役員退職金の話は、たいてい「いくらまで出せるか」で止まります。
計算式自体は公開されています。ただ、退職所得控除は使用人だった期間も通算するのに、2分の1が使えるかの判定と功績倍率は役員としての期間で見る——この2つを混ぜると、答えが大きくずれます。ここを分けて計算できるようにしました。
4つ入れるだけです。
役員退職金の枠と手取りを試算する
退職直前の役員報酬の月額です
平社員・部長などで勤めた期間。無ければ0のままで結構です
取締役に就任してからの期間です
代表取締役で3.0前後が使われることが多い数字です。法令で決まった数字ではありません
この試算が何を計算しているか
4つの段階に分けています。どれも条文どおりです。
① 枠の目安(功績倍率法)
最終報酬月額 × 役員としての勤続年数 × 功績倍率
実務でよく使われる計算ですが、この式は法令に定められたものではありません。「功績倍率3.0までなら大丈夫」という言い方を見かけますが、そう書かれた条文はありません。
条文(法人税法34条2項、同施行令70条2号)が定めているのは、不相当に高額な部分が損金に算入されないことと、相当かどうかを業務に従事した期間・退職の事情・同種で事業規模が類似する法人の支給状況等に照らして判断することだけです。この「等」が付いているので、3つに限られているわけでもありません。
つまり、この枠は説明の出発点であって、保証ではありません。
② 退職所得控除(使用人期間も通算)
ここが一番間違えられています。退職所得控除の勤続年数は、使用人だった期間も含めた通算です(所得税法施行令69条1項1号「引き続き勤務した期間」)。
| 勤続年数(通算) | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数 |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
使用人22年+役員8年なら、勤続30年で1,500万円です。役員8年で320万円ではありません。
③ 2分の1の判定(役員期間で見る)
控除したあとの金額を2分の1にします。ただし役員等としての勤続年数が5年以下の場合は、特定役員退職手当等に当たり、2分の1にできません(所得税法30条5項)。
②と③で見る年数が違う、というのがこの制度のややこしいところです。
④ 税額
退職所得は分離課税なので、その年の役員報酬の有無で税額は変わりません。所得税の速算表に当てはめ、復興特別所得税2.1%と住民税10%を加えます。
この試算で分からないこと
❌ その金額が実際に認められるか……同業・同規模の会社の支給状況との比較が要ります。ここは個別の判断です
❌ 会社に払う現金があるか……枠があっても、現金がなければ払えません
❌ 分割で払う場合の扱い……損金に算入できる時期が論点になります。一度に払えない場合は、先にご相談ください
枠が思ったより小さかった方へ
役員報酬を抑えて利益を内部に残してきた会社ほど、この式では枠が小さく出ます。最終報酬月額が基準だからです。
利益を残してきたのは、経営としては正しい判断です。ただ、退職金の枠という一点だけを見ると、その判断が効いてきます。少し皮肉な構造です。
この場合に取れる手は、退職金の枠を広げる話ではなく、報酬の決め方から見直す話になります。来期の役員報酬を決めるときに、退職までの年数と逆算して考える。ここは早いほど選択肢があります。
用件が違えば、聞くことも違います
相談の入口を分けています。どれでも初回45分・無料です。
・「この枠で説明が通るか見てほしい」……同業・同規模との比較と、議事録に残す根拠の作り方まで
・「枠が小さかった。報酬から見直したい」……退職までの年数から逆算します
・「払う現金が足りない」……支給年の資金繰りと、銀行への説明をあわせて
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よくある質問
功績倍率は3.0までなら認められますか
いいえ。功績倍率法そのものが法令に定められた算式ではありません。法人税法34条2項と同施行令70条2号は、業務に従事した期間・退職の事情・同種で事業規模が類似する法人の支給状況等に照らして不相当に高額な部分を判断すると定めているだけで、倍率の上限を定めた条文はありません。3.0という数字は実務と裁判例の蓄積から語られてきた目安であり、保証ではありません。
退職所得控除の勤続年数は、役員になってからの年数ですか
違います。使用人だった期間も通算します。所得税法施行令69条1項1号が「引き続き勤務した期間」により勤続年数を計算すると定めているためです。使用人22年・役員8年であれば勤続30年となり、退職所得控除は1,500万円です。役員としての年数で見るのは、2分の1の計算が使えるかの判定(所得税法30条5項)と、功績倍率法で使う年数のほうです。
役員になって5年以内に退職する場合も同じ計算ですか
違います。役員等としての勤続年数が5年以下の場合は特定役員退職手当等に該当し、退職所得控除を差し引いた後の金額を2分の1にする計算が適用されません。この試算では役員期間が5年以下のときに自動で判定しています。
この試算どおりの金額を出せば、損金に算入されますか
保証はできません。相当かどうかは同種で事業規模が類似する法人の支給状況などとの比較で判断されるため、同じ計算式でも会社によって結論が変わります。実際に支給する前に、役員退職慰労金規程と株主総会の決議、そして算定の根拠を記録に残しておくことをおすすめします。
分割で支払う場合はどうなりますか
損金に算入できる時期が論点になります。一度に支払えないという理由だけで安易に分割や未払計上をすると、思わぬ扱いになることがあります。支給の方法を決める前にご相談ください。
支給する年まで、毎月の数字を見ておきたい方へ
退職金は一度に出ていきます。その年に現金が足りるか、銀行にどう説明するかは、何年か前から見ておく話です。月次で資金繰りと一緒に見続ける体制については、Luxe Partners でご案内しています。
監修:稲田 光浩(税理士)
稲田光浩税理士事務所 代表。近畿税理士会所属・税理士登録番号135413。認定経営革新等支援機関。
2007年から会計事務所に勤務し、2021年10月に大阪・西中島で独立。決算書を作る側であると同時に、東京プロマーケット上場準備企業の監査役、社会医療法人の監事として、出てきた数字を見て判断する側の席にも座っています。役員退職慰労金が決議される場にも、決める側として立ち会っています。
稲田光浩税理士事務所/〒532-0011 大阪府大阪市淀川区西中島4-2-21 ミツフ新御堂筋ビル605/TEL 06-7777-1762(平日9:00-20:00・土日祝対応可)
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根拠:所得税法30条(退職所得・退職所得控除額・特定役員退職手当等)、所得税法施行令69条1項1号(勤続年数の計算)、法人税法34条2項、法人税法施行令70条2号(過大な役員給与の額)(e-Gov法令検索)/国税庁「No.2260 所得税の税率」/国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき」。2026年10月時点の内容です。本ページの試算は一定の前提を置いた目安であり、実際に損金算入が認められる金額を保証するものではありません。個別の判断は顧問税理士または当事務所にご確認ください。


