結論から言うと、「黒字なのに現金がない」現象の正体は、利益と現金のズレです。売掛金・在庫・設備投資・借入返済の4ヶ所で、利益が現金以外の形に化けています。これを放置すると、決算は黒字のまま倒産する「黒字倒産」になります。2024年の東京商工リサーチによると、倒産企業の約4割は直近決算が黒字でした(出典:東京商工リサーチ)。
この記事では、年商3〜10億円の成長企業が陥る”資金ショック”の正体と、銀行を動かす財務改善5ステップを、私が顧問先約40社で見てきた現場の数字でお伝えします。読み終える頃には、自社の通帳を見るのが少し楽になっているはずです。

「黒字なのに現金がない」の正体|PLとCFの乖離が起きる5つの理由
まず、社長が一番もやもやする部分を言語化します。利益と現金は別物です。決算書のPL(損益計算書)に出てくる利益と、通帳の残高は、ほぼ必ずズレます。理由は5つあります。
理由1|売掛金が膨らんでいる(請求はしたが入金されていない)
売上を計上した瞬間、PLでは利益が立ちます。しかし入金は1ヶ月後、2ヶ月後です。年商6億円・粗利率30%の会社で、売掛サイトが30日から60日に伸びたとします。これだけで約5,000万円の現金が「請求書の中」に閉じ込められます。社長の感覚では「売上が伸びている」だけですが、通帳では「現金が減っている」になります。
私の顧問先の建材卸では、新規取引先が増えた半年間で売掛金残高が3,200万円増えました。決算は黒字。しかし手元現金は1,800万円減少。これが「黒字なのに通帳が増えない」の典型例です。
理由2|在庫が積み上がっている(仕入れたが売れていない)
在庫はPL上「費用」になりません。「資産」として貸借対照表(BS)に積まれます。仕入代金は現金で出ているのに、利益は減らない構造です。結果、利益と現金の差が在庫の分だけ広がります。
正直、ここを甘く見る社長は多いです。年商10億円の食品製造業の社長は「うちは在庫を多めに持つのが営業力」と言っていました。半年後、在庫が前年比1.5倍に膨らみ、現金は8,000万円消えていました。
理由3|設備投資が回収サイクルに入っていない
設備投資の支出は一括で出ますが、PLには「減価償却費」として5年〜10年で分割計上されます。買った瞬間に現金は1億円減るのに、PLでは年2,000万円ずつしか費用にならない。この差額が、現金の「見えない流出」です。
理由4|借入金の元本返済はPLに出てこない
これが私が一番説明する部分です。借入返済のうち、PLに出るのは「支払利息」だけ。元本の返済は、通帳から現金が消えるだけでPLには載りません。
年商5億円の会社で借入残高1.5億円・返済期間7年だと、年間の元本返済は約2,100万円。これが、利益が出ていても現金が増えない最大の要因になっていることが多いです。
理由5|法人税・消費税の納税タイミング
決算で利益が出れば法人税が発生します。納税は決算月の2ヶ月後。消費税は中間納税を含めて年4回払う会社もあります。利益が出た翌期は、納税で現金が一気に1,500万〜3,000万円流出します。これを資金繰り表に組み込んでいない会社は、必ず資金ショックに遭います。
| PLとCFの乖離要因 | PL影響 | 現金影響 |
|---|---|---|
| 売掛金増加 | 利益+ | 現金− |
| 在庫増加 | 変化なし | 現金− |
| 設備投資 | 減価償却のみ | 現金大幅− |
| 借入元本返済 | 影響なし | 現金− |
| 法人税・消費税納税 | 前期計上済 | 現金− |
関連記事:決算書の読み方②|財務3表を使って経営判断の精度を上げる方法
自社の”資金ショックリスク”を測る3つの数字
「黒字なのに現金がない」を放置すると、ある日突然、銀行から融資が止まります。そうなる前に、自社の資金ショックリスクを3つの数字で測ってください。この3つは銀行員も真っ先にチェックします。
数字1|運転資金(売掛金+在庫−買掛金)
運転資金とは、本業を回すために必要な現金です。計算式:売掛金 + 棚卸資産 − 買掛金。この数字が前年比で増えていれば、その分だけ現金が”事業の中”に飲み込まれています。
年商5億円なら、運転資金は5,000万〜8,000万円が目安。これが1億円を超えてきたら、私は社長に「ここから先、売上を伸ばすには追加の運転資金が必要です」と必ず伝えます。
数字2|債務償還年数(有利子負債÷キャッシュフロー)
債務償還年数は、いまの稼ぎで借金を何年で返せるかを示します。計算式:(有利子負債 − 現預金)÷(経常利益 + 減価償却費)。銀行が融資審査で最重視する数字の1つです。
- 5年以内:優良先(追加融資が出やすい)
- 5〜10年:普通(条件次第で追加融資可)
- 10〜15年:要注意(プロパー融資は厳しい)
- 15年超:危険水域(保証協会付きでも難色)
正直、私の顧問先でも10年を超えた瞬間、銀行の態度が露骨に変わった会社が3社あります。融資稟議の決裁ラインが一段上がるからです。
数字3|手元流動性(現預金÷月商)
手元流動性は、いまの現金で何ヶ月生きられるかを示します。計算式:現預金 ÷ 月商。中小企業の目安は1.5ヶ月〜3ヶ月。1ヶ月を切ると、私は社長に「次の決算月までに現金を作る計画を一緒に立てましょう」と伝えます。
「うちは取引先からの入金が安定しているから1ヶ月で十分」という社長もいます。気持ちは分かります。でも、コロナのような外部ショックが来た時、最初に止まるのは入金です。1.5ヶ月分は最低ラインだと私は思います。

銀行が見ている数字|債務償還年数・実質金利・運転資金の関係
ここからは、銀行員の本音を書きます。銀行員が決算書を受け取って最初に見るのは、PLの当期純利益ではありません。順番が違います。
銀行員が決算書を見る順番
- BSの「現預金」と「借入金」の比較
- 債務償還年数(自分で計算する)
- 運転資金の前年比増減
- 営業キャッシュフローの符号(プラスかマイナスか)
- 最後にPLの売上・利益
意外でしたか?PLの利益は最後に見られる数字なんです。銀行員は「いまこの会社にお金を貸して、ちゃんと返ってくるか」を見ています。利益額より、返済原資(≒キャッシュフロー)の方が10倍大事なのです。
実質金利と表面金利の差
もう1つ、銀行員と社長の間で誤解されやすいのが「金利」です。表面金利が1.5%でも、保証料・手数料・拘束預金(積立預金や定期預金)を計算に入れると、実質金利は2.8%になっていることがあります。
年商5億円の建設業の社長は「うちは1.5%で借りている」と胸を張っていました。私が計算し直すと、実質金利は3.1%。差額の1.6%は年間で約120万円。3年で360万円の見えない金利を払っていたことになります。
関連記事:表面金利と実質金利の違いを理解して、財務管理を改善しよう
運転資金は「常に必要な短期借入」と理解させる
銀行に追加融資を依頼するとき、「運転資金が増えたから貸してほしい」と言うと、担当者の評価は半減します。理由は、運転資金は経営者が自分でコントロールすべきもの、と銀行は考えているからです。
正しい言い方は、「売上が前年比1.3倍に伸び、それに伴う必要運転資金が3,000万円増えた。この成長運転資金を短期借入で調達したい」です。これだけで担当者の表情が変わります。「成長」と「数字の根拠」が揃うと、銀行は動きやすくなるからです。
関連記事:【初心者向け】債務償還年数とは?意味・計算方法・目安をわかりやすく解説! / 【実践ガイド】債務償還年数を短縮する5つの改善アクション
銀行を動かす財務改善5ステップ
ここからが本題です。「黒字なのに現金がない」を改善する5ステップを、優先順位順にまとめます。順番が大事です。逆にやると効果が出ません。
ステップ1|資金繰り表を13週間先まで作る
まず、向こう13週間(約3ヶ月)の入金・出金を週次で並べます。Excelで構いません。大事なのは「予測」と「実績」を毎週並べて差を確認することです。
私の顧問先では、最初の3ヶ月で予測精度が一気に上がります。「あと3週間で消費税中間納税が来る」「再来月の社員賞与で1,200万円出ていく」が見えるようになります。見えれば打ち手が出ます。
関連記事:財務コンサルティングで資金繰りが変わる理由|銀行交渉の実例と改善の5ステップ
ステップ2|売掛金回収サイトと在庫水準を見直す
運転資金を圧縮する最速の手段は、売掛金回収を早めることと、在庫を絞ることです。具体的には次の3つ。
- 請求書発行を月末締め翌月末入金から、月末締め翌月20日入金に短縮交渉
- 在庫の「動かない品番」を四半期ごとにリスト化し、処分・値引き販売
- 仕入先への支払サイトは現状維持(無理に延ばすと信用に響く)
年商5億円の卸業で、回収サイトを10日短縮しただけで現金が約1,400万円増えた事例があります。1,400万円分の追加融資を受けるのと、同じ効果です。銀行借りより先に、ここを締める方が早いです。
ステップ3|借入の構造を「短期+長期」に組み直す
借入をすべて長期5〜7年で借りていると、毎月の返済負担が重くなります。運転資金は短期、設備資金は長期が原則です。
- 運転資金:短期借入(1年以内・期日一括返済)or 当座貸越
- 設備資金:長期借入(5〜10年・約定弁済)
- 赤字補填:本来借入で対応せず、根本原因を経営判断で潰す
正直、ここは銀行も提案してくれません。「全部長期で借りた方が月々の返済が減るからお互い楽」という空気があります。でも、長期借入を増やすと債務償還年数が伸び、次の融資が出にくくなります。これは私の顧問先で何度も見てきました。
ステップ4|決算書を「銀行に読ませる」前提で作り込む
多くの社長は決算書を「税務署に出すもの」と思っています。違います。決算書の最大の読者は銀行員です。
銀行員に好印象を与える決算書のポイントは3つ。
- 勘定科目内訳書の「役員貸付金」を消す(あると一発でマイナス評価)
- 仮払金・仮受金を放置しない(怪しい資産・負債として扱われる)
- 事業概況書の従業員数・店舗数・主要取引先を正確に書く(手抜きすると印象がガクッと落ちる)
これだけで、同じ数字の決算書でも銀行内部の格付けが1ランク変わることがあります。格付けが1ランク変わると、調達金利が0.3〜0.5%変わります。年商5億円・借入1.5億円なら、年間75万円の差です。
関連記事:決算書の読み方|経営者が最低限チェックすべき3つの数字
ステップ5|銀行訪問を「年2回」ルーティン化する
最後は、人間関係です。決算月後と中間決算後の年2回、自分から銀行を訪問してください。持参するのは、決算書・試算表・資金繰り表・事業計画の進捗。
「銀行から呼ばれたら行く」スタンスの社長は、信用ランクで損をします。逆に、自分から月次の数字を持って訪問する社長は、追加融資の局面で銀行が動きやすくなります。これは私が大阪・西中島の顧問先で20年間見てきた、ほぼ例外のないルールです。

顧問先で見てきた「変わった会社」と「変わらない会社」の差
私の顧問先約40社のうち、過去5年間で「黒字なのに現金がない」状態から脱出した会社と、いまも同じ景色を見続けている会社があります。両者の差は、はっきり言って「数字を見る習慣」の違いです。
変わった会社の共通点
関西の食品製造業(年商4億円・従業員18名)の社長は、3年前まで月次試算表を見ていませんでした。「数字は税理士の仕事」と思っていたそうです。私が顧問に入って最初の3ヶ月で、社長と一緒に資金繰り表を毎週見直しました。最初は社長も嫌そうでした。
半年後、売掛金回収サイトを15日短縮、在庫を800万円圧縮、長期借入を一部短期に組み替え。結果、手元現金は前年比2,200万円増、債務償還年数は12年から7年に改善。銀行からの追加融資もスムーズに3,000万円出ました。
変わった会社の共通点は3つ。
- 社長自身が月次試算表と資金繰り表を毎月見る
- 数字を社内の幹部1〜2名と共有する
- 銀行に自分から訪問する習慣を持つ
変わらない会社の共通点
逆に、5年経っても同じ景色を見ている会社の共通点も3つあります。
- 「数字は税理士に任せている」と言って試算表を開かない
- 銀行から呼ばれてから動く(先回りしない)
- 資金繰り表を作っていない、or 月1回しか更新しない
正直に言います。私が顧問として入っても、社長自身が変わる気がない会社は変わりません。これは私の限界でもあります。数字を一緒に見る時間を月に2時間取れない社長は、どんなに優秀な税理士やCFOがついても結果が出ません。
業界あるある|税理士に経営相談すると…
税理士業界では「経営相談は時間単価で割が合わない仕事」と言われています。だから多くの税理士は、月次試算表を渡すだけで終わります。社長が「現金が増えないんだけど」と聞いても、「税務的には問題ありませんよ」で終わる、あれです。
これは税理士が悪いのではなく、業界構造の問題だと私は思います。でも、それで困るのは社長の方です。だから私は、税理士業務に加えてCFO顧問の伴走を提供しています。
関連記事:税理士に経営相談できないのはなぜ?社長が一人で悩む本当の理由
自分でできること/専門家に頼むべきこと
「黒字なのに現金がない」を改善するうえで、社長自身でやるべきことと、専門家に頼んだ方が早いことを線引きします。
社長自身でやるべきこと(外注しない)
- 毎月の試算表を1時間眺める習慣
- 資金繰り表の「予実差」を週次で確認
- 銀行担当者との関係構築(年2回の訪問)
- 幹部への数字の共有(最低1名)
これは社長にしかできません。外注すると、社長の経営感覚が育たないからです。
専門家に頼んだ方が早いこと
- 債務償還年数・実質金利の計算と銀行交渉のシナリオ作り
- 資金繰り表のフォーマット設計と13週間予測の精度向上
- 決算書の「銀行向け作り込み」(勘定科目内訳書のチューニング)
- 事業計画書の作成と銀行への持ち込み同行
- キャッシュフロー計算書の作成と分析
このあたりは、税理士1人だけだと厳しいことがあります。税務と財務は別の専門領域だからです。私の事務所では、税務は稲田光浩税理士事務所、財務伴走はLuxe Partnersという形で機能を分けてご提供しています。
私にも分からない領域
正直に書きます。私にも限界があります。海外子会社の連結キャッシュフロー、上場企業の四半期開示、不動産証券化スキームの組成などは、専門の会計士やコンサル会社をご紹介する形にしています。「全部できます」と言う税理士の方が、私は怖いです。
FAQ|「黒字なのに現金がない」改善でよくある質問
Q1|資金繰り表は毎週作らないとダメですか?月1回ではダメですか?
月1回でも作らないよりは100倍マシです。ただし精度を上げたいなら週次更新が理想です。私の顧問先では、最初の3ヶ月は月次でスタートし、慣れてきたら週次に移行する形を取ることが多いです。大事なのは「予測と実績の差」を見る習慣です。
Q2|銀行に追加融資を頼むタイミングはいつが正解ですか?
結論、「お金が欲しい時」ではなく「決算が出た直後」です。具体的には決算月の2〜3ヶ月後、税務申告が済んだタイミング。この時期は銀行も次の融資案件を探しているので、前向きに話が進みます。逆に「来月資金ショートしそう」という相談はほぼ間に合いません。3ヶ月前から動くのが鉄則です。
Q3|顧問税理士がいるのに、別途財務の相談先を持つのは失礼ですか?
失礼ではありません。むしろセカンドオピニオンを持つ社長の方が、私から見ると経営感覚が鋭いです。税理士は税務、財務コンサルは財務、と機能で分けるのは中堅以上の企業では一般的です。「税理士を変える」ではなく「機能を追加する」と考えてもらえば、現顧問との関係も壊れません。
関連記事:財務コンサルティングと税理士の違い|どちらに頼むべきか、何が変わるか / 財務コンサルティング会社の選び方|大阪の中小企業オーナーが後悔しないための基準
Q4|年商3億円の会社で、社外CFOまで必要でしょうか?
必須ではありません。年商3億円なら、月次試算表を社長と税理士で深く読み込むだけで十分なことも多いです。ただし、銀行借入が年商の50%を超えていたり、設備投資を控えている場合は、財務伴走を早めに入れた方が結果が出やすいと私は感じています。
関連記事:財務コンサルは本当に必要?導入すべき会社・不要な会社の違い / 税理士が「財務コンサルタント」として伴走する5つのメリット
Q5|うちは決算書がきれいだから銀行から信頼されているはず。何が問題ですか?
「決算書がきれい」と「銀行が安心して貸せる」は別の話です。銀行員はBSの隅々まで見ます。役員貸付金、仮払金、棚卸資産の急増、売掛金の回収遅れ——どれか1つでも引っかかると格付けが下がります。きれいに見える決算書ほど、細部が雑なことが多いです。
Q6|キャッシュフロー計算書は中小企業でも作るべきですか?
義務ではありませんが、年商3億円を超えたら作ることを私は強く勧めます。理由は、PLとBSだけでは「なぜ現金が減ったか」が説明できないからです。銀行に持参する書類としても、キャッシュフロー計算書がある会社は印象が一段上がります。
Q7|45分の無料相談で何が分かりますか?
45分あれば、債務償還年数・運転資金・手元流動性の3つを概算で出せます。そのうえで「いま自社が銀行からどう見えているか」を一緒に整理します。具体的な改善案は、ヒアリング結果を見てから個別ご提案する流れです。

まとめ|「黒字なのに現金がない」は数字で解ける
ここまでの話をまとめます。
- 「黒字なのに現金がない」の正体は、売掛金・在庫・設備投資・借入返済・納税の5ヶ所で利益が現金以外に化けているから
- 自社のリスクは3つの数字(運転資金・債務償還年数・手元流動性)で測れる
- 銀行員はPLの利益より、キャッシュフローと運転資金を先に見る
- 改善は5ステップ(資金繰り表→売掛金・在庫→借入の組み替え→決算書の作り込み→銀行訪問のルーティン化)の順で
- 変わる会社は社長自身が数字を見る。専門家任せでは変わらない
正直、ここまで読んで「うちもまさにこの状態だ」と感じた社長は少なくないはずです。半年後の決算で同じ景色を見たくなければ、今月が動き出すタイミングだと私は思います。
稲田光浩税理士事務所では、年商3〜10億円の成長企業を中心に、税務顧問とCFO伴走の両輪でご支援しています。「決算は黒字だけど月末が怖い」という状態を、3つの数字で見える化するところから一緒に始めましょう。





