3店舗以上の飲食店経営|人件費率・店舗別損益・撤退判断を数字でどう決めるか

記事更新日:

3号店だけが、2年近く赤字のまま残っていないでしょうか。

閉めたほうがいいのは分かっているけれど、その店に何人かの顔が浮かびます。数字で決めたいのに、その数字が手元にない——3店舗を超えた飲食業で、いちばん多く見てきた状態です。

店舗が増えると、社長の記憶が会計システムの代わりを務められなくなります。2店舗までは全部頭に入っていたものが、3店舗目から入らなくなる。にもかかわらず、判断する項目だけが増えていきます。

このページは、3店舗以上を経営している飲食業のオーナーに向けて、どの数字を、どの単位で、いつまでに出せば判断できるのかを一本にまとめたものです。人件費率の置き方から、本部費の配賦、赤字店の撤退判断、消費税の実務、オーナー自身の報酬の決め方までを扱います。

▶ 無料相談を申し込む ▶ LINEで質問する
直近2期の決算書をお持ちいただければ、御社の現在地と、先に手を打つべき順番を整理してお返しします。無料・オンライン可・24時間以内返信・無理な営業はしません。

目次

  1. 3店舗を超えた飲食店で、最初に壊れるのはどこか
  2. 飲食店の人件費率は何%が適正か
  3. 原価率だけ見ても利益は残らない——FL比率とFLRをどう見るか
  4. 商品別の原価を、どこまで出すべきか
  5. 店舗別損益計算書——本部費をどう配賦するか
  6. 損益分岐日商——「今日いくら売れば赤字でないか」
  7. 変動損益と限界利益——多店舗の判断は、ここでしかできない
  8. 8. 赤字店舗をいつ閉めるか
  9. 9. 多店舗の資金繰り——出店投資と運転資金
  10. 10. 銀行は多店舗飲食業のどこを見るか
  11. 11. 消費税の実務——簡易課税・持ち帰り・インボイス
  12. 12. オーナーの年収と役員報酬の決め方
  13. 13. 業態別の勘所(居酒屋・カフェ・ラーメン・焼肉)
  14. 14. 正直に書く|この記事の考え方が効かない会社
  15. 15. よくあるご質問(FAQ)
  16. 16. まとめ|3店舗を超えたら、判断の材料を先に作る

3店舗を超えた飲食店で、最初に壊れるのはどこか

月初の5日、6日。前月の数字が、まだ出てきません。店長に聞けば「先月は忙しかったです」と返ってきます。忙しかったのは分かっています。知りたいのは、残ったのかどうかです。

3店舗目を出したあたりから、この状態が当たり前になります。

2店舗までは、社長が両方の店に顔を出せます。レジの締めも、発注の伝票も、シフト表も、だいたい頭に入っています。だから会計の数字が出てくる前に、感覚で「今月はいけた」「今月は薄い」が当たっていました。3店舗目で、その感覚が外れ始めます。

2店舗までは、社長の記憶が会計システムだった

私が多店舗の飲食業の数字を見るとき、最初に聞くのは「社長は今、どの店に何時間いますか」です。

2店舗なら、1日の中で両方を回れます。3店舗になると、物理的に回り切れない日が出てきます。4店舗、5店舗になると、週に一度も入らない店が出てきます。その「入らない店」で何が起きているかを教えてくれるのは、もう数字しかありません。

ここで多店舗化が止まる会社と、進む会社が分かれます。止まる会社は、社長の目の代わりになる数字を作らずに店を増やしています。増やした店の数だけ、見えないものが増えていく。

最初に壊れるのは利益ではなく、月次の速度

3店舗を超えた飲食店で最初に壊れるのは、売上でも利益率でもありません。月次の数字が出てくる速度です。

店が1つなら、レジの売上と通帳と請求書を並べれば、社長の頭の中で月次が完成します。店が3つになると、売上が3系統、仕入が3系統、シフトが3系統、現金が3系統。集める作業が3倍になり、どこか1つが遅れると全部が止まります。

そして遅れた月次は、翌月の打ち手に使えません。8月の数字が10月に出てきても、できることは反省だけです。飲食業は季節とイベントで売上が動く商売なので、2か月遅れの数字は、ほぼ過去の資料になります。

月次が遅い状態のまま店を増やすと、次はこうなります。資金が減っている理由が分からなくなります。利益は出ているはずなのに通帳が薄く、どの店が食っているのかも分かりません。

次に壊れるのは、シフトを店長に渡した瞬間

多店舗化すると、シフト作成は店長に渡します。渡さないと社長の手が足りません。これは正しい判断です。

ただ、渡すときに一緒に渡さなければならないものがあります。その店の人件費の上限です。

上限を渡さずにシフトを任せると、店長は「店が回る人数」を組みます。店長の評価軸は、現場が荒れないことと、クレームが出ないことです。人を厚く置けば現場は楽になります。だから悪意なく、構造的に人件費は膨らみます。

人件費率が店ごとに3ポイント、4ポイント違う会社は珍しくありません。能力の差ではなく、上限を渡していないかどうかの差であることが多いです。

「3店舗で年収いくら」は、店舗数では決まらない

「飲食店を3店舗やっていると年収はいくらか」「10店舗だといくらか」——これは実際に検索されている疑問です。多店舗のオーナー社長とお話ししていても、同業の社長がいくら取っているのかは、かなり気になるテーマのようです。

先に構造だけ書きます。オーナーの手取りは、店舗数に比例しません。間に4つのものが挟まるからです。

段 そこで引かれるもの
各店の営業利益 食材・人件費・家賃・水道光熱・販促
-本部費 本部の人件費、本部家賃、システム、採用費
-借入返済 出店時の設備資金の元金(経費になりません)
-次の出店の自己資金 内装・厨房・保証金・開業までの運転資金
=役員報酬に回せる原資 ここから所得税・住民税・社会保険料

3店舗で、1店舗あたりの営業利益が月50万円出ていれば、月150万円。ここから本部費が月60万円、借入の元金返済が月40万円だとすると、残るのは50万円です。この50万円から役員報酬を取り、さらに個人側の税と社会保険料が引かれます。

つまり、店舗数を増やしても本部費と返済が同じ速さで増えると、オーナーの手取りは増えません。「3店舗にしたら、2店舗のときより手取りが減った」という話が出てくるのは、ここに理由があります。

役員報酬をいくらに置くかは、会社の資金・税・社会保険料の3方向から組む話になります。金額の決め方は、このあと役員報酬の章で扱います。

私が3店舗以上の飲食業で、最初に見る数字

私は上場準備中の企業の監査役、社会医療法人の監事を務め、複数社の経営会議に外部の立場で入っています。そこで数字を見るときの順番は、業種が変わってもあまり変わりません。飲食業の場合は、こうなります。

  1. 店舗別の月次が、翌月何日に出ているか(利益率より先に、速度を見ます)
  2. 店舗ごとの人件費率のばらつき(平均ではなく、最大と最小の差)
  3. 店舗ごとのFLR(食材・人件費・家賃の合計が売上の何%か)
  4. 損益分岐日商と、実際の日商の差(1日いくら足りないのか、足りているのか)
  5. 本部費が、どの店にいくら乗っているか(配賦のルールが決まっているか)

この5つが出れば、どの店を伸ばし、どの店を直し、どの店を閉めるかの議論ができます。逆に、5つのうち1つも出ていない会社では、議論が「気合い」と「立地」の話になりがちです。

飲食店の人件費率は何%が適正か

結論を先に書きます。人件費率の適正値は、業態の平均からは出ません。自社の目標利益から逆算して出します。

ただ、平均を知りたい気持ちは分かります。自分の店が高いのか安いのか、まず当たりを付けたい。そこから始めます。

人件費率の計算式——分母と分子に何を入れるか

式そのものは単純です。

人件費率 = 人件費 ÷ 売上高 × 100

揉めるのは、分子に何を入れるかです。ここが会社によって違うので、他社の数字と比べても噛み合わないことがあります。面談でも「うちは28%です」と言われて中身を見ると、社員給与だけだった、ということが起きます。

項目 人件費に入れるか
社員給与・アルバイト給与 入れる
賞与・各種手当・残業代 入れる
法定福利費(社会保険料の会社負担) 入れる(いちばん抜けやすい)
通勤手当・まかない・制服 入れる(福利厚生費に散りやすい)
採用費(媒体掲載料・紹介手数料) 分けて見る(月の振れが大きい)
派遣・業務委託への支払 入れて見る(人の代わりだから)
オーナー・親族の役員報酬 分けて見る(理由は下に書きます)

法定福利費は、社会保険料の会社負担分です。健康保険・厚生年金・雇用保険・労災を合わせると、給与総額に対しておおむね15%前後が上乗せになります。料率は年度・都道府県・業種で変わるので、自社の数字は直近の納付額で確かめてください。

これを入れずに計算している会社は、実態より4ポイント前後低く見えています。28%だと思っていた店が、実は32%だった、ということが起きます。

派遣と業務委託も要注意です。人が採れないので派遣で埋めます。会計上は外注費や支払手数料になり、人件費の行には乗りません。でも、やっている仕事は人件費と同じです。人件費率だけ見ていると、人件費を下げたように見えて実際は上がっている、という状態になります。

「平均」は答えにならない——ただし出発点にはなる

飲食店の人件費率は、一般に売上の20〜30%を目安と言われます。日本政策金融公庫の調査値を引用して「一般飲食店で30%強」と紹介している解説も見かけます。

ただ、私はこの手の数値を記事に書くとき、毎回ためらいます。何年の調査なのか、どの業態を含むのか、分子に法定福利費が入っているのかが、たいてい書かれていないからです。だから「平均と比べて高いから下げる」という判断は、順番として危ないと思っています。

業態で言えば、こういう傾向はあります。

  • 居酒屋・バー……アルバイト比率が高く、調理の手数が少ない業態は低めに出ます
  • フレンチ・イタリアン・和食(調理に技術が要る業態)……社員比率が上がるので高めに出ます
  • ラーメン・カレー・定食(単品回転型)……オペレーションが固まっていれば低く抑えられます
  • カフェ……客単価が低く滞在が長いので、席の効率との戦いになります

この傾向は、立地と営業時間と客単価で簡単に逆転します。公表統計で自社と比べたいなら、中小企業庁の中小企業実態基本調査のように、調査年と集計範囲が明記されているものを見たほうが安全です。

オーナー自身の給与は、人件費率に入れるのか

これは実際によく聞かれます。「社長の役員報酬は人件費率に入れるんですか」と。

私は2本立てで出すようにしています。

  • 店舗の人件費率……オーナーの役員報酬を除いた、現場の人件費だけ。店長と共有し、シフト管理に使う数字
  • 会社全体の人件費率……役員報酬を含めた全額。銀行に説明し、オーナーの手取りを設計するときに使う数字

なぜ分けるか。オーナーが現場に立っているかどうかで、数字の意味が変わってしまうからです。

オーナーが毎日厨房に入っている会社では、オーナーの労働がタダで入っています。この状態で「人件費率25%で優秀です」と言っても、実態は違います。オーナーが現場を離れた瞬間、代わりに社員を1人入れることになり、人件費率は跳ね上がります。多店舗化の過程でいちばん見落とされるのが、この「社長の時間がゼロ円で計算されている」問題です。

3店舗目を出すときは、オーナーが現場から抜ける前提で人件費を置き直してください。抜けられない前提で組んだ数字は、4店舗目で破綻します。

❌ ここで多くのオーナーがやってしまうこと

人件費率が高いからといって、シフトを一律に削ること。
削ると、まず提供が遅れます。次にホールの目が届かなくなり、追加注文が取れなくなります。客単価が下がり、売上が落ちる。分母が減るので、人件費率は下がらない——どころか上がることがあります。
人件費を触るなら、削る前に「どの時間帯の、何人目を削るのか」まで降りてください。時間帯別の売上と人員を並べないまま総額で削るのは、目を閉じて値札を剥がす作業です。

適正値は、平均ではなく「逆算」で出す

自社の人件費率の上限は、次の順番で出せます。

  1. 必要な営業利益を決める……借入の元金返済+次の出店の積立+役員報酬の原資。飲食業では、ここから逆算するのが現実的です
  2. 家賃・水道光熱費・販促費・本部費など、動かしにくい固定費を置く
  3. 食材原価率を、メニュー構成から置く
  4. 残りが人件費の上限

数字で追います。仮に月商1,000万円の店で、必要な営業利益を月60万円(6%)、家賃80万円(8%)、水道光熱費60万円(6%)、販促・消耗品・その他で120万円(12%)、本部費の配賦が50万円(5%)とします。食材原価率を30%=300万円とすると、

1,000 -(60+80+60+120+50+300)= 330万円
→ 人件費の上限は 33%

この33%が、その店の「払える人件費」です。業態平均が28%だったとしても、この店は33%まで払えます。逆に、家賃の高い立地なら上限が26%になることもあります。適正値は店ごとに違うというのは、こういう意味です。

そして出た上限は、率のままでは現場で使えません。330万円という金額に直し、さらに「月の必要総労働時間 ÷ それで割った平均時給」まで降ろして、はじめて店長が使える数字になります。

率ではなく「1時間あたり」で見る——人時売上高と人時生産性

人件費率は、売上が動くと勝手に動きます。暇な月は率が上がり、忙しい月は率が下がります。だから月次の率だけを追っていると、現場の生産性が上がったのか、たまたま売れたのかが分かりません。

そこで使うのが、1時間あたりの数字です。

人時売上高 = 売上高 ÷ 総労働時間
人時生産性 = 粗利(売上-食材原価)÷ 総労働時間

総労働時間には、社員・アルバイト・店長の時間を全部入れます。オーナーが現場に入っているなら、その時間も入れてください。入れないと、さっきの「社長の時間ゼロ円」問題がここでも起きます。

仮に月商1,000万円、総労働時間1,600時間なら、人時売上高は6,250円。食材原価率30%なら粗利700万円で、人時生産性は4,375円。この店の平均時給(法定福利費込み)が1,500円だとすれば、1時間働くと4,375円の粗利を生み、1,500円の人件費を使っている計算になります。

この数字の良いところは、店舗間で比較できることです。立地も客単価も違う店どうしで人件費率を比べても話が噛み合いませんが、人時生産性なら「1時間の使い方がうまい店」が分かります。

店舗ごとのばらつきを、どこまで許すか

多店舗の人件費を見るときは、全社平均を見ないでください。見るのは最大と最小の差です。

全社平均が29%でも、中身が25%・29%・33%なら、33%の店で何かが起きています。新店で教育期間中なのか、立地で人が採れず派遣に頼っているのか、シフトの上限を渡していないのか。原因が違えば打ち手も違います。

許容幅の目安は、業態が同じなら±2ポイント、業態が違うなら比較しないこと。これは私の運用上の線引きで、理論的な根拠があるわけではありません。ただ、±2を超えたら理由を言語化できるようにしておく、という使い方で十分機能します。

人件費を下げる順番——ここだけは間違えないでほしい

人件費を触る順番は、効果の大きさではなく、売上を壊さない順で並べます。

  1. 時間帯別の人員配置……暇な時間に人が余っていないか。15時〜17時に3人いる必要があるか
  2. 仕込みと洗い場の外出し……カット野菜、セントラルキッチン、食器洗浄機。設備で人の時間を買う
  3. オペレーションの削減……提供動線、メニュー数、注文の受け方。1人あたりの処理量を増やす
  4. 採用費と定着……辞めるから採る、採るから教える、教える時間が人件費になる。離職率は人件費です
  5. 最後に、人数

1番から4番を飛ばして5番からやる会社が、いちばん売上を落とします。順番を守れば、人数に手を付ける前に人件費率は下がっていることが多いです。

なお、最低賃金は毎年秋に改定されます。アルバイト比率の高い飲食業では、何もしなければ人件費率は毎年上がっていく構造です。改定のたびに「適正な人件費率」の水準自体がずれていくので、去年の数字をそのまま目標にしないほうがいいと思います。

原価率だけ見ても利益は残らない——FL比率とFLRをどう見るか

飲食業の経営を調べると、まず「原価率」が出てきます。30%を目指しましょう、と。

原価率は大事です。でも、原価率だけを下げても利益は残りません。食材を安くした分だけ人件費が増える、という交換が日常的に起きるからです。

なぜFとLを足して見るのか

手間のかかる料理は、食材原価が低くても人件費が高くなります。逆に、仕込み済みの食材を使えば人件費は下がりますが、食材原価は上がります。

FとLはシーソーです。片方だけを見ると、もう片方に逃げたコストが見えません。だから足して見ます。

FL比率 =(食材原価 + 人件費)÷ 売上高 × 100

セントラルキッチンを作るか、各店で仕込むか。カット野菜に切り替えるか、自店でカットするか。食器洗浄機を入れるか、人手で洗うか。どれもFとLの振り替えです。判断するときはFLの合計で比べてください。合計が下がるなら、原価率が上がっても正しい判断です。

FL比率の目安は60%前後と言われますが、幅があります

FL比率の目安は、一般に60%前後と言われます。55%を下回るのが望ましいとする解説もあり、55〜65%を理想とする解説もあります。つまり、業界の中でも目安の数字は固まっていません。

私は、この数字を「他社と比べるための基準」としては使っていません。使うのは、自社の前年同月との比較と、店舗間の比較です。60%という水準より、「去年の10月は58%だったのに今年は62%」という動きのほうが、経営判断の材料になります。

家賃を足したFLRで、店の体力が決まる

FLに家賃を足したものがFLRです。

FLR比率 =(食材原価 + 人件費 + 家賃)÷ 売上高 × 100

家賃比率(家賃÷売上)の目安は、一般に10%以下と言われます。FLR全体では70%前後を目安とする解説が多いようです。

家賃が怖いのは、売上が落ちても1円も下がらないことです。食材は客が減れば減ります。人件費もシフトを薄くすれば減ります。家賃は減りません。だから家賃比率の高い店は、売上が落ちたときの落ち方が急になります。

そして家賃比率は、出店の契約書にサインした時点でほぼ決まります。坪数と坪単価と、そこで取れる売上。この3つの関係を出店前に詰めておかないと、開店初日からFLRの上限が決まってしまいます。多店舗の収益性は、運営の上手さより物件選びで決まる部分が大きいというのは、こういう意味です。

FLRだけ見ていると落ちる穴

FLRは強力ですが、FLRに入っていない費用で店が沈むことがあります。多店舗だと特にそうです。

  • 水道光熱費……厨房の火力と空調。単価が上がった年は、率で3〜4ポイント動くことがあります
  • デリバリー・予約サイトの手数料……売上に比例して出ていく変動費です。売上が増えても利益が増えない構造を作ります
  • 販促費・クーポン原資……値引きを売上の減少として処理する会社と、販促費として処理する会社があります。処理が違うと原価率も人件費率も変わる
  • リース料・減価償却費……厨房機器と内装。出店が続いている会社では、ここが静かに重くなります
  • 修繕費……開店5年目くらいから、空調と厨房機器が順番に壊れます

デリバリーの手数料は、特に注意して見ています。売上が立つので現場の空気は良くなりますが、手数料と容器代を引いた後で見ると、店内飲食とまったく別の商売になっていることがあります。

多店舗では「FLR+本部費」で見る

店が増えると、店に属さない費用が増えます。本部の人件費、本部家賃、会計と勤怠のシステム、採用の媒体費、エリアマネージャーの移動費。

これらは店舗の損益計算書には出てきません。だから店舗のFLRが基準内でも、会社としては赤字という状態が起こります。3店舗、5店舗の規模でいちばん多い赤字の形がこれです。

多店舗の会社では、FLRに本部費の配賦を足した「配賦後の店舗コスト率」を1本持っておいてください。配賦のやり方には考え方の幅があるので、それは店舗別損益の章で扱います。

店舗が増えてから、数字が追いつかなくなっていませんか

「全体では黒字だが、どの店が稼いでいるか分からない」「人件費率が店ごとにバラバラな理由を説明できない」——多店舗の飲食業で、いちばん多いご相談です。

初回は、直近の試算表と店舗数、各店の家賃と席数だけお持ちください。店舗別損益と損益分岐日商が、今の会計データからどこまで作れるかを一緒に確認します。初回45分・無料・対面/オンラインです。

無料相談を申し込む

商品別の原価を、どこまで出すべきか

メニューが80品あって、全品のレシピ原価を出そうとすると、途中で止まります。やってみた会社は、たいてい止まっています。

結論から言えば、全品はやらなくて構いません。やるのは、売上構成比の上位と、原価率が極端なものだけです。

出すべき商品は、売上構成比で選ぶ

全メニューを、売上構成比の高い順に並べてください。飲食店では、上位20品前後で売上の大半を占めることが多いはずです。

原価を出すのは、次の4種類に絞ります。

  1. 売上構成比の上位20品……ここの原価率が全体のFを決めます
  2. 看板商品……構成比が低くても、客を呼んでいる商品。値上げの判断がいちばん難しいところです
  3. ドリンク全般……品数が少なく、計算が簡単で、原価率が低い。やる価値がもっとも高い
  4. 無料で出しているもの……ライスの大盛り、味噌汁、お通し、付け合わせ、ドレッシング

逆に、構成比が0.3%のメニューの原価を1円単位で詰めても、全体はほぼ動きません。そこに時間を使うくらいなら、そのメニューを落とすかどうかを決めたほうが早いはずです。

計算の単位は「1人前」——歩留まりとロスを乗せる

商品別原価は、仕入単価をそのまま使うと必ず低く出ます。使うのは、歩留まり後の単価です。

1人前の原価 = Σ(食材の歩留まり後単価 × 使用量)×(1 + ロス率)

歩留まりは、仕入れた量のうち実際に提供できる量の割合です。魚を1本買って三枚に下ろせば、骨と頭とヒレが落ちます。キャベツも芯が落ちます。歩留まり70%なら、kg単価は実質1.43倍になります。

ロスは、作り置きの廃棄、作り間違い、賞味期限切れです。これは商品ごとには出せないので、店全体のロス率を一律で乗せるのが現実的です。

この2つを乗せると、レシピ原価は想像より高く出ます。「え、こんなに高いのか」と思うなら、それがこの作業の成果です。

ドリンクの原価の出し方——ここは1日で終わります

ドリンクは品数が限られていて、計算式が単純です。多店舗の会社でも、1日あれば全店共通の表が作れます。

品目 原価の出し方 見落としやすい要素
生ビール 樽単価 ÷(樽容量 ÷ 1杯の提供量) 泡の調整で捨てる分、ガス代、樽の洗浄ロス。提供量が設計より多い店が多いです
ハイボール (ウイスキー1本単価 ÷ 取れる杯数)+ 炭酸水 + 氷 + レモン 炭酸水と氷とレモンを足していない計算が多い。1杯では小さい額ですが、杯数が出るので効きます
ワイン(グラス) ボトル単価 ÷ グラス杯数 抜栓後に売り切れず捨てる分。グラス売りの原価は、廃棄を入れて初めて実態になります
コーヒー 豆のg単価 × 1杯の使用g + ミルク・砂糖・カップ 持ち帰りのカップ・蓋・スリーブ。店内と持ち帰りで原価が変わります
コーラ・ソフトドリンク(ディスペンサー) 原液単価 ÷ 希釈後の杯数 氷の量で希釈後の杯数が変わります。グラスサイズを変えると原価率が動きます
ライス・味噌汁 米のkg単価 ÷ 炊き上がりの杯数/だし・味噌・具材の1杯分 おかわり無料、大盛り無料。提供数と販売数が一致しません

ドリンクの原価率は、料理より低く出ます。これは業界では常識の話です。だから「ドリンクを売れ」で終わってしまいます。もう一歩進めてください。

「無料で出しているもの」の原価は、誰が払っているのか

ライスの大盛り無料、おかわり無料、お通し、ドレッシング、付け合わせ。これらは売上が立たないので、売上構成比の表には出てきません。

でも原価は出ています。売上ゼロ・原価ありの商品なので、原価率への効き方は最悪です。

やめろという話ではありません。大盛り無料が集客装置になっている店で、それをやめれば客が減ります。やってほしいのは、金額を把握することです。月にいくら配っているのかが分かって初めて、「この集客装置に月◯万円払う価値があるか」を判断できます。

コース料理の原価は、単品の寄せ集めで出さない

コースの原価を、構成する単品の原価を足して出している会社があります。これだと実態より高く出ます。

コースは、仕入れる量が読めます。何人分の予約が入っているかが分かるので、ロスが出ません。歩留まりの悪い部位も、コースの中で使い切れます。コースの原価率が単品より低く出るのは、ロスが減るからです。

逆に、コースで注意するのは人件費のほうです。一斉に入って一斉に出るので、ピークの人員が厚くなります。コースの採算は、FだけでなくFLで見てください。

原価率の低い商品を、どう組み合わせて全体のFLを作るか

ここが、商品別原価をやる本当の目的です。

全体の食材原価率は、1品ごとの原価率の平均ではありません。売上構成比で重みを付けた加重平均です。

全体の原価率 = Σ(商品の原価率 × その商品の売上構成比)

仮に、料理の原価率が35%、ドリンクの原価率が20%の店で考えます。

  • 料理70%・ドリンク30%なら … 35×0.7 + 20×0.3 = 30.5%
  • 料理60%・ドリンク40%なら … 35×0.6 + 20×0.4 = 29.0%
  • 料理50%・ドリンク50%なら … 35×0.5 + 20×0.5 = 27.5%

ドリンク構成比を10ポイント上げるだけで、原価率が1.5ポイント動きます。月商1,000万円なら月15万円、年180万円です。1品ずつの原価を1円削る作業より、構成比を動かすほうが効きます。

しかも、ドリンク構成比は人件費にも効きます。ドリンクは調理の手数が少ないので、ドリンクで上がった売上には人件費がほとんど乗りません。FとLの両方に効く打ち手は、これくらいしかない。

構成比を動かす手は、価格をいじることではありません。

  • メニューブックのドリンクの位置と面積(最初の見開きに何があるか)
  • 1杯目が空いたタイミングで声がかかるかどうか(ホールの人員配置の話になります)
  • 料理とドリンクの組み合わせ提案
  • グラスサイズの設計(小さめを複数杯のほうが、同じ量でも杯数が出ます)

ここは原価計算の話から現場オペレーションの話に逸れました。ただ、商品別原価を出す意味は、結局ここに着地します。原価を知るのは、値段を上げるためではなく、売り方を変えるためです。

❌ やってはいけないこと

原価率の高いメニューを、一律で値上げすること。
原価率が高い商品ほど、集客の看板になっていることがあります。看板を値上げして客数が減れば、固定費を回収できなくなります。
値上げの判断は、原価率ではなく「客がその店に来る理由になっているか」で分けてください。看板は据え置き、構成比が高くて来店理由になっていないものから動かす。順番を逆にした店が、値上げで客を減らしています。

店舗別損益計算書——本部費をどう配賦するか

店舗別の損益が出ていない会社では、撤退の判断ができません。できないので、赤字の店が残り続けます。

そして店舗別損益を作るときに必ず詰まるのが、本部費の扱いです。ここで作業が止まる会社が、とても多いです。

まず「店舗で発生した費用」を店舗に貼る

配賦の話より先にやることがあります。店舗で直接発生している費用を、正しく店舗に紐付けることです。会計ソフトの部門設定(店舗別の部門を作り、仕訳に部門を入れる)で、ここまでは機械的にできます。

費用 店舗に直接貼れるか
食材仕入 貼れる(納品先が店舗なので)
現場の人件費 貼れる(複数店を兼務する人は時間で分ける)
家賃・共益費・水道光熱費 貼れる
店舗の消耗品・リネン・清掃 貼れる
厨房機器・内装の減価償却費 貼れる(固定資産台帳に店舗を入れておく)
予約サイト・デリバリーの手数料 貼れる
本部人件費・本部家賃・会計システム 貼れない → 配賦の対象
採用の媒体費(全店共通枠) 貼れない(店別の枠なら貼れます)
借入利息・役員報酬 貼れない

直接貼れるものを貼り終えた段階で、すでに相当なことが分かります。多店舗の会社の店舗別損益は、ここまでで8割の価値が出ます。

本部費の配賦基準は、4つしかありません

基準 向いている費用 弱点
売上按分 全般(いちばん多い) 稼いでいる店に重く乗る。頑張った店が報われない形になりがち
客数按分 予約対応・クレーム対応・販促 客単価が違う業態が混ざると歪む
従業員数・労働時間按分 採用費・労務管理・給与計算のコスト 人が多い店=悪、に見えてしまう
均等割 会計システム・本部の固定的な間接費 小さい店に重く乗る。新店が不利になる

どれが正解か。正解はありません。私は、売上按分を基本にしつつ、採用費だけ労働時間按分、システム費だけ均等割、という混在型を採ることが多いです。

以前は、全部を売上按分にしておけば十分だと考えていました。いまは分けています。理由は、店長と話すときに「この費用がなぜ自分の店に乗っているのか」を説明できないと、店舗別損益が現場に効かないからです。配賦は会計の正確さの問題ではなく、納得の問題です。

そして基準は、決めたら動かさないでください。期中に変えると、前年同月と比較できなくなります。配賦基準を毎年変える会社の店舗別損益は、推移が読めず、結局使われなくなります。

配賦の前に、「配賦しない段」を作る

これが店舗別損益のいちばん大事なところです。

本部費を配賦した後の利益だけを見ると、撤退判断を間違えます。配賦される本部費は、その店を閉めても消えない費用だからです。

だから、店舗別の損益は3段で作ります。

段 計算 何の判断に使うか
①店舗限界利益 売上 - 食材原価 - 変動的な人件費 - 手数料 営業時間・曜日・デリバリーをやるかどうか
②店舗貢献利益 ① - 店舗の固定費(家賃・固定人件費・償却) 撤退判断。ここがマイナスなら、閉めたほうが会社の利益は増えます
③配賦後店舗利益 ② - 配賦した本部費 出店の採算ライン・本部費の重さの検証・銀行への説明

②がプラスで③がマイナスの店は、「閉めるべき店」ではなく「本部費を支えきれていない店」です。この2つはまったく違う問題で、打ち手も違います。前者なら閉める、後者なら売上を上げるか本部費を削る——打ち手が逆になります。③だけを見ている会社が、黒字の店を閉めてしまいます。

店長に見せる数字は、店長が動かせるものだけにする

管理会計でいちばん大事な原則を、ひとつだけ挙げるとすればこれです。人は、自分が動かせない数字で評価されても、動けません。

③の配賦後店舗利益で店長を評価している会社をよく見ます。これをやると、本部が人を増やした月に、全店の成績が一斉に落ちます。店長は何もしていないのに、です。翌月の店長会議で何が起きるかというと、数字の話ではなく配賦基準への不満が出ます。そこから先、その資料は読まれなくなります。

だから、評価に使う段と、採算を見る段は分けます。店長の評価に使うのは①か、①から店長が動かせる固定費まで引いた段です。③は本部が見る数字で、店長に説明する資料ではありません。

どの費目が「動かせる」のかを、一度表にしておくと揉めません。

費目 店長が動かせるか 店長の評価に入れるか
食材の使用量・ロス・廃棄・歩留まり 動かせる 入れる
食材の仕入単価 集中購買なら動かせない 外す
アルバイトのシフト(人時) 動かせる 入れる
正社員の配置・給与 本部が決める 外す
水道光熱の使用量 動かせる 入れる
水道光熱の単価 動かせない 外す
消耗品・備品・まかない 動かせる 入れる
家賃・減価償却費 動かせない 外す
メニューの価格 本部が決める場合は動かせない 外す
本部費の配賦額・借入金利 動かせない 外す

この表で、ひとつだけ注意していただきたい行があります。食材原価です。

食材原価は「店長の責任」とまとめられがちですが、集中購買をしている会社では、仕入単価を決めているのは本部です。鶏肉が1キロ30円上がったのは、店長のせいではありません。それでも原価率は上がります。

ですので、原価の差を見るときは単価のズレと、使った量のズレを分けて見ます。前月と比べて原価が増えたとき、増えた分のうちいくらが単価によるもので、いくらが使用量とロスによるものか。単価のぶんは本部が交渉する話で、使用量のぶんが店長の話です。

この分け方をしていない会社では、仕入が値上がりした月に店長が叱られ、その次の月から日報の数字が少しずつ現実と合わなくなっていきます。数字が合わなくなる原因は、だいたい評価のほうにあります。

役員報酬と本部家賃は、配賦するのか

私は配賦していません。

オーナーの役員報酬は、店舗の業績ではなく会社の資金と税で決める数字です。これを店舗に配賦すると、役員報酬を上げた月に全店が赤字になります。店長に見せる資料としては、意味が通らなくなります。

本部家賃も同じです。本部を広いところに移した判断の責任を、店舗の損益に乗せる必要はありません。

ただし、銀行に出す資料と税務申告の数字は会社全体です。店舗別の損益は社内の管理資料であって、決算書とは別物という整理をしておいてください。ここを混ぜると、月次の資料を作るたびに決算と突き合わせる手間が増えます。

条件の違う店を、同じ指標で比べるには

店舗別の損益を作ると、次に必ず出てくるのが「で、どの店がいちばん良いのか」という話です。ここで売上や利益の金額を並べると、たいてい判断を誤ります。

20坪でカウンター中心の店と、60坪で宴会を取る店を、売上の金額で比べても何も分かりません。大きい店が多く売るのは当たり前です。開店3か月の店と10年の店も、同じ土俵には乗りません。

比べるには、分母を揃えます。条件の違いを分母に押し込んでしまう、という考え方です。

指標 計算 何の違いを消すか
人時売上高 売上 ÷ 総労働時間 店の規模と営業時間
人時生産性 限界利益 ÷ 総労働時間 規模・営業時間・原価構成
坪当たり売上 売上 ÷ 坪数 面積
席効率(回転率) 客数 ÷ 席数 ÷ 営業日数 席数
FL比率・限界利益率 いずれも売上に対する% 規模
損益分岐日商 店舗固定費 ÷ 限界利益率 ÷ 営業日数 固定費の重さ

ただし、分母を揃える前にやることがあります。費目の定義を1枚に固定することです。

まかないを原価に入れている店と福利厚生費にしている店、社員の給与を店舗に乗せている店と本部に置いている店、廃棄を原価のままにしている店と別に出している店。これが混ざったまま比率を並べても、比べているのは店の実力ではなく経理処理の違いです。A4一枚でよいので、どの費目をどこに入れるかを決めて、全店に配ってください。

そのうえで、3つだけ線を引いておきます。

  • 業態が違う店は、同じ表に並べない。昼のカフェと夜の居酒屋では、原価率も人時売上高も成り立ちが違います
  • 開店から半年から1年の店は、別枠にする。立ち上がり期の数字を既存店と並べると、新しい店の店長が一方的に悪者になります
  • 他店との順位より、その店自身の前年同月との差を主に見る。順位を貼り出すと、条件の悪い店の店長から辞めていきます

私がお客様の店舗別資料を作るとき、最後に必ず確認するのはここです。この資料を見た店長が、明日の朝に何かひとつ変えられるか。変えられないなら、指標の選び方か、分母の揃え方のどちらかを間違えています。

店舗別損益を月次で回すための、締めのタイムライン

店舗別損益は、作ること自体は難しくありません。難しいのは、毎月続けることです。続けるために決めるのは、2つだけです。

  1. いつまでに、何を、誰が出すか……店舗の日報・売上データ・シフト実績・請求書。締め日を月初3営業日などに固定します
  2. 何日に、誰が見るか……出す日より、見る日を先に決めてください。見る会議がないと、提出は必ず遅れます

多店舗の会社で月次が遅れる原因は、会計処理ではなく資料の回収です。店舗から請求書が上がってこない、シフト実績が集まらない、という状態です。会計事務所に渡す前の段階で止まっています。だから「会計事務所が遅い」と感じていても、原因は社内の回収フローにあることが少なくありません。

この構造は飲食業に限りません。製造業で原価が見えない会社も、同じところで止まります(参考:製造業の原価管理|個別原価が見えない会社は銀行にどう見られるか)。

店長会議は、何を決める場にするか

締めのタイムラインで「見る会議がないと、提出は必ず遅れます」と書きました。その会議の中身の話です。

会議をやるかどうかの判断基準を、私はひとつに置いています。その会議に向けて「いい報告をしよう」と、店長の行動が変わるか。変わるなら、やる意味があります。変わらないなら、たたんでよい会議です。

なぜこれが基準になるかというと、報告そのものには、集まる理由がないからです。各店の売上と原価率を読み上げるだけなら、前日に表を配れば済みます。店長を営業中の店から引き剥がして、全員で順番に聞く必要はありません。

店長会議が形だけになっている会社は、だいたいここが逆になっています。時間の大半を各店の報告に使い、決めるところまで行かずに終わる。そうすると店長は「報告の準備」はしますが、報告される中身そのものを良くしようとはしません。会議までに現場で何かを変える理由が、どこにもないからです。

では何をすれば、会議の前に店長が動くのか。飲食業で効くのは、この2つです。

ひとつは、渡す数字を、その店長が動かせる範囲に揃えること。本部費を配賦したあとの利益を渡しても、店長には打つ手がありません。前のところで書いた段の分け方が、そのままここで効いてきます。

もうひとつは、数字が間に合っていること。9月の数字が11月末に出てくるなら、誰も9月のために動けません。締め日を決めるのは、早く閉めること自体が目的ではなく、会議の前に店長が動ける時間を残すためです。

そして会議で決めるのは、各店ひとつで構いません。10項目の課題を並べた会議より、ひとつ決めて翌月にその結果を確かめる会議のほうが、数字は動きます。

損益分岐日商——「今日いくら売れば赤字でないか」

店長に「売上を上げてくれ」と言っても、何も変わりません。目標が「頑張る」になるからです。

代わりに渡すのが、損益分岐日商です。この店が今日いくら売れば赤字にならないのか。1日単位の金額にすると、現場で使えるようになります。

損益分岐日商の計算式

損益分岐売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
損益分岐日商 = 損益分岐売上高 ÷ 月の営業日数

固定費には、家賃・固定的な人件費・水道光熱費の基本料・リース料・減価償却費・配賦される本部費を入れます。限界利益率は、1円売れていくら残るかの率で、(売上-変動費)÷売上です。

仮に、月の固定費が450万円、限界利益率が65%、営業日数26日の店で計算します。

損益分岐売上高 = 450万円 ÷ 0.65 = 約692万円
損益分岐日商 = 692万円 ÷ 26日 = 約26.6万円

この店は、1日26.6万円で収支ゼロ。ここを超えた分の65%が利益になります。

営業日数の置き方で、答えが変わります

営業日数は、単純に「月の日数-定休日」ではありません。

  • 定休日……固定の休みは引きます
  • 年末年始・お盆の休業……月によって変わるので、月ごとに置き直します
  • 短縮営業の日……ランチのみの日は0.5日として扱う方法もあります
  • 曜日の構成……金土が5回ある月と4回ある月では、同じ26営業日でも売れる額が違います

この最後が効きます。飲食業の売上は曜日で大きく動くので、営業日数を均すと、曜日構成の悪い月に「未達」が出ます。だから私は、損益分岐日商を2本持つことをお勧めしています。平日の必要日商と、金土の必要日商です。

月の必要売上を、曜日別の売上構成比で割り振れば出せます。この2本があると、店長は月の途中で「今の進捗で足りているか」を自分で判断できます。

固定費に返済を入れた「資金分岐日商」も持つ

損益分岐日商は、会計上の利益がゼロになる水準です。でも飲食業のオーナーが本当に知りたいのは、お金が減らない水準のほうだと思います。

借入の元金返済は経費になりません。だから損益分岐点を超えていても、返済で現金が減る店があります。逆に、減価償却費は現金が出ない費用です。

資金分岐売上高 =(固定費 - 減価償却費 + 借入元金返済額 + 納税予定額)÷ 限界利益率

出店が続いている会社では、この資金分岐のほうが損益分岐より高くなります。「利益は出ているのに通帳が増えない」の正体は、たいていここです。内装と厨房に投資して、償却より返済が早い状態になっています。

手元にいくら残すかの考え方は、月商の何か月分を目安にするかという論点とつながります(参考:手元資金の目安は月商2〜3ヶ月分|適正額の計算と増やす3つの方法)。

日商を、客数と客単価に割る

26.6万円という日商は、まだ現場の言葉になっていません。もう一段割ります。

必要客数 = 損益分岐日商 ÷ 客単価

客単価4,000円なら、必要客数は67人。席数40席なら、回転率1.7回転です。ここまで割ると、店長が自分で動かせる変数になります。客数を増やすのか、客単価を上げるのか、回転を上げるのか。

客単価を上げるなら、ドリンク構成比の話に戻ります。回転を上げるなら、提供スピードと席のレイアウトの話になります。日商を客数×客単価に割ると、そこから先は全部オペレーションの議論になります。これが、損益分岐日商を出す意味です。

店長に渡す形まで落とす

損益分岐日商は、会議資料に載せているだけでは機能しません。店長が毎日見る場所に置いて、はじめて動きます。渡す形は、これくらいまで落とします。

  • 平日の必要日商 = ◯◯円(必要客数 ◯◯人)
  • 金土の必要日商 = ◯◯円(必要客数 ◯◯人)
  • 月の累計必要売上 = ◯◯円(今日の時点で ◯◯円)

月の累計を日々更新するのが、いちばん効きます。月末に「あと何日で、あといくら」が見えている店と、見えていない店で、月末の動き方が変わります。

変動損益と限界利益——多店舗の判断は、ここでしかできない

多店舗の判断は、限界利益という一つの数字に集約できます。多店舗の飲食業で意思決定をするとき、使う道具はこれ1つです。

飲食店の費用を、変動費と固定費に分ける

変動損益計算書は、費用を「売上に連動するもの」と「連動しないもの」に分け直した損益計算書です。

区分 飲食業の該当費用
変動費 食材仕入、ドリンク仕入、割り箸・容器などの消耗品、予約サイト・デリバリーの手数料、クレジット決済手数料、歩合給
固定費 家賃、社員給与、法定福利費(社員分)、リース料、減価償却費、通信費、保険料、水道光熱費の基本料、本部費
半固定(判断が要る) アルバイト給与、水道光熱費の使用量部分、販促費

飲食業で分解がややこしいのは、アルバイト給与です。暇なら早く帰ってもらえるので変動費に近いです。でも、店を開ける以上は最低人数が必要なので、その部分は固定費です。

実務的には、店を開けるのに必要な最低人数の給与を固定費、それを超える分を変動費とするのが扱いやすいところです。精緻にやりたいなら、過去12か月の売上と人件費を散布図にして傾きを取る方法もありますが、多店舗だと店ごとにやる手間が重いので、最低人数方式から始めることが多いです。

水道光熱費も半分固定です。基本料と空調は客が0人でもかかります。ここは夏冬と春秋で変わるので、きれいには分かれません。言い切れないところは固定費に入れて、保守的に見ておくほうが判断を外しません。

限界利益率=1円売れて、いくら残るか

限界利益 = 売上高 - 変動費
限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高

食材原価率30%で、手数料と消耗品で5%なら、限界利益率は65%。売上が100万円増えれば、65万円が利益に乗ります。固定費は変わらないので、増えた売上の65%がまるごと残る計算です。

逆に、売上が100万円減れば65万円の利益が消えます。限界利益率が高い商売は、売上の増減がそのまま利益の増減になります。飲食業が「満席になれば儲かるが、空席が続くと一気に苦しくなる」のは、この構造です。

限界利益で判断する、3つの場面

①デリバリーをやるか、やめるか

デリバリーは売上が立ちます。でも手数料と容器代は変動費です。手数料が売上の3割なら、食材原価30%と合わせて変動費が60%を超え、限界利益率は40%を切ります。店内飲食の65%と比べて、1円の価値が違う売上です。

ここで判断が分かれます。限界利益がプラスで、かつ固定費が増えないなら、やる価値があります。厨房が空いている時間に作れて、人を増やさずに回せるなら、限界利益の分だけ利益が増えます。逆に、デリバリー専用のスタッフを入れるなら固定費が増えるので、その固定費を限界利益で回収できるかという計算になります。

②宴会の値引きを、どこまで受けるか

「40人で、1人3,500円にしてくれないか」。客単価4,000円の店なら12.5%の値引きです。

これも限界利益で判断します。3,500円のうち変動費が35%=1,225円なら、限界利益は2,275円。40人で9.1万円の限界利益です。その日の席がどうせ埋まらないなら、受けたほうが利益は増えます。ただし、満席になる日にその席を押さえられるなら、通常の客で埋めたほうが限界利益は大きくなります。判断を決めるのは値引率ではなく、その日の空席です。

それから、常習化の問題があります。毎回この値段で受けると、それが定価になります。そこは数字の外の判断です。

③営業時間を延ばすか、短くするか

ランチをやめる、深夜営業を切る、定休日を増やす。この判断は、その時間帯の限界利益と、その時間帯に増える固定費(人件費・光熱費)を比べます。

時間帯別の売上が取れていないと、この判断はできません。レジのデータから時間帯別の売上と客数を出せる状態にしておいてください。多店舗でこれが出ていない会社は、営業時間の議論が感覚論になります。

店を1つ閉めても、固定費は全部消えません

多店舗で限界利益を使うとき、いちばん間違いやすいのがここです。

赤字店を閉めれば、その店の赤字が消える——と思ってしまいます。実際に消えるのは、その店の貢献利益です。配賦されていた本部費は、他の店に移るだけで、会社から消えません。

仮に、本部費が月150万円の3店舗の会社で、1店舗を閉めるとします。閉める店の貢献利益がプラス20万円だったなら、閉めた後、会社の利益は20万円減ります。残る2店舗の配賦後利益はさらに悪化します。見た目の赤字が消えても、会社の利益は減っています。

逆に、貢献利益がマイナス30万円の店なら、閉めれば会社の利益は30万円増えます(原状回復費・解約金・残っている借入の扱いは、別に計算が必要です)。

この判断の分かれ目は貢献利益であって、配賦後の店舗利益ではありません。撤退判断を間違える会社は、ほぼ例外なくこの2つを混同しています。

変動損益を、月次で見る形にする

最後に運用の話をします。変動損益計算書は、会計ソフトが標準で出してくれるものではありません。勘定科目を変動費と固定費に振り分ける設定を一度作れば、毎月同じ形で出せます。

多店舗の会社で持っておきたいのは、この3枚です。

  1. 店舗別の変動損益(限界利益・貢献利益・配賦後利益の3段)
  2. 全社の変動損益(本部費を独立の段で表示)
  3. 店舗別の損益分岐日商と、実績日商の差

この3枚が翌月10日に出ていれば、月中に打ち手が打てます。出ていない会社では、どんなに良い分析手法を持ってきても使えません。多店舗の飲食業の数字で、いちばん価値があるのは精緻さではなく速度です。

そして、この3枚は会計データの持ち方で決まります。部門設定、固定資産台帳の店舗コード、勘定科目の変動固定区分。この3つを最初に設計しておけば、あとは毎月同じ手順で出てきます。設計せずに2年分の仕訳が溜まると、遡って直す作業が重くなります。店を増やす前に、数字の器を作っておいてください。

8. 赤字店舗をいつ閉めるか

店舗別の数字を毎月出していて、3号店だけが2年近く赤字のまま。去年も「来期で判断する」と言って、今年もまだ言っている。この話は、面談でいちばん多く出てきます。

閉めるか残すかで社長が迷う理由は、だいたい数字ではありません。開けた店を閉めるという決定が、自分の判断ミスを認める作業になるからです。だから社長は「もう少し様子を見る」を選びます。私も、自分がその立場なら同じことを言うと思います。

ただ、様子を見ている間に出ていくお金は、毎月確定しています。

「赤字店舗」には2種類ある——この区別をしないと話が進まない

店舗別損益の赤字は、中身が2つに分かれます。ここを分けないまま「赤字だから閉める」と決めると、残した店の利益まで減ります。

  • ①限界利益が赤字……売上から変動費(食材・ドリンク・歩合)を引いた段階でマイナス。売れば売るほど現金が減っている状態です
  • ②限界利益は黒字だが、固定費を引くと赤字……粗利は出ているが、家賃・人件費・本部費の負担で沈んでいる状態です

①は、値付けか原価か歩留まりのどこかが壊れています。ただ、閉店の話をする前に、まずそこを直す話になります。実際には①はまれです。飲食で①まで行っているのは、原価率が50%を超えていて、かつ値上げを一度もしていない店に限られます。

多店舗で問題になるのは、ほぼ②です。

残すか閉めるかを決める3つの数字

私が店舗ごとに並べるのは、次の3つです。店舗別損益計算書の下のほうではなく、この3行だけを別紙で作ります。

  1. その店の限界利益(年額)
  2. その店が消えたら、本当に消える固定費(年額)——家賃、その店の人件費、水道光熱費、店舗リース料
  3. 閉店するときに出ていく一時金——原状回復、解約違約金、リース残債、従業員の処遇

判断の軸は単純です。①が②を上回っているなら、その店は本部費と借入返済の一部を稼いでいます。配賦後の損益が赤字でも、閉めたら会社全体の利益はむしろ減ります。

逆に①が②を下回っているなら、その店は他店が稼いだ現金を食べています。この場合は、残す理由を数字の外から持ってこなければなりません。

限界利益が固定費を上回っていても閉めるべき場合

3つの数字だけで決まらない場面があります。多店舗では、むしろこちらのほうが多く出てきます。

ひとつは人です。赤字店に社員が2人張り付いていて、その2人を黒字店に移せば黒字店の売上が伸びる——この状況なら、店舗単体の計算がプラスでも閉めたほうが会社は儲かります。多店舗の経営資源でいちばん希少なのは資金ではなく、店を任せられる人間です。

もうひとつは社長の時間です。赤字店の立て直しに社長が週3日入っていると、新規出店も既存店の改善も止まります。これは店舗別損益には絶対に出てこない費用です。

そして更新です。定期借家の更新や大規模修繕が1〜2年内に来る店は、そのタイミングを撤退の判断期限にできます。更新してしまうと、次の出口は数年先になります。

閉店には、思っているより現金が出ていく

撤退を決めたあと、資金繰りで慌てる社長が少なくありません。閉店は現金が止まる作業ではなく、現金が一度大きく出ていく作業です。

出ていくものを並べます。原状回復(スケルトン戻しなら坪単価で効きます)、解約予告期間中の家賃、造作の残存簿価の除却損、厨房機器のリース残債、従業員の退職や配置転換に伴う費用、店舗名義の保証金が全額戻らない分。さらに、売上がなくなっても消費税と社会保険の支払いは翌月以降に続きます。

この合計が読めていないと、「赤字を止めたのに資金が苦しくなった」という状態になります。閉店は、半年分の資金繰り表に落としてから実行する話です。

出店のときに撤退条件を書いておく

これは、私が複数社の経営会議に出ていて、役員会で必ず発言するようにしている点です。出店を決議する場で、撤退条件を同じ議案に入れておくことです。

書き方は難しくありません。「開店12か月目までに月次の限界利益が店舗固定費を上回らない場合、取締役会で継続の是非を再決議する」。この一行があるだけで、2年後の判断が「社長の心変わり」ではなく「約束どおりの手続き」になります。

判断を人格から切り離しておく。これが、意思決定の場に外部の立場で入っている人間の仕事だと思っています。

2026年の飲食業倒産は、上半期で過去最多

東京商工リサーチの集計では、2026年上半期(1〜6月)の飲食業の倒産は「509件(前年同期比5.3%増)」で、1997年以降で初めて500件台に乗りました。内訳では物価高関連が86件(同53.5%増)、人手不足関連が36件(同125.0%増)とされています(出典:東京商工リサーチ 2026/07/08公表)。

人手不足関連が前年の2.25倍というのが、多店舗にとっていちばん重い数字です。閉店の引き金が「客が来ない」から「人が採れないので開けられない」に変わってきています。

そして、人が採れずに開けられない店は、立て直しのレバーが1本も残っていません。赤字が人の問題に変わった時点で、撤退の判断は早いほうがいい。

立て直しに賭けるなら、期限と1つの指標を決める

閉めない選択をするなら、「頑張る」では終わらせないことです。期限は3か月、指標は1つだけに絞ります。

客数が落ちている店なら客数、単価が落ちている店なら客単価、人件費が重い店なら人時売上高。3つ同時に追うと、どれも動きません。3か月で指標が動かなければ、そのレバーは効かないと判断して、次のレバーに移るか撤退に移ります。

言い直すと、立て直しは「やるかやらないか」ではなく「どの順番で、いつ見切るか」の設計です。

9. 多店舗の資金繰り——出店投資と運転資金

飲食業は入金が早い業種です。現金とカード、どちらも入金サイトが短いためです。だから社長の感覚として「資金繰りは回っている」になりやすく、資金繰り表を作っていない会社がかなりあります。

その感覚が壊れるのが、出店のときです。

出店資金は「投資」と「運転資金」の2本に分けて数える

出店に必要なお金を1本の数字で見ている会社が、かなりあります。これを2本に分けると、借入の組み方が変わります。

投資分は、保証金・礼金、内外装の造作、厨房機器、看板、什器、設計料。これは数年にわたって使うものなので、設備資金として、償却期間に見合った長期で借りるのが筋です。

運転資金分は、開店前の採用・研修費、初期の仕込み、販促、そして立ち上がり期間の赤字。これを投資分と混ぜて「出店費用3,000万円」と1本で銀行に出すと、審査側は何年で返す話なのか判断できません。

ここを混ぜたまま通ってしまうこともありますが、それは審査が甘かっただけで、次の出店では効きません。分けて出すと、銀行の会話が「この設備は何年使えますか」「立ち上がりは何か月見ていますか」に変わります。この2つに答えられる社長は、通ります。

新店が現金を生み始めるのは何か月目か

立ち上がり期間を資金計画に入れていない出店計画は、ほぼ必ず資金が足りなくなります。

立地と業態によるので一律の月数は言えません。繁華街の居酒屋と住宅地のカフェでは、認知が積み上がる速度がまったく違います。ここは私も「3か月です」と言い切れる領域ではありません。

代わりに、計画の作り方だけ決めておきます。開店月の売上は、既存の同業態店の開店初月の実績に置きます。3号店を出すなら、1号店と2号店の開店初月・3か月目・6か月目・12か月目の実数を並べて、その平均より低い数字で計画を引きます。自社に実績があるのに、新店の計画だけ既存店の安定値で引いてしまう——これが出店資金ショートの最大の原因です。

❌ 多店舗化でいちばん多い失敗の形

既存店が好調なときに、自己資金をほとんど入れずに全額借入で2店舗を同時に出すこと。立ち上がりが計画より3か月遅れただけで、2店舗分の赤字と2本分の返済が同じ月に重なります。

同時出店が悪いのではありません。問題は、1店舗の失敗を2店舗分に拡大する設計になっていることです。順番に出せば、1号店の立ち上がり実績を2号店の計画に反映できます。同時に出すと、その学習の機会を自分で捨てることになります。既存店の利益で新店の立ち上がり赤字を半年吸収できるか——この1点だけは、出店前に必ず計算してください。

月次の残高ではなく、支払いが集中する日の残高を見る

飲食業の資金繰りは、月単位で見ると見えません。入金は毎日入ってきますが、出ていくお金は日が決まっています。食材の仕入支払、家賃、給与、社会保険、源泉、消費税。

多店舗になると、この山が店舗数に比例して高くなります。月末残高が1,000万円あっても、給与と家賃が重なる日に600万円出るなら、その日の朝の残高を見ておく必要があります。

私が多店舗の飲食業に勧めているのは、13週(約3か月)の週次ローリング資金繰り表です。月次では間に合いません。週で見ると、出店の意思決定を「いつなら出せるか」で語れるようになります。

黒字店の現金が、赤字店の穴を埋めている状態に気づけるか

通帳が1本だと、会社全体の残高しか見えません。赤字店が月50万円の現金を食べていても、黒字店が80万円作っていれば、通帳は増えます。社長の目には「回っている」と映ります。

これが、多店舗の赤字が長期化する構造的な理由です。単店なら1か月で分かる赤字が、多店舗だと2年気づかれません。店舗別の損益と、店舗別のキャッシュを分けて見るのは、この構造を壊すためです。

設備投資の前に、既存借入の返済がいくらか

出店の可否で最初に見る数字は、売上予測ではありません。既存の年間返済額(元金)と、既存店が作る年間の簡易キャッシュフローです。

既存店のキャッシュフローから既存の元金返済を引いた残りが、新店の立ち上がり赤字と新規借入の返済を吸収できる額になります。ここがすでにマイナスなら、出店ではなく既存店の改善が先です。

この計算を先にやっておくと、銀行に行く前に答えが出ます。そして、断られてから考えるのと、計算してから行くのでは、同じ結果でも次の一手が違ってきます。融資が通らなかったときの考え方は銀行融資を断られた次の一手に書いています。

10. 銀行は多店舗飲食業のどこを見るか

決算書1枚では、店舗が3つに増えたことを説明できません。売上が倍になっていても、銀行の画面では「売上増・借入増・利益率低下」と並ぶだけです。

私は東京プロマーケット上場準備中の企業の監査役と、社会医療法人の監事を務めています。資料を出す側ではなく、審査する側・監査する側の席に座ってきました。その席から見ると、審査で落ちる資料には共通点があります。数字は合っているのに、その数字がなぜその水準なのかを、資料自身が説明していません。

債務償還年数は、出店のたびに悪化する

銀行が借入余力を測る代表的な指標が、債務償還年数(有利子負債 ÷ 簡易キャッシュフロー)です。「今の稼ぐ力で、何年あれば借金を返しきれるか」を表す数字で、一般に10年以内、できれば7年を切っていたいラインとされます。

多店舗飲食業はここで不利になります。出店すると借入が先に増え、キャッシュフローは半年から1年遅れて増えます。出店した年の決算だけを見れば、必ず悪化しています。

この構造を資料で先に説明しておくかどうかで、評価が変わります。「今期の債務償還年数は12年ですが、うち新店2店分の借入が8,000万円で、この2店の月次限界利益は6か月目でこの水準に到達しています」。この一文があるだけで、悪化は「失敗」ではなく「投資の進行中」として読まれます。

銀行が多店舗飲食業に必ず聞く3つのこと

面談の場で出てくる質問は、だいたい次の3つに集約されます。

  1. 既存店の売上は増えているか——全社売上が増えていても、既存店が減っていて出店で埋めているだけなら、評価は下がります
  2. 新店の立ち上がりは計画どおりか——計画と実績の両方を出せるかが見られます
  3. 人は採れているか——2026年はここが最も重く見られています。採用できていない会社の出店計画は、銀行も信じません

1つ目の既存店売上(既存店前年比)は、自分の資料に自分で入れておくべき数字です。聞かれてから出すのと、最初から入っているのでは、資料の格が違います。

店舗別損益を持っていくと、審査の会話が変わる

これは経験上、間違いないと言えます。店舗別の損益を持ってくる飲食業は、まれです。

店舗別の数字があると、銀行は「どの店が稼いでいて、どの店が足を引っ張っているか」を自分で確認できます。確認できると、融資の判断が「飲食業というリスクの高い業種」から「この会社のこの店への投資」に降りてきます。業種で括られるのを避けられる、ということです。

そして、赤字店があることは隠さないほうがいいです。赤字店の存在を自分から開示して、その店の撤退条件まで書いてある資料を、銀行は信用します。隠した赤字は、必ず試算表で見つかります。見つかったときの信用の落ち方のほうが、よほど重く響きます。

設備資金と運転資金を分けて申し込む

出店資金をまとめて「運転資金」で借りると、短期の返済になり、月々の元金が重くなります。造作と厨房機器は設備資金です。耐用年数に見合った期間で借りるのが本来の形で、これは銀行に言われるのを待つ話ではありません。

申込書の書き方の勘所は、御社の借入構成と償却の残り方を見ないと具体的には言えないので、記事には書きません。個別の相談で、返済予定表と固定資産台帳を並べながらお伝えしています。

制度融資・補助金は「前提」ではなく「上乗せ」で考える

大阪府・大阪市の制度融資や保証協会の制度は、多店舗飲食業でも使えるものがあります。使う順番と期限の考え方は大阪の制度融資と信用保証にまとめました。

ただ、補助金を出店計画の前提に置くのは勧めません。採択は確定しないうえ、入金は事業完了後です。出店は補助金なしで成立する計画で組んでおき、採択されたら借入を減らすか自己資金を厚くします。この順番で考えてください。

「出店したいが、借りられるか分からない」という段階でご相談ください

直近1期の決算書と返済予定表があれば、既存店のキャッシュフローで新店の立ち上がりと返済を吸収できるかを、その場で計算して並べます。店舗別の数字が無い状態でも構いません。初回45分・無料・対面/オンラインどちらでも対応します。

▶ 無料相談を申し込む(フォーム)
▶ お電話:06-7777-1762(平日9:00〜20:00/土日祝も対応可)
▶ LINEで気軽に相談する

11. 消費税の実務——簡易課税・持ち帰り・インボイス

テイクアウトを始めた店のレジを見せてもらうと、店内と持ち帰りが同じボタンで打たれていることがあります。売上は正しく集計されているのに、税率の区分だけが消えている状態です。

飲食業の消費税は、制度の難しさではなく、日々のオペレーションで区分が残るかどうかで決まります。そして2027年4月には、飲食料品の税率そのものが動く見込みです。多店舗は、この準備を店舗数分やることになります。

店内10%・持ち帰り8%の線は、どこで引かれているのか

軽減税率の対象は飲食料品の譲渡で、そこから「飲食店業等を営む者が行う食事の提供」が外されています。この「飲食店業等」の範囲を定めているのが消費税法施行令第2条の4第1項です。

「法別表第一第一号イに規定する政令で定める事業は、食品衛生法施行令(昭和二十八年政令第二百二十九号)第三十四条の二第二号(小規模な営業者等)に規定する飲食店営業その他の飲食料品(同表第一号に規定する飲食料品をいう。次項において同じ。)をその場で飲食させる事業とする。」
(消費税法施行令第2条の4第1項/出典:e-Gov法令検索)

条文の要は「その場で飲食させる」です。設備で飲食させれば10%、持ち帰らせれば8%。この線は、商品の種類ではなく提供の形で引かれています。

判定するのは「提供する時点」——意思確認が運用の全部

では、どの時点で判定するのか。国税庁のパンフレットには、こうあります。

「適用税率の判定は、事業者(売手)が飲食料品を提供する時点(取引を行う時点)で行います。」「イートインかテイクアウトかは、飲食料品を提供する時点で、顧客に意思確認を行うなどの方法で判定します。意思確認は、口頭による他、例えばコンビニエンスストア等では、『イートインコーナーを利用する場合はお申し出ください。』といった掲示により行うなど、営業の実態に応じた方法で行うこととして差し支えありません。」
(出典:国税庁「飲食料品に係る2年間の消費税率引下げについて」令和8年9月/国税庁PDF)

つまり、持ち帰ると言った客が店内で食べ始めても、提供時点の判定は変わりません。逆に、意思確認そのものをしていない店は、区分の根拠が残りません。

多店舗で起きるのは、ここのブレです。1号店の店長は毎回聞いているのに、3号店の新人アルバイトは聞いていない、ということが起きます。税率の正しさが、店舗ごとの教育水準に依存している状態が、いちばん危ういところです。

簡易課税の飲食店業は第四種(60%)。ここは動かせない

基準期間の課税売上高が5,000万円以下なら、簡易課税を選べます(消費税法第37条第1項)。みなし仕入率は事業区分で決まり、飲食店業は第四種事業です。

区分の根拠は消費税法施行令第57条第5項で、第五種事業の定義から飲食店業が明示的に外されています。

「四 第五種事業 次に掲げる事業(前三号に掲げる事業に該当するものを除く。)をいう。/イ 運輸通信業/ロ 金融業及び保険業/ハ サービス業(飲食店業に該当するものを除く。)」「六 第四種事業 前各号に掲げる事業以外の事業をいう。」
(消費税法施行令第57条第5項第4号・第6号/出典:e-Gov法令検索)

第四種のみなし仕入率は60%です。根拠は施行令ではなく消費税法第37条第1項第1号の本文で、「残額の百分の六十に相当する金額(卸売業その他の政令で定める事業を営む事業者にあつては、…政令で定める率を乗じて計算した金額)」という構造になっています。つまり60%が法律上の原則で、卸売業などだけが政令で別の率を使うという作りです。サービス業なら50%ですが、飲食店業はそこから外れて原則の60%に戻る、ということになります。

持ち帰り比率が高い店は、事業区分が1つで済まない場合がある

ここは注意が必要です。製造小売業は第三種事業(みなし仕入率70%)に含まれます。調理した商品を持ち帰り販売する部分が製造小売に当たると、第三種として区分する余地が出てきます。

ただし、どこまでが「飲食店業の一部」で、どこからが「製造小売」なのかは、店の実態(販売形態、設備の有無、売上構成)で変わります。国税庁の事業区分の説明にも、テイクアウト部分の区分までは書かれていません。一律に第三種で申告できる、とは言えない領域です。私はここを断定せず、個別に判定しています。

そして、区分が2つ以上あるのに区分していない場合の扱いは、条文に定めがあります。

「三 第一種事業、第二種事業又は第三種事業と第四種事業とを営む事業者が当該課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等で、第一種事業、第二種事業又は第三種事業に係るものであるか第四種事業に係るものであるかの区分をしていないものがある場合には、当該区分をしていない課税資産の譲渡等は、第四種事業に係るものとする。」
(消費税法施行令第57条第4項第3号/出典:e-Gov法令検索)

区分していなければ、低いほうのみなし仕入率に寄せられます。つまり、レジで区分していないことは、そのまま納税額の損になります。レジの設定は、経理の問題ではなく税額の問題です。

【改正案】2027年4月に飲食料品が1%へ——外食は10%のまま

ここが、いま飲食業の社長に最も伝えるべき論点です。ただし先に書いておくと、これはまだ成立した制度ではありません。法案は2026年10月9日に国会へ提出され、本稿執筆時点の2026年11月1日現在、審議中です。以下は、成立した場合の内容として読んでください。

令和8年9月15日に閣議決定された大綱に基づき、令和9年(2027年)4月1日から令和11年3月31日までの2年間、飲食料品に係る消費税率を1%(国0.78%・地方0.22%)に引き下げる改正案が示されています。国税庁のリーフレットには次のように書かれています。

「令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間、飲食料品に係る消費税率が1%(国・地方合計)に引き下げられます。」「飲食店業等を営む事業者が行うものであっても、持ち帰り(テイクアウト)は、単なる飲食料品の販売であり、税率1%の対象とされます。」「飲食店業等を営む事業者が、テーブル・椅子等の飲食に用いられる設備(飲食設備)がある場所において、飲食料品を飲食させる役務の提供をいい、税率10%の対象とされます。」
(出典:国税庁「2年間の消費税率引下げについて」令和8年9月/リーフレットPDF・パンフレットPDF)

出前・宅配も1%の対象、酒類は対象外です。店内で食べれば10%、持ち帰れば1%。この差は9ポイントあります。現在の10%と8%の2ポイント差とは、意味がまったく違います。

多店舗の飲食業が今から考えるべきことは3つです。レジと会計ソフトの税率設定を店舗分やりきれるか。価格表示をどうするか。そして、持ち帰り比率が高い業態なら、仕入は10%で払って売上は1%で預かる構造になるため、簡易課税より本則課税のほうが有利に逆転する可能性があります。

この点については、改正案に特例が用意されています。

「飲食料品の販売を行う簡易課税事業者は、令和9年4月1日の属する課税期間中(例えば、個人事業者であれば令和9年末まで)に『簡易課税制度選択不適用届出書』を提出すれば、その課税期間から一般課税により申告することができます。」「飲食料品の販売を行う簡易課税事業者の令和9年4月1日の属する課税期間については、この2年間の継続適用要件(いわゆる2年縛り)は適用しないこととされます。」
(出典:同パンフレット/国税庁PDF)

簡易課税の計算方法にも特例が入ります。「業種区分にかかわらず、飲食料品の販売(1%対象)に係る売上税額と同額の仕入税額を計上する」とされており、簡易課税を続ける場合の1%部分は実質的に納税が出ない形になります。

なお、ここまではまだ確定した制度ではありません。国税庁のリーフレット(令和8年9月)には「この内容は、今後、法案が国会に提出され、審議を経た上で可決・成立した場合のものです」と明記されています。その後、法案は2026年10月9日に国会へ提出され、衆議院財務金融委員会で審議されています(本稿執筆時点の2026年11月1日現在、成立していません)。臨時国会の会期末は12月12日です。
確定を前提にレジや券売機の入替契約を結ぶのは避けてください。ただしどの商品がどちらの税率になるかの洗い出しと、改修の見積だけは今のうちに取っておくこと。成立してから動くと、多店舗では間に合いません。

インボイス——飲食業は「もらう側」で漏れる

飲食業は不特定多数に売るので、適格簡易請求書(レシート)の発行側の論点は比較的単純です。漏れるのは受け取る側です。

店長が自腹で買った備品、自動販売機や公共交通の支払、個人の職人に頼んだ軽微な修繕、商店街や組合への支払。多店舗になると、この手の少額支出が店舗数分発生します。

ここで効くのが少額特例です。ただし、期限と規模の要件があります。基準期間の課税売上高が1億円以下(または特定期間の課税売上高が5,000万円以下)の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れについて、帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められます。適用は令和5年10月1日から令和11年9月30日まで(出典:国税庁「少額特例の概要」)。

1万円の判定は一回の取引単位です。商品ごとでも月まとめの請求書単位でもありません。そして、年商が伸びて基準期間の課税売上高が1億円を超えた期からは、この特例が使えなくなります。店舗を増やしている会社は、自分がいつこの特例から外れるかを、出店計画と一緒に見ておく必要があります。

12. オーナーの年収と役員報酬の決め方

「3店舗やっている社長の年収は、どれくらいが普通ですか」。この質問は、面談で本当によく出ます。そして、だいたい初対面の社長が最初に聞きたいことの3番目くらいに入っています。

相場を答えることはできます。ただ、相場で決めた報酬は、資金繰りで必ず無理が出ます。多店舗の役員報酬は、相場ではなく返済後に残る額から決める話です。

オーナーが取れる額は、この順番で決まる

計算の順番を決めてしまうと、迷いが消えます。

  1. 全店の限界利益の合計
  2. −店舗固定費(家賃・店舗人件費・水道光熱)
  3. −本部固定費(本部人件費・システム・保険・その他)
  4. −年間の借入元金返済額
  5. −翌期の出店・修繕のために残しておく額
  6. −法人税等・消費税の納税分
  7. =ここから、役員報酬と法人に残す利益を分ける

4番の元金返済が、飲食業で最も見落とされます。元金返済は損益計算書に出てきません。「利益が出ているのに取れない」の正体はほぼこれです。

そして5番を飛ばすと、翌年の厨房機器の故障で資金が止まります。10年目の店は、必ず何かが壊れます。

期中には変えられない——定期同額給与という縛り

役員報酬は、原則として期の途中で上げ下げできません。できないというより、変えると損金にならない部分が出ます。根拠は法人税法第34条第1項第1号です。

「一 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(次号イにおいて「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(同号において「定期同額給与」という。)」
(法人税法第34条第1項第1号/出典:e-Gov法令検索)

多店舗の飲食業では、ここが実務上きついところです。出店した年は赤字、翌年に回収という波があるのに、報酬は期首に1年分を決めてしまわなければなりません。だから、報酬を決める面談は、決算日から3か月以内にやるのが実務です。決算の数字が固まり、来期の出店と返済が見えた状態で決めます。年度が始まってから「どうしましょう」では、選択肢がありません。

賞与を出すなら、事前に届け出る

利益が出た期に役員へ賞与を出したい場合、損金にするには事前確定届出給与の形を取ります。法人税法第34条第1項第2号イが届出を求めていて、その期限は政令にあります。

「株主総会等の決議により法第三十四条第一項第二号の役員の職務につき同号の定めをした場合における当該決議をした日(同日がその職務の執行の開始の日後である場合にあつては、当該開始の日)から一月を経過する日(同日が当該開始の日の属する会計期間開始の日から四月(中略)を経過する日(以下この号において「四月経過日等」という。)後である場合には当該四月経過日等とし(後略)」
(法人税法施行令第69条第4項第1号/出典:e-Gov法令検索)

読みにくい条文ですが、実務の押さえどころは1つです。株主総会の決議から1か月以内か、事業年度開始から4か月以内か、早いほうの期限までに届け出ます。期末に利益を見てから決めることはできません。

そして、届け出た金額と実際の支給額が一致しない場合、その支給額の全額が損金不算入として扱われるのが実務上の整理です。条文に「1円でも」と書いてあるわけではありませんが、一部だけが認められるという扱いにはなりません。ここは「だいたい」が効かないところです。

高すぎる報酬は、否認される余地がある

定期同額の形式を守っていても、金額が過大だと判断される余地は残ります。法人税法施行令第70条第1号イは、判断の基準をこう書いています。

「(中略)が、当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額」
(法人税法施行令第70条第1号イ/出典:e-Gov法令検索)

見られるのは、職務の内容、会社の収益、使用人への給与の状況、同業同規模の水準。とはいえ、実際に働いていて、会社が稼いでいて、社員にもきちんと払っている会社では、まず問題になりません。

論点になりやすいのは、実際には店に出ていない家族を役員にしているケースです。配偶者や子を役員にするのは制度上おかしくありませんが、職務の実態と、議事録・業務の記録が残っているかが見られます。報酬額より先に、実態のほうが問われます。

手取りで考えると、答えが変わる

役員報酬を上げると、所得税・住民税と社会保険料が同時に増えます。会社負担の社会保険料も増えるので、会社と個人を合わせた負担で見ないと判断を誤ります。

私は、報酬の案を2〜3本作って、会社の税負担・個人の税負担・社会保険料・手取りを並べた表を一緒に見ながら決めています。1本の案だけ持っていくと、社長は「それでいい」と言うだけになります。選べる形にすると、社長自身が返済と出店のバランスを考え始めます。

この表の作り方は、御社の借入条件と家族構成で中身が変わるので、記事では具体的な設計までは書きません。

法人に利益を残すか、報酬で取るか

これは節税の話ではなく、銀行の話です。

役員報酬を上げれば法人の利益は減り、自己資本は積み上がりません。自己資本が薄い会社は、次の出店で借りにくくなります。多店舗化を続けるつもりなら、法人に利益を残すほうが結果的にオーナーの資産が増えます。借入枠が、出店という形で資産に変わるからです。

逆に、店舗数をこれ以上増やさないと決めているなら、法人に過剰に残す理由は薄くなります。出店を続けるのか、ここで止めるのか——報酬の設計は、その一段上の意思決定とセットでしか決まりません。

13. 業態別の勘所(居酒屋・カフェ・ラーメン・焼肉)

ここまでの数字の作り方は業態に関係なく使えます。ただ、どの数字を先に見るかは業態で変わります。

居酒屋——客単価とドリンク比率が利益の全部

居酒屋はフードとドリンクの原価率が大きく違うため、ドリンク比率が1〜2ポイント動くだけで店の利益が変わります。だから見るべきは原価率の合計ではなく、フード原価率とドリンク原価率を別に出した表です。

そして居酒屋は、東京商工リサーチの同じ集計(2026年上半期)で倒産が初めて100件を超えた業態とされています(出典:東京商工リサーチ)。価格を上げられず、人も採れない店が集中している業態です。多店舗で居酒屋を持っているなら、店舗別の限界利益の見直しを最優先にしてください。

カフェ——原価は低いが、席効率で決まる

カフェは原価率が低い代わりに、滞在時間が長く回転が効きません。見るべきは原価ではなく1席あたりの月売上と人時売上高です。原価率25%の店が赤字になるのは、ほぼ席効率と人件費の問題です。逆に言えば、原価を1ポイント下げる努力は、カフェではあまり効きません。

テイクアウト比率を上げられる業態でもあるので、2027年4月の税率引下げで最も影響を受けます。持ち帰りが1%、店内が10%になるなら、価格設計そのものを考える余地が出てきます。

ラーメン——原価は上がり続けるが、値上げの弾力性はある

小麦・豚骨・鶏ガラ・海苔・卵、どれも数年単位で上がっています。一方で、ラーメンは1杯あたりの単価が明確なので、値上げの影響を客数で測りやすい業態です。

多店舗ラーメンで効くのは、仕込みの集約です。セントラルキッチンを持つ判断は、店舗数と1店あたりの仕込み時間で決まります。ただ、セントラル化は固定費を増やすので、閉店の自由度は下がります。ここは両方の計算を並べる話になります。

焼肉——仕入が重く、歩留まりが利益を決める

焼肉は原価率が高く、仕入単価の変動が直接効きます。そして部位ごとの歩留まりで実質原価が変わるため、メニュー別の理論原価と実際原価の差を毎月出す意味がいちばん大きい業態です。

仕入先の価格交渉力が利益の源泉になるので、多店舗化のメリットが最も出やすい業態でもあります。3店舗でまとめて仕入れる交渉は、1店舗ではできません。

業態が混ざっている会社は、本部費の配賦で揉める

居酒屋2店とカフェ1店、のような構成は珍しくありません。この場合、本部費を売上比で配賦すると、売上の大きい居酒屋が不利に見えます。

私は、業態が混ざっている会社では配賦前の店舗限界利益を主表にして、配賦後は参考値として横に置きます。配賦のルールを議論し始めると、肝心の「どの店が稼いでいるか」の話が1か月止まります。

14. 正直に書く|この記事の考え方が効かない会社

ここまで書いてきた数字の作り方が、効かない会社があります。先に書いておきます。

1店舗、2店舗の会社には、店舗別損益も本部費配賦も要りません。社長が全部見えているので、数字で確認する必要がないからです。この記事の仕組みは、社長の目が届かない店が出てきた会社のためのものです。1〜2店舗なら、原価率と人件費率を月次で見ていれば十分です。

日々の数字が集まらない会社では、店舗別損益を作っても1か月で止まります。レジの売上が店舗別に取れていない、シフトが店舗別に集計できていない、請求書がどの店の分か分からない。この状態で損益表の設計から始めても、入れる数字がありません。先にやるのは、売上・シフト・仕入の3つが店舗別に取れる状態を作ることです。順番を間違えると、全部無駄になります。

社長が数字を見ない会社では、誰が作っても使われません。これは能力の話ではなく、経営のスタイルの話です。味と人で伸びてきた会社は実際にありますし、それを否定するつもりはありません。ただその場合、財務の仕組みを入れるより、数字を見る役割を社長以外に置くほうが現実的です。

最後に、ひとつだけ。撤退を決める気がない会社では、撤退の計算をしても意味がありません。計算は判断の材料であって、判断そのものではありません。材料を揃えても決めない時間が続くなら、その間も赤字は積み上がります。

15. よくあるご質問(FAQ)

Q1. 3店舗の飲食店オーナーの年収は、どれくらいが普通ですか?

相場で答えるより、計算の順番で考えたほうが現実的です。全店の限界利益から店舗固定費・本部固定費・年間の借入元金返済・翌期の修繕や出店の留保・納税分を引いた残りが、役員報酬と法人に残す利益の原資になります。利益が出ているのに取れないという会社は、ほぼ借入元金返済を計算に入れていません。元金返済は損益計算書に出てこないためです。業態・家賃水準・借入残高で答えが大きく変わるので、決算書と返済予定表を見ながら計算するのが確実です。

Q2. 赤字の店舗は、どの数字で閉めると判断すればいいですか?

3つの数字を並べます。①その店の年間限界利益、②その店が無くなれば本当に消える固定費(家賃・その店の人件費・水道光熱・店舗リース)、③閉店時に出る一時コスト(原状回復・違約金・リース残債・従業員の処遇)。①が②を上回っていれば、本部費配賦後が赤字でも会社全体の利益には貢献しています。①が②を下回っているなら、他店の現金で支えている状態です。ただし、赤字店に優秀な社員が張り付いている場合や、社長の時間を奪っている場合は、単体の計算がプラスでも閉めたほうが会社は儲かります。

Q3. 飲食店の持ち帰りは8%、店内は10%。この判定はいつ行うのですか?

飲食料品を提供する時点(取引を行う時点)で判定します。国税庁は、口頭での意思確認のほか、掲示による確認など営業の実態に応じた方法で差し支えないとしています。持ち帰ると言った客が店内で食べ始めても、提供時点の判定は変わりません。逆に意思確認をしていない店は区分の根拠が残らないため、多店舗の場合は店舗ごと・スタッフごとに運用がブレない仕組みにしておく必要があります。

Q4. 2027年4月から飲食料品が1%になると聞きました。飲食店はどうなりますか?

令和8年9月15日に閣議決定された大綱に基づく改正案では、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間、飲食料品に係る消費税率が1%(国0.78%・地方0.22%)に引き下げられるとされています。国税庁の資料では、持ち帰り(テイクアウト)や出前・宅配は1%の対象、飲食設備がある場所で飲食させる外食とケータリング等は10%の対象、酒類は対象外と整理されています。店内10%・持ち帰り1%という9ポイントの差が生じるため、レジ・会計ソフトの税率設定、価格表示、簡易課税と本則課税の有利不利の見直しが必要になります。なお、これは改正案の段階で、国会で可決・成立した場合の内容です。

Q5. 飲食店の簡易課税は、みなし仕入率が何%ですか?

飲食店業は第四種事業で、みなし仕入率は60%です。消費税法施行令第57条第5項で第五種事業(サービス業)から飲食店業が明示的に除かれており、第四種事業(前各号以外の事業)に落ちる構造になっています。なお、調理した商品の持ち帰り販売部分が製造小売業に当たる場合は第三種事業(70%)として区分する余地がありますが、店の実態によるため一律には判断できません。区分していない売上は低いほうのみなし仕入率に寄せられる定めがあるので、レジの区分は納税額に直結します。

Q6. 役員報酬は、期の途中で変えられますか?

原則として変えられません。法人税法第34条第1項第1号の定期同額給与は「各支給時期における支給額が同額であるもの」とされているため、期中に増額した部分は損金にならない扱いになります(業績悪化などの一定の事由による改定は別に定めがあります)。実務上は、決算日から3か月以内に、前期の実績と来期の出店・借入返済を見たうえで決めるのが安全です。利益が出た期に賞与を出したい場合は、事前確定届出給与として、株主総会の決議から1か月以内または事業年度開始から4か月以内の早いほうの期限までに届け出ます。届出額と支給額がずれると全額が損金不算入になります。

Q7. 多店舗の飲食店に、税理士は本当に必要ですか?

記帳と申告だけなら、クラウド会計と自社の経理で回っている会社もあります。実際にそうしている多店舗の会社を知っています。必要になるのは、店舗別の数字から撤退・出店・報酬の判断材料を作る工程と、消費税の区分・事業区分・2027年4月の税率変更のように判断を誤ると金額が動く論点です。この2つを社内で持てているなら、申告だけ外注する形でも成立します。逆に、毎月の数字が社長の判断に使われていないなら、税理士を変えても同じ結果になります。

Q8. 店舗別の損益を作ってもらう場合、どこまでお願いできますか?

当事務所では、店舗別損益の設計(勘定科目の整理、本部費の配賦ルール、限界利益までの作り方)、月次での作成と社長への説明、撤退・出店の判断時の計算、銀行提出資料への落とし込みまでを行っています。レジ・シフト・仕入が店舗別に取れていない場合は、その集計の形を作るところから入ります。丸投げで数字だけ受け取る形も可能ですが、判断に使うなら月1回は社長と数字を見る時間を取ったほうが、結果として早く効きます。

Q9. 大阪以外の飲食店でも相談できますか?

できます。事務所は大阪市淀川区西中島にありますが、店舗別損益の設計や資金繰り、消費税の区分の相談はオンラインで全国対応しています。初回45分の相談も対面・オンラインどちらでも構いません。関西圏であれば店舗を見せていただくこともあります。多店舗の場合、現場の動線と人の配置を見ると数字の読み方が変わるので、可能なら一度は店舗を見たいと考えています。

16. まとめ|3店舗を超えたら、判断の材料を先に作る

3店舗を超えた飲食店で起きることは、売上の問題ではありません。社長の目が届かない店ができ、判断の材料が手元に無いまま決めなければならない状態になることです。

材料は4つです。店舗別の限界利益、店舗ごとの専属固定費、13週の資金繰り表、そして撤退条件。この4つがあれば、赤字店を閉めるか残すかも、次の出店を今やるかも、自分の報酬をいくらにするかも、迷いが数字に置き換わります。

そして2027年4月には、飲食料品の税率が動く見込みです。店内10%・持ち帰り1%という差は、レジの設定だけでなく、業態と価格の設計に関わります。多店舗は、決まってから動くと間に合いません。

今日できる小さな行動を1つ。直近1か月の店舗別の売上と、その店だけで発生している家賃・人件費・水道光熱を紙に書き出して、引き算してみてください。3店舗なら15分で終わります。その数字が、撤退と出店の判断の出発点です。

来期も「3号店は来期で判断する」と言い続けるのか。それとも、数字を並べて3か月で決めるのか。分かれ目は、材料を作るかどうかだけです。

赤字店舗の判断と、次の出店。どちらも数字で決めませんか

直近1期の決算書と返済予定表、直近3か月の店舗別の売上があれば、店舗ごとの限界利益と撤退ラインを一緒に計算します。店舗別の数字が整っていない状態からでも構いません。2027年4月の税率引下げに向けた、簡易課税と本則課税の見直しもあわせてお話しします。初回45分・無料・対面/オンラインどちらでも対応します。

▶ 無料相談を申し込む(フォーム)
▶ お電話:06-7777-1762(平日9:00〜20:00/土日祝も対応可)
▶ LINEで気軽に相談する

毎月の数字に、継続して伴走が必要な場合

月次の数字づくりから銀行への説明まで、継続して関わる財務の伴走は、別会社のルークス・パートナーズが担っています。窓口はどちらも稲田本人です。

執筆:稲田 光浩(いなだ みつひろ)/税理士

稲田光浩税理士事務所 代表。近畿税理士会所属(登録番号135413)。税理士業界19年、独立5年目。認定経営革新等支援機関。東京プロマーケット上場準備中の企業の監査役、社会医療法人の監事を務め、複数社の経営会議・取締役会に外部の立場で参加。決算書を作る側と、それを見て判断する側の両方の席から、経営者の数字に伴走しています。
〒532-0011 大阪市淀川区西中島4-2-21 ミツフ新御堂筋ビル605/06-7777-1762

あわせて読みたい

この記事を書いた税理士に、無料で相談できます

節税・資金繰り・銀行交渉など、経営に直結する税務相談を
初回45分・完全無料で承っています。対面・Zoomどちらでも対応。

無料相談を申し込む →

📞 06-7777-1762 平日9:00-20:00(土日祝対応可)

稲田光浩税理士事務所
お問い合わせ・ご相談はこちら
  • 初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。
  • ご相談はご来所のほか、Zoom等のオンラインでの相談も承っております。
お電話でのお問い合わせ・ご相談

「ホームページを見た」とお伝えください。

受付時間:平日9:00-20:00(土日祝対応可)
LINEやChatworkでのお問い合わせ
メールでのお問い合わせ・ご相談

    ご希望の連絡先
    メールにご返信お電話にご連絡どちらでもよい

    当事務所を何でお知りになりましたか(任意)

    ※営業・セールス目的のご連絡はご遠慮ください。ご返信いたしかねます。

    ページトップへ戻る

    まずは相談してみる

    初回45分・オンライン無料

    問い合わせる → LINEで相談