従業員から退職金のことを聞かれて調べ始めると、だいたいこの2つに行き当たります。中退共(中小企業退職金共済)と、企業型DC(企業型確定拠出年金)。
どちらも外部にお金を預ける制度で、会社が運用リスクを負わない点は同じです。だから「似たようなもの」と説明されることがあります。
ただ、中身はかなり違います。しかも違うところが、あとで揉めやすい部分に集中しています。
私はどちらかを勧める立場ではありません。制度を売っていないので、向いていないほうは向いていないと書きます。
先に1つだけ。社長ご自身の退職金も考えているなら
中退共に役員は原則として入れません。従業員の制度を検討しているうちに、社長の分もまとめてと考えがちですが、ここは別の設計になります。最初に分けておかないと、途中でやり直しになります。
従業員と役員を分けて組み立てたい場合は、初回45分の無料相談でご一緒に整理します。
初回45分・無料|対面/オンライン可|平日9:00-20:00(土日祝対応可)|24時間以内にご返信|無理な営業はいたしません
同じところは、3つだけです
- 会社の外にお金を積み立てる。社内に置いておく方式ではありません
- 会社が運用リスクを負わない。後から追加で払う話が出てこない
- 掛金は会社の損金になる
この3つが共通しているので、同じ棚に並べられます。確定給付企業年金(DB)のように、積立不足が出たら会社が払うという構造にはなっていません。
→ 確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金(DC)の違い|昔の企業年金はなぜ壊れたのか
決定的に違うのは4つ
| 中退共 | 企業型DC | |
|---|---|---|
| 役員が入れるか | 原則、入れない | 入れる(厚生年金被保険者であれば) |
| いつ受け取れるか | 退職したとき | 原則60歳から |
| 短期で辞めたら | 11か月以下は1円も出ない | 資産は残り、持ち運べる |
| 運用するのは | 中退共(会社も従業員も選ばない) | 従業員本人が選ぶ |
順に見ていきます。
1. 役員が入れるかどうか
中退共は、法人の役員は原則として加入できません。従業員のための制度だからです。使用人兼務役員として従業員分の賃金を受けている場合は対象になりうる、という整理にはなっていますが、通常の取締役は入れないと考えてください。
企業型DCは、厚生年金の被保険者であれば加入できます。社長も入れます。
同族会社で、社長ご自身の退職金も一緒に考えているなら、ここが一番大きい分かれ目になります。
2. いつ受け取れるか
中退共は、退職したときに受け取れます。従業員から見れば「辞めたらもらえる」ので、退職金という言葉のイメージどおりです。
企業型DCは原則60歳からです。50歳で辞めた人は、その時点では受け取れません。しかも60歳時点の通算加入者等期間が10年に満たないと、受給開始が61歳から65歳まで繰り下がります。
ここを説明しないまま「退職金制度を作りました」と社内に伝えると、辞めるときに必ず問題になります。
3. 短期で辞めたとき、掛金はどうなるか
中退共には、知っておかないとまずい数字があります。
| 掛金納付月数 | 支給される額 |
|---|---|
| 11か月以下 | 退職金も解約手当金も支給されない |
| 12〜23か月 | 納付した掛金総額の約2分の1から3分の1 |
| 24〜42か月 | 掛金相当額 |
| 43か月以上 | 掛金相当額に運用利息等が加算される |
そして、ここが重要です。支給されなかった分や、掛金を下回った分は、事業主に返ってきません。制度全体で長く加入している人の退職金を支払う財源に組み込まれます。
入社1年未満で辞める方が多い職場だと、払った掛金がそのまま出ていくことになります。離職率が高い業種では、ここを先に見てください。
企業型DCは、短期で辞めても資産は本人のものとして残ります。転職先に持ち運ぶこともできます。ただし60歳までは受け取れない、という制約がそのまま付いてきます。
4. 運用を誰がやるか
中退共は、中退共が運用します。会社も従業員も商品を選びません。退職金の額は加入期間と掛金で決まる仕組みで、令和8年度は付加退職金として0.61%が上乗せされることが公表されています。
企業型DCは従業員本人が運用商品を選びます。うまくいけば増えますが、減ることもあります。そして会社には、運用商品について説明する役割が継続して残ります。
ここは手間の話でもあります。総務の方が一人しかいない会社で企業型DCを入れると、その方の仕事が増えます。
4つのうち、どれが自社にとって重いかで決まります
離職率、従業員の年齢構成、社長の退職金を含めるかどうか、総務の人数。この4つが分かれば、候補はだいたい1つに絞れます。直近2期の決算書と従業員名簿(年齢だけで構いません)をお持ちください。
無料相談を申し込む | 電話 06-7777-1762 | LINEで質問する
中退共の、知っておくべき数字
加入できる会社の範囲
中小企業者に限られます。業種ごとに、常用従業員数か資本金・出資金のどちらかが範囲内であれば加入できます。
| 業種 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 |
|---|---|---|
| 一般業種(製造・建設業等) | 300人以下 | 3億円以下 |
| 卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
| サービス業 | 100人以下 | 5,000万円以下 |
| 小売業 | 50人以下 | 5,000万円以下 |
個人企業や公益法人等は、従業員数で判断されます。
掛金
従業員ごとに月額5,000円から30,000円の範囲で選べます。全額が事業主の負担です。
短時間労働者については、特例として2,000円・3,000円・4,000円という選択肢が用意されています。申し込みのときに労働条件通知書などの写しが必要になります。
国の助成
ここは使える制度なので、必ず確認してください。
- 新規加入助成……加入後4か月目から1年間、掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)を国が助成します
- 短時間労働者の上乗せ……特例掛金について、2,000円なら300円、3,000円なら400円、4,000円なら500円が上乗せされます
- 月額変更助成……18,000円以下の掛金月額を増額する場合、増額分の3分の1を1年間助成します。20,000円以上からの増額は対象外です
同居の親族のみを雇用している事業主は、新規加入助成も月額変更助成も対象になりません。
退職金は、会社を通りません
これは説明しておいたほうがいい点です。従業員が退職したとき、退職金は中退共から従業員本人へ直接支払われます。会社の口座を経由しません。
手続きが楽だというメリットがある一方で、懲戒解雇のような場合でも、会社の判断だけで止められるわけではありません。退職金規程と中退共の仕組みの関係は、導入前に確認しておいてください。
正直なところ、ここは私も導入の相談を受けるたびに、社労士の先生と確認し直している部分です。規程の書き方で結論が変わることがあります。
中退共で、あとから困る3つ
❌ 離職率を見ずに入れる……11か月以下で辞められると、払った掛金は戻りません。入社半年〜1年での離職が多い職場では、先に試算してください
❌ 掛金を高めに設定する……減額できる場合は限られています。上げるのは簡単ですが、下げるのは簡単ではありません。少なめに始めて、助成を使いながら上げていくほうが安全です
❌ 社長の分も入れるつもりで検討を進める……役員は原則として加入できません。設計をやり直すことになります
企業型DCの、知っておくべき数字
いくらまで拠出できるか
ここは「2.75万円」という数字を覚えている方が多いところです。確定給付企業年金などを併用している会社の、以前の上限がそれでした。いまは計算方法が変わっています。
2024年12月1日から計算方法が変わり、他制度の掛金に応じて一人ずつ計算するようになりました。
企業型DCの拠出限度額 = 月額5.5万円 − DB等の他制度掛金相当額
確定給付企業年金などを併用していなければ、月額5.5万円が上限になります。併用している会社で、差し引いた額が2.75万円を下回る場合は2.75万円とする経過措置があります(規約を変更すると終わります)。中退共の上限が30,000円ですから、枠としてはこちらのほうが大きくなります。
ただし、2026年12月から月額6.2万円に引き上げられます。施行日が決まっている改正なので、これから導入を検討するなら6.2万円で設計してください。年間では66万円から74.4万円になります。
あわせてiDeCoの上限も変わります。2026年11月までは月2万円ですが、12月以降は6.2万円から事業主の拠出額を差し引いた額が上限になります。マッチング拠出(本人も上乗せする仕組み)の枠も同じように広がります。
受け取れる年齢
原則60歳です。ただし60歳時点の通算加入者等期間が10年に満たない場合、受給開始年齢は次のように繰り下がります。
| 60歳時点の通算加入者等期間 | 受給開始年齢 |
|---|---|
| 10年以上 | 60歳 |
| 8年以上10年未満 | 61歳 |
| 6年以上8年未満 | 62歳 |
| 4年以上6年未満 | 63歳 |
| 2年以上4年未満 | 64歳 |
| 1月以上2年未満 | 65歳 |
55歳の方のために導入しても、受け取れるのは65歳になります。従業員の年齢構成を見ないまま決められない理由が、ここです。
途中で引き出せるか
脱退一時金という仕組みはありますが、要件はかなり絞られています。個人別管理資産額が15,000円以下であること、あるいは60歳未満で資格喪失から6か月を経過しておらず掛金拠出期間が5年以下または資産が25万円以下であること、といった条件が付きます。
まとまった金額が貯まっている人ほど、途中では引き出せない制度だということです。
どちらが向いているか
決め手になりやすい順に並べます。
中退共が向く会社
- 従業員が退職時に受け取れる形にしたい
- 総務の人数が少なく、運用商品の説明を続ける余力がない
- 国の助成を使いたい
- 掛金の水準が月3万円以内で足りる
- 勤続年数が長い職場で、短期離職が少ない
企業型DCが向く会社
- 社長・役員の分も同じ制度で積みたい
- 月3万円を超える枠が要る
- 転職する人が一定数いて、資産を持ち運べるほうが合っている
- 従業員に運用を任せる前提で、説明の体制を作れる
- 60歳まで受け取れないことを、きちんと説明できる
私が相談を受けるなかでは、社長ご自身の退職金をどうするかで分かれることが多いです。従業員だけなら中退共で足りる会社でも、社長の分を含めて考えると企業型DCが候補に入ってきます。
——と書きましたが、この2つから選ばなければいけないわけでもありません。従業員には中退共、社長には別の方法、という組み方もあります。役員の退職金は、小規模企業共済や役員退職慰労金規程を含めて別に設計するほうが、結局は早いことが多いです。
併用や、乗り換えはできるか
「中退共 確定拠出年金 併用」「中退共 移管」で調べている方が一定数いらっしゃるようです。
制度間で資産を移せる組み合わせは決まっていて、それぞれに条件が付きます。たとえば中小企業でなくなった場合の取扱いなど、会社の状況によって可否が変わります。
ここは一般論で答えにくい部分です。自社の加入状況と今後の方針を前提にしないと、正しい答えになりません。制度の公式案内で確認いただくか、個別にご相談ください。
決める順番
制度を比べる前に、この4つを先に決めてください。
- 誰に出すか……全従業員か、一定の勤続年数以上か。役員を含めるかどうかで、ここが分かれます
- いくら出すか……勤続20年でいくら、という水準
- いつ渡すか……退職時か、60歳以降か。ここで中退共か企業型DCかが決まります
- その金額を毎月出せるか……固定費に乗せて、損益分岐点がどう動くか
④から逆算していない制度は続きません。退職金は一度始めると下げにくく、業績が落ちた年にも出ていきます。売上が2割落ちても払い続けられる金額かどうか、先に確認してください。
自社の固定費と損益分岐点を出す書き込み式の資料は、こちらに置いています。
→ 中小企業の財務が詰まる20の場所|社外CFOが見ている順番
「どちらも一長一短で決められない」で止まったら
この手の制度は、会社の数字と人の構成を見ないと決まりません。離職率、年齢構成、毎月出せる金額、役員を含めるかどうか。この4つが分かれば、その場で1つに絞れることがほとんどです。
無料相談を申し込む | 電話 06-7777-1762 | LINEで質問する
初回45分・無料|対面/オンライン可|平日9:00-20:00(土日祝対応可)|24時間以内にご返信
よくある質問
中退共と企業型DC、どちらが得ですか
金額の有利不利より、受け取る時期と対象者で決まることが多いです。中退共は退職したときに受け取れますが役員は原則加入できません。企業型DCは役員も加入できますが原則60歳まで受け取れません。離職率、従業員の年齢構成、社長の退職金を含めるかどうかの3点を先に整理してください。
中退共に社長や役員は加入できますか
法人の役員は原則として加入できません。中退共は従業員のための制度です。使用人兼務役員として従業員分の賃金を受けている場合は対象になりうる整理ですが、通常の取締役は加入できないとお考えください。役員の退職金は、小規模企業共済や役員退職慰労金規程などで別に設計することになります。
中退共は、すぐ辞めた従業員の掛金はどうなりますか
掛金納付月数が11か月以下の場合、退職金も解約手当金も支給されません。12か月以上23か月以下の場合は、納付した掛金総額の約2分の1から3分の1にとどまります。24か月以上42か月以下で掛金相当額、43か月以上で運用利息等が加算されます。支給されない分や掛金を下回った分は事業主に返金されず、制度全体の退職金支払い財源に組み込まれます。
中退共の掛金はいくらから始められますか。国の助成はありますか
従業員ごとに月額5,000円から30,000円の範囲で選べます。短時間労働者には2,000円・3,000円・4,000円の特例掛金があります。国の助成は、新規加入の場合は加入後4か月目から1年間、掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)です。18,000円以下の掛金を増額する場合は、増額分の3分の1が1年間助成されます。同居の親族のみを雇用している事業主は助成の対象外です。
企業型DCはいくらまで拠出できますか
2024年12月1日以降は、月額5.5万円から確定給付企業年金等の他制度掛金相当額を差し引いた額が上限です。他制度を併用していなければ月額5.5万円になります。なお2026年12月から月額6.2万円に引き上げられます(年間66万円→74.4万円)。これから導入するなら6.2万円で設計してください。
両方を使うことはできますか
制度間で資産を移せる組み合わせは決まっており、それぞれに条件が付きます。中小企業でなくなった場合の取扱いなど、会社の状況によって可否が変わるため、一般論では答えにくい部分です。公式の案内で確認するか、自社の加入状況を前提に個別にご確認ください。
固定費が増える判断を、毎月の数字で見続けたい方へ
退職金の掛金は、始めたら毎月の固定費として残ります。導入後に損益分岐点がどう動いたか、資金繰りに無理が出ていないかを月次で見続ける体制については、Luxe Partners でご案内しています。
監修:稲田 光浩(税理士)
稲田光浩税理士事務所 代表。近畿税理士会所属・税理士登録番号135413。認定経営革新等支援機関。
2007年から会計事務所に勤務し、2021年10月に大阪・西中島で独立。決算書を作る側であると同時に、東京プロマーケット上場準備企業の監査役、社会医療法人の監事として、出てきた数字を見て判断する側の席にも座っています。監査役としては監査計画の策定から監査報告書の作成まで実際に行い、取締役会と経営会議の両方に出席しています。
稲田光浩税理士事務所/〒532-0011 大阪府大阪市淀川区西中島4-2-21 ミツフ新御堂筋ビル605/TEL 06-7777-1762(平日9:00-20:00・土日祝対応可)
あわせて読みたい
- 確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金(DC)の違い|昔の企業年金はなぜ壊れたのか
- 役員退職金1億円の手取りはいくらか|会社のお金を個人に移す3つのルート
- 中小企業の財務が詰まる20の場所|社外CFOが見ている順番
- 手元資金はいくら必要か|目安の考え方
出典:中小企業退職金共済事業本部(勤労者退職金共済機構)/厚生労働省「一般の中小企業退職金共済制度」/厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」/厚生労働省「確定拠出年金の拠出限度額の見直しに伴うDBの対応(令和6年12月1日施行)」。2026年10月時点の内容です。助成の金額や要件は改定されることがあるため、申し込み前に各制度の公式サイトで最新の内容をご確認ください。


