です。
先に結論を書きます。税優遇のある箱に、年間390万円まで積めます。ただし、積んだお金が貯まる場所は同じではありません。そこを分けないまま始めると、あとで困ります。
お金が貯まる場所は、3つに分かれます
ここが一番大事なところなので、先に整理します。「節税になります」と勧められた商品が、どの箱に入るのかを見分けてください。
A 個人に貯まる
小規模企業共済
企業型DC
解約・受取の権利が社長個人にある。会社が倒れても残る
B 会社に貯まる
倒産防止共済
法人契約の保険
解約したお金は会社に入る。個人のものにするには、もう一段必要
C 出ていく額を減らす
役員社宅
貯まるわけではないが、個人の支出が減る。実質的に手取りが増える
よくある誤解が、Bを「自分の資産ができた」と思ってしまうことです。倒産防止共済に800万円積んでも、それは会社のお金です。個人に移すには、退職金なり役員報酬なりの形で、もう一度出口を通る必要があります。
Aだけが、はじめから個人のものです。
全部足すと、年間390万円まで
税優遇のある箱の枠を並べます。
| 箱 |
どこに貯まる |
年間の上限 |
税の扱い |
| 小規模企業共済 |
A 個人 |
84万円(月7万円) |
個人の所得控除 |
| 企業型DC |
A 個人 |
66万円(月5.5万円) 2026年12月から74.4万円 |
会社の損金。個人には課税されない |
iDeCo ※企業型DCを入れない場合 |
A 個人 |
27.6万円(月2.3万円) 2026年12月から74.4万円 |
個人の所得控除 |
| 倒産防止共済 |
B 会社 |
240万円(月20万円) |
会社の損金 |
合計 ※企業型DCとiDeCoは枠を食い合うため、両方満額にはなりません |
— |
390万円 2026年12月から398.4万円 |
|
| 役員社宅 |
C 支出減 |
家賃による |
会社の経費 |
年390万円の内訳(どこに貯まるかで色が違います)
共済 84万
DC 66万
倒産防止共済 240万
■ 青=個人に貯まる(150万円) ■ 金=会社に貯まる(240万円)
一番大きい倒産防止共済が、個人の資産ではないことに注意してください。
10年続ければ、個人の箱に1,500万円、会社の箱に2,400万円です。ただし倒産防止共済は掛金総額800万円が上限なので、こちらは3年半ほどで満額になります。
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同じ600万円を、3人の社長が10年間ちがう方法で貯めたら
枠の話だけだと決めにくいので、同じ条件で並べてみます。
共通の前提:社長は50歳、60歳で退職(勤続30年)。毎年、税引前の利益から600万円を将来の自分のために回せる。運用は年6%。法人の実効税率33%、社長個人の所得税・住民税の限界税率43%。
※これはモデルケースであって、実在の会社ではありません。数字は一定の前提を置いた試算です。
もし600万円を10年、6%で素直に回せたら7,908万円になります。これがひとつの目安です。実際には、どの箱を通すかで手元に残る額が変わります。
A社長 ― 法人税を払って、会社に貯める
いちばん素直なやり方です。利益として計上し、法人税を払い、残りを会社に置いておく。
毎年600万円のうち、法人税で198万円が出ていきます。残る402万円を会社で運用しますが、会社の運用益にも毎年法人税がかかります。6%で回しても、手元に効く利回りは4.02%です。
| 毎年、会社に残る額 |
4,020,000円 |
| 10年後、会社にある額 |
48,309,337円 |
| 退職金で受け取ったときの税 |
5,708,666円 |
| 個人の手取り |
42,600,671円 |
B社長 ― 法人契約の保険(変額)で貯める
保険料として払うので、一部が会社の経費になります。どれだけ経費になるかは最高解約返戻率で決まります(法人税基本通達9-3-5の2)。
| 最高解約返戻率 |
当初の資産計上 |
経費になる割合 |
| 50%以下 |
なし |
全額 |
| 50%超70%以下 |
40% |
60% |
| 70%超85%以下 |
60% |
40% |
| 85%超 |
最高解約返戻率×90%(開始から10年) |
わずか |
ここでは70%超85%以下、つまり経費になるのが40%のタイプで計算します。
B社長が有利になる理由は、節税そのものではありません。600万円が法人税を引かれずに、まるごと保険の中で回るからです。A社長が402万円からスタートするのに対して、B社長は600万円からスタートします。
|
費用を考えない6% |
保険関係費1.5%を引いた4.5% |
| 10年の保険料 |
60,000,000円 |
60,000,000円 |
| 経費になった累計(40%) |
24,000,000円 |
24,000,000円 |
| 法人税が軽くなった累計 |
7,920,000円 |
7,920,000円 |
| 解約返戻金 |
79,084,770円 |
73,729,256円 |
| うち益金(返戻金−資産計上額) |
43,084,770円 |
37,729,256円 |
| 退職金で受け取った手取り |
65,649,139円 |
61,654,997円 |
数字だけ見ればA社長より多く残ります。ただし、次の3つを外さないでください。
ひとつ。経費になった分は、出口で戻ってきます。解約返戻金のうち資産計上していない部分は、その年の利益になります。この例では4,308万円。何も考えずに解約すれば、そこに法人税がかかります。退職金と同じ年にぶつけて初めて成立する話です。節税ではなく、課税の繰り延べです。
ふたつ。6%は前提であって、約束ではありません。変額保険は特別勘定で運用されるので、成績が悪ければ返戻金は減ります。上の表で費用を1.5%引いただけで、手取りが約400万円変わっています。保険関係費は商品によってかなり違うので、設計書に書かれた前提利回りではなく、費用を引いたあとの数字で比べてください。
みっつ。40か月や10年の途中でやめると、大きく割れます。業績が落ちた年に払えなくなるのが、この手の商品で一番多い失敗です。
C社長 ― 制度の箱に、枠の分だけ入れる
小規模企業共済・企業型DC・倒産防止共済に、入る分だけ入れる。残りはA社長と同じように会社に置きます。
| 箱 |
年額 |
10年後 |
貯まる場所 |
| 企業型DC(6%・運用益は非課税) |
660,000円 |
8,699,325円 |
個人 |
| 小規模企業共済(予定利率1%と仮定) |
840,000円 |
8,788,259円 |
個人 |
| 倒産防止共済(上限800万円で頭打ち) |
2,400,000円 |
8,000,000円 |
会社 |
| 残り(法人税後に会社で運用) |
2,100,000円 |
16,908,268円 |
会社 |
| 個人の箱に直接 |
17,487,583円 |
|
| 会社にあるもの |
24,908,268円 |
|
加えて、小規模企業共済は社長個人の所得から全額が控除されるので、10年で361万円ほど個人の税が軽くなっています。この分は上の表に出てきません。
C社長の弱点は、はっきりしています。枠が小さい。個人の箱に入るのは年150万円までで、残り450万円の行き先はA社長かB社長と同じ問題に戻ります。
強いのは税の通り方です。企業型DCは運用益が非課税で、受け取るときは退職所得。法人税の段階を一度も通りません。小規模企業共済は個人が払いますが、その分まるごと所得控除になります。
並べてみると
10年後、個人の手元に届く額(同じ600万円/年・同じ6%)
B社長 保険(費用を考えない6%) 6,565万円
B社長 保険(費用1.5%を引いた4.5%) 6,165万円
A社長 会社に貯める 4,260万円
C社長 制度の箱+残りは会社 個人の箱に1,749万円/会社に2,491万円
C社長の棒は、青=個人の箱と金=会社に貯まった分に分かれています。会社の分は、退職金として出して初めて個人に届きます。
この比較から言えること
順位をつけたいところですが、そういう話ではありません。読み取るべきはここです。
差を生んでいるのは利回りではなく、「法人税を払う前に回せるかどうか」です。A社長は毎年33%を引かれてから運用を始めます。B社長とC社長のDC部分は、引かれる前の金額から始まります。10年続くと、これが数千万円の差になります。
もうひとつ。B社長が有利に見えるのは、出口がうまくいった場合です。解約益を退職金でぶつけられなければ、繰り延べた税が一度に戻ってきます。退職の時期と解約の時期を合わせられるかどうかが、この方法の成否を決めます。
そしてC社長の企業型DCだけが、運用益にも課税されません。枠は小さいものの、税の扱いという点ではいちばんきれいです。
現実的には、C社長の枠を先に埋めて、残りをA社長かB社長の形にする、という組み方になります。
退職金とDCを両方受け取る場合の注意
役員退職金と企業型DCの一時金を両方受け取るとき、退職所得控除がそのまま2回使えるわけではありません。
所得税法30条6項と同施行令70条で、受け取る順番と間隔によって調整されます。役員退職金を先に受け取った場合、その後19年内に受け取るDC一時金は、重複する期間の控除が差し引かれます。逆にDC一時金を先に受け取った場合は9年内が調整の対象で、こちらは令和8年1月1日以後に支払を受けたものから適用されています。
つまり「60歳で退職金、65歳でDC一時金」という順番だと、DC側の控除はほとんど残りません。受け取り方を決めるのは、積み始めるときです。後から順番だけ変えるのは難しい。
① 小規模企業共済 ― 個人のポケットに直接入る
5つのなかで、最初に検討するものです。理由は単純で、積んだお金がはじめから個人のものだからです。
掛金は月1,000円から7万円まで、500円単位で選べます。あとから増額も減額もできます。
税の扱いが少し変わっていて、会社の損金ではなく、社長個人の所得控除になります。社長が自分の財布から払って、自分の所得から引く形です。年84万円を払えば、その分だけ課税される所得が減ります。
加入できるのは、業種によって従業員数の上限が決まっています。
| 業種 |
常時使用する従業員数 |
| 商業(卸売・小売)、サービス業(宿泊・娯楽を除く) |
5人以下 |
| 建設業、製造業など |
20人以下 |
会社の役員が対象です。従業員が増えると入れなくなるので、小さいうちに入っておくほうがいい制度でもあります。あとから「入れませんでした」となるのが、いちばんもったいない。
→ 小規模企業共済とは?掛金上限7万円・全額所得控除・受取時の税金
② 企業型DC ― 会社が払って、個人の資産になる
こちらは逆で、会社が掛金を払い、会社の経費になります。しかも払った時点で、社長個人には給与として課税されません。
ここが役員報酬との大きな違いです。役員報酬で同じ金額を受け取れば、所得税・住民税・社会保険料がかかります。企業型DCの掛金なら、かかりません。
上限は月5.5万円です。正確には、確定給付企業年金などの他の企業年金をやっていれば、その分を差し引いた額になります(2024年12月1日から計算方法が変わりました)。多くの中小企業は他の企業年金をやっていないので、月5.5万円と考えて差し支えありません。
ここで「2.3万円では」「2.75万円では」と思われた方。どちらも実在する数字ですが、別のものです。2.3万円はiDeCoの枠、2.75万円は確定給付企業年金などを併用している会社の、企業型DCの以前の上限です。次の見出しで整理します。
2026年12月から、月6.2万円に上がります
厚生労働省が公表している改正です。年間では66万円 → 74.4万円。この記事の「年390万円」も、12月からは年398.4万円になります。本人が上乗せするマッチング拠出の枠も同時に広がります。これから始めるなら、6.2万円で設計してください。
注意点は2つ。
ひとつは、受け取れるのが原則60歳からだということ。しかも60歳の時点で加入期間が10年に満たないと、受給開始が61歳から65歳まで繰り下がります。58歳から始めると、受け取りは65歳です。
もうひとつは、社長だけのために入れる制度ではないこと。従業員がいる会社で導入するなら、規約を作り、運営管理機関を決め、従業員に運用商品の説明をする必要があります。社長一人の会社でなければ、それなりの手間がかかります。
→ 確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金(DC)の違い/中退共と企業型DC、どちらにするか
③ iDeCo ― 会社に制度を作らずに、社長個人で積む
企業型DCには弱点があります。会社が制度を作らないといけない。規約を用意し、運営管理機関を決め、従業員に運用商品の説明をする。従業員がいる会社なら、それなりの手間と時間がかかります。
「そこまでやる余力はない」という場合の現実解が、iDeCo(個人型確定拠出年金)です。社長が自分で申し込むだけで始まります。会社の制度は要りません。
枠は、会社に企業年金があるかどうかで変わります。
| その人の状況 |
いまの上限(月額) |
2026年12月1日から |
| 会社に企業年金がない |
2.3万円 年27.6万円 |
6.2万円 年74.4万円 |
| 企業型DCに加入している |
2.0万円 ※会社の掛金との合計が月5.5万円の範囲内 |
6.2万円から会社の掛金を引いた額 |
| 確定給付企業年金等に加入している(公務員を含む) |
2.0万円 |
6.2万円から他制度の掛金相当額を引いた額 |
| 自営業者等(第1号被保険者) |
6.8万円 ※国民年金基金等との合算枠 |
7.5万円 |
掛金は全額が社長個人の所得控除になります(小規模企業共済等掛金控除)。小規模企業共済と同じ枠組みで、両方を使えます。
iDeCoの枠は、2026年12月1日から大きく変わります
企業年金がない会社の役員は、月2.3万円が6.2万円へ。年間では27.6万円が74.4万円になります。自営業者等は6.8万円が7.5万円へ。確定拠出年金法施行令36条の改正(令和7年政令第442号)で、施行日は令和8年12月1日です(令和7年政令第441号)。
会社に企業型DCを作らなくても、社長個人で年74.4万円積めるようになります。制度を作る手間と天秤にかける意味が、12月からかなり薄くなります。
注意が1つ。企業型DCを入れると、iDeCoの枠は小さくなります。会社の掛金で月5.5万円を使い切ると、iDeCoには入れられません。両方を満額、とはいきません。
|
企業型DC |
iDeCo |
| 枠(年) |
66万円 2026年12月から74.4万円 |
27.6万円 2026年12月から74.4万円 |
| 払う人 |
会社 |
社長個人 |
| 税の効き方 |
会社の損金。個人に課税されない |
個人の所得控除 |
| 始めるのに必要なこと |
規約・運営管理機関・従業員への説明 |
申込書を出すだけ |
| 向いている会社 |
従業員にも使わせたい。枠を大きく取りたい |
社長ひとり、または手間をかけられない |
いまは枠だけ見れば企業型DCですが、制度を作れずに何年も先延ばしにするくらいなら、iDeCoを今月から始めるほうが残ります。年27.6万円でも、10年で276万円です。
そして12月からは、枠の差もなくなります。会社に制度を作らずに年74.4万円。社長ひとりの会社なら、企業型DCを作る理由はほとんど残りません。
④ 倒産防止共済 ― これは会社に貯まります
枠がいちばん大きいのがこれです。月20万円まで、年240万円。掛金は全額が会社の経費になります。
ただ、冒頭で書いたとおり、これで貯まるのは会社のお金です。個人の資産にはなりません。
そして出口に注意が要ります。解約して受け取るお金(解約手当金)は、そのまま会社の利益になります。何も考えずに解約すると、その年にまとめて課税されます。
2024年10月の改正で、解約してから2年間は、再加入しても掛金を経費にできなくなりました。「一度解約して、また入り直す」という使い方ができなくなっています。
掛金総額800万円が上限で、40か月以上掛けていれば解約時に100%戻ります。逆に言えば、40か月に届かないうちに解約すると元本割れします。
使い方としては、退職金を出す年に解約して、利益と相殺するのが基本です。解約手当金で利益が増え、退職金で利益が減る。両方を同じ年にぶつけます。出口を決めずに積み始めるのは、おすすめしません。
→ 倒産防止共済とは?損金の2年縛り・掛金上限800万円・出口設計まで
⑤ 役員社宅 ― 貯めるのではなく、出ていく額を減らす
これだけ性質が違います。積み立てではありません。
社長の自宅を会社名義で借りて、社長から一定額を徴収する。差額が会社の経費になります。社長個人から見れば、家賃の負担が減ります。
月15万円の家賃で、個人負担が3万円で済めば、月12万円。年144万円の手取りが増えたのと同じことです。しかも役員報酬を増やす場合と違って、所得税も社会保険料もかかりません。
ここで多くの会社が損をしています。「家賃の50%を払っておけば安全」と言われて、半分も負担している会社は、たいてい取り過ぎです。小規模な住宅に当たる場合、正しく計算した金額は家賃の50%をまず下回ります。
→ 役員社宅で節税|家賃の何割を会社負担にできる?/賃貸物件の固定資産税課税標準額の取得方法
⑥ 役員退職金 ― 最後に、まとめて移す
自社の枠は、その場で出せます
最終報酬月額・使用人期間・役員期間・功績倍率を入れるだけで、枠の目安と手取りが出ます。退職所得控除は使用人期間も通算、2分の1の判定は役員期間と、条文どおりに分けて計算しています。
▶ 役員退職金の枠と手取りを試算する
ここまでの4つは、毎年少しずつの話でした。最後にまとめて個人へ移すのが役員退職金です。
税の負担がいちばん軽い受け取り方で、勤続30年で1億円を受け取った場合、手取りは8,112万円になります。同じ1億円を役員報酬で受け取ると、約5,000万円です。
ただし、いくらでも出せるわけではありません。不相当に高額な部分は会社の経費になりません。そして何より、払う現金が会社になければ出せません。
①〜③で積んできたものは、この日のための原資でもあります。
→ 役員退職金1億円の手取りはいくらか|会社のお金を個人に移す3つのルート
この3つは、よく見かけます
❌ 会社に貯まったお金を、自分の資産と思っている……倒産防止共済も法人保険も、解約すれば会社に入ります。個人のものにするには、もう一度出口が要ります
❌ 枠が大きい順に始める……倒産防止共済の240万円から始めがちですが、出口を決めていないと、解約した年に課税されて終わります
❌ 資金繰りを見ずに全部やる……年390万円は、毎月32万円が出ていくということです。固定費が増えて、損益分岐点が上がります
どれから手をつけるか ― 年齢と規模で変わります
ここが実際の判断です。全部やる必要はありませんし、全部できる会社も多くありません。
年齢で見る
| 社長の年齢 |
優先順位 |
考え方 |
| 40代 |
① 小規模企業共済 → ② 企業型DC → ④ 役員社宅 |
時間があるので、個人に貯まる箱から。DCは60歳まで引き出せないが、20年あるなら問題にならない |
| 50代前半 |
① → ④ → ② → ③ |
DCはまだ間に合う(60歳時点で10年を確保できる)。退職金の規程作りもこの時期に |
| 50代後半 |
① → ④ → ③ |
DCは受取開始が繰り下がるので慎重に。倒産防止共済は退職金の年に解約する前提で |
| 60代 |
④ → ⑤(規程と原資) |
いまから積むより、出口の設計が先。規程・決議・資金繰り・自社株評価をまとめて |
60代の方へ。「もう遅い」ということはありません。ただし積む話ではなく、出すときの設計の話になります。規程がない、決議の準備がない、払う現金がない。この3つのどれかで止まっている会社がほとんどです。
会社の規模で見る
| 規模 |
現実的な線 |
| 年商1〜3億円 |
①小規模企業共済(年84万)と④役員社宅から。③倒産防止共済まで入れると資金繰りが苦しくなることが多い |
| 年商3〜10億円 |
①②④を基本に、利益が出た年に③を使う。退職金の規程をこの時期に作る |
| 年商10億円以上 |
①〜④を並行。退職金の枠も大きくなるので、⑤の試算を早めに |
年商2億円の会社で1億円の退職金は現実的ではありません。自社の規模で出せる額から逆算してください。目安は最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率という式で計算されることが多く、たとえば報酬月額100万円・勤続30年なら、倍率2.0で6,000万円、3.0で9,000万円という水準になります。
※この式は法令に定められたものではなく、実務で使われている目安です。倍率も法律で決まっているわけではありません。実際に認められる金額は、業務に従事した期間・退職の事情・同業同規模の会社の支給状況から判断されます。
やってはいけない順番
最後に、順番の話をひとつ。
枠の大きい順に始めてはいけません。倒産防止共済の年240万円は魅力的に見えますが、これは会社に貯まるお金で、出口を決めていないと解約した年に課税されて終わります。
先に埋めるのは、個人に貯まる箱(小規模企業共済・企業型DC)です。合わせて年150万円。ここは出口で悩む必要がありません。
そして何より、毎月32万円を出し続けられるかどうかです。退職金もそうですが、この手のものは始めるより、続けるほうが難しい。業績が落ちた年に止めると、元本割れしたり、積み直しになったりします。
自社の固定費と損益分岐点を確認してから決めてください。書き込み式の資料を置いています。
→ 中小企業の財務が詰まる20の場所|社外CFOが見ている順番
よくある質問
社長が個人の資産を作るのに、全部でいくら積めますか
税優遇のある箱の枠を足すと年間390万円です。内訳は小規模企業共済が年84万円(月7万円)、企業型確定拠出年金が年66万円(月5.5万円)、経営セーフティ共済(倒産防止共済)が年240万円(月20万円)です。ただし倒産防止共済で貯まるのは会社のお金で、個人の資産になるのは前者2つの合計150万円です(2026年12月1日からは158.4万円)。
小規模企業共済と企業型DCは、何が違いますか
払う人と税の扱いが違います。小規模企業共済は社長個人が払い、個人の所得から控除されます。企業型確定拠出年金は会社が払い、会社の経費になり、払った時点では個人に課税されません。どちらも積んだお金は個人のものになります。併用もできます。
倒産防止共済に積めば、社長の資産になりますか
なりません。解約して受け取る解約手当金は会社に入り、そのまま会社の利益になります。個人の資産にするには、役員報酬や役員退職金という形でもう一度出口を通る必要があります。退職金を支給する年に解約して利益と相殺するのが基本的な使い方です。
60代ですが、いまから始めて意味はありますか
積む話としては選択肢が狭まります。企業型確定拠出年金は60歳時点の加入期間が10年に満たないと受給開始が繰り下がり、58歳から始めると受け取りは65歳になります。60代の方は、積むより出すときの設計を優先してください。役員退職慰労金規程があるか、株主総会の決議の準備ができているか、支給する現金があるか。この3点から確認することをおすすめします。
年商2億円の会社でも、同じようにできますか
年390万円を全部積むのは資金繰りの面で厳しいことが多いです。年商1〜3億円の規模であれば、小規模企業共済(年84万円)と役員社宅から始めるのが現実的です。倒産防止共済まで入れると毎月の支出が重くなり、固定費が増えて損益分岐点が上がります。利益が出た年に追加する形で考えてください。
役員報酬を上げるのと、どちらが有利ですか
同じ金額を会社から出すなら、これらの制度のほうが手元に残ります。役員報酬には所得税・住民税に加えて社会保険料がかかりますが、企業型確定拠出年金の掛金は払った時点で個人に課税されず、社会保険料の対象にもなりません。小規模企業共済は個人が払いますが、全額が所得控除になります。ただし役員報酬を極端に下げると、役員退職金の枠(最終報酬月額が基準になることが多い)が小さくなる点には注意が必要です。
積み始めたあと、続けられているかを見たい方へ
年390万円は、毎月32万円が固定費として出ていくということです。業績が落ちた年に止めてしまうと、元本割れや積み直しになります。毎月の資金繰りと合わせて見続ける体制については、Luxe Partners でご案内しています。
Luxe Partners|財務伴走のご案内
監修:稲田 光浩(税理士)
稲田光浩税理士事務所 代表。近畿税理士会所属・税理士登録番号135413。認定経営革新等支援機関。
2007年から会計事務所に勤務し、2021年10月に大阪・西中島で独立。決算書を作る側であると同時に、東京プロマーケット上場準備企業の監査役、社会医療法人の監事として、出てきた数字を見て判断する側の席にも座っています。監査役としては監査計画の策定から監査報告書の作成まで実際に行い、取締役会と経営会議の両方に出席しています。
稲田光浩税理士事務所/〒532-0011 大阪府大阪市淀川区西中島4-2-21 ミツフ新御堂筋ビル605/TEL 06-7777-1762(平日9:00-20:00・土日祝対応可)
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出典:中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 制度の概要」/厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」/厚生労働省「確定拠出年金の拠出限度額の見直しに伴うDBの対応(令和6年12月1日施行)」/厚生労働省「企業型DCの拠出限度額が5.5万円から6.2万円に引き上げられます(2026年12月から)」/厚生労働省「DB等の他制度掛金相当額の反映後(令和6年12月〜)」(iDeCoの拠出限度額)/国民年金基金令等の一部を改正する政令(令和7年政令第442号)・同施行期日を定める政令(令和7年政令第441号・令和8年12月1日施行)/所得税基本通達36-40・36-41(役員社宅)/e-Gov法令検索。2026年10月時点の内容です。制度と税制は改正されることがあるため、実行前に最新の内容をご確認ください。本記事の金額は上限額であり、実際に積める額は会社の資金繰りと加入要件によって変わります。