「経理はいるんですよ。でも、数字を見て次の手を一緒に考える人がいないんです」——年商が数億円に乗ったあたりで、多くの社長がこの空白に気づきます。記帳も給与計算も回っている。なのに、銀行交渉も資金繰りも投資判断も、結局は社長が一人で抱えている。その正体は「財務責任者の不在」です。
成長期の社長は、忙しい。
採用、営業、現場、資金繰り。
判断の連続です。
正直に書きます。この空白を埋める方法は、大きく二つしかありません。財務責任者を採用するか、外注するか。どちらが正解かは会社のフェーズで変わります。そして、ここで判断を間違える社長を、現場で何度も見てきました。
この記事では、経理と財務は何が違うのか/財務担当がいないと何が起きるのか/採用と外注どちらがよいか/外注で任せられる範囲を、できるだけ噛み砕いて整理します。年商1〜10億の成長企業の財務に伴走してきた税理士として、現場目線で書きます。
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経理と財務は、何が違うのか?
結論から書きます。経理は「過去のお金を正確に記録する」仕事、財務は「未来のお金を設計する」仕事です。同じ「お金まわり」でも、見ている時間が真逆なんです。
ここを混同している社長が、本当に多い。「経理担当がいるから、財務も見てもらえているはず」と思い込んでいる。でも、経理がどれだけ優秀でも、銀行交渉や資金調達の戦略までは守備範囲の外であることがほとんどです。これは現場で何度も見てきました。
役割の違いを、もう少しだけ具体的に分けてみます。
| 経理 | 財務 | |
|---|---|---|
| 主な仕事 | 記帳・請求・支払・給与・月次決算 | 資金繰り・銀行交渉・資金調達・投資判断 |
| 見ている時間 | 主に過去(確定した数字) | 主に未来(これから作る数字) |
| ゴール | 数字を正確に締める | 会社にお金を残し、回す |
| 求められる力 | 正確性・継続性 | 戦略性・交渉力 |
つまり、経理がいても財務はカバーできない。逆もまた然りで、財務に強い人が記帳を完璧にこなすとも限らない。別のスキルなんです。だから成長期の会社では、経理は採用できたのに財務だけ空白、という状態がごく自然に生まれます。
この「財務」という機能をもう少し広く知りたい方は、財務コンサルとは何かを解説した記事もあわせて読むと、輪郭がはっきりします。
財務担当がいないと、会社で何が起きるのか?
結論、財務の意思決定が、すべて社長一人の肩に乗ったまま放置されます。そして、その重さに社長自身が気づかないまま、機会損失だけが静かに積み上がっていく。これが一番怖いところです。
財務担当がいない会社で、私が現場でよく見る症状は、だいたい次のようなものです。
財務の空白が生む、よくある症状
- 銀行交渉が「社長の出たとこ勝負」になっている——事業計画の裏付けがなく、条件交渉の余地を取りこぼす
- 「来月の資金、足りるかな」が頭から離れない——資金繰り表が回っておらず、半年先が見えない
- 黒字なのに、なぜか手元にお金が残らない——利益とキャッシュのズレを誰も管理していない
- 大きな投資を、勘で決めている——採用・設備・出店の回収計算を一緒に検証する相手がいない
厳しい言い方になりますが、この状態を「うちはまだ大丈夫」と放置していると、決算で初めて異常に気づくことになります。月次で財務を見ている人がいれば事前に手を打てたものが、後手に回る。財務の空白は、痛みが遅れてやってくるのが厄介なんです。
とくに「黒字なのに現金がない」という症状は、成長期に本当によく起きます。なぜ税理士がいても経営の相談に乗りにくいのか、その構造的な理由はアドバイザーが経営相談に乗れない理由で詳しく書いています。
❌ ここで多くの社長が失敗するパターン
財務の空白を、経理担当に「ついでに」押し付けてしまうこと。記帳のプロに資金繰り設計や銀行交渉まで求めると、本来の経理品質まで落ち、どちらも中途半端になります。財務は経理の延長ではなく、別の機能です。空白を埋めるなら、経理に上乗せするのではなく、財務として独立させて考えてください。
財務責任者は、採用と外注のどちらがよいか?
結論、年商1〜10億の成長期なら、まずは外注(外部の財務責任者)から入るのが現実的です。理由は単純で、この規模ではフルタイムの財務責任者を雇うほどの仕事量も、雇える人材の見つけやすさも、まだ揃っていないことが多いからです。
採用と外注、それぞれの向き・不向きを正直に整理します。
| 採用(正社員の財務責任者) | 外注(外部の財務責任者) | |
|---|---|---|
| コスト | 人件費・社会保険料が固定で重い | 必要な範囲・頻度の分だけ |
| 立ち上がり | 採用・育成に時間がかかる | 即戦力ですぐ動ける |
| 人材の確保 | 財務に強い人材は採りにくい | 経験者を外から借りられる |
| 社内への蓄積 | ノウハウが社内に残る | 仕組み化しないと残りにくい |
採用が向くのは、財務の仕事量がフルタイム一人分を恒常的に超えていて、かつ採用予算に余裕がある会社です。私の体感では、これは年商10億を超えて、組織が30名・50名と厚くなってきたフェーズで現実味が出てきます。
逆に、それより手前の成長期では、外注で財務機能だけを必要な分だけ借りるほうが、投資対効果が高いことが多い。フルタイムの人件費をかけずに、財務のプロの視点を経営に入れられるからです。これは経験上、間違いない。
そして、ここが一番大事なところなのですが——月次の数字を一番近くで見ている税理士が、その財務機能まで担えるのが、最も効率がいい。窓口が分散すると判断が遅くなる。税理士が財務コンサルとして伴走できれば、数字の翻訳ロスがなくなります。その考え方は税理士が財務コンサルとして伴走するメリットに書きました。
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財務責任者を外注すると、どこまで任せられるのか?
結論、記帳のような「手を動かす作業」以外の、財務の意思決定まわりはほぼ任せられます。社長が一人で抱えていた「お金の戦略」を、隣で一緒に背負う相手ができる、というイメージです。
具体的に、外部の財務責任者に任せられる範囲は、だいたい次のようなものです。
- 資金繰りの設計と管理——月次の資金繰り表を回し、半年先のキャッシュを見える化する。ショートを未然に防ぐ
- 銀行交渉と資金調達——どの銀行から、いくら、どの条件で借りるか。事業計画書の作成から面談の組み立てまで
- 事業計画・経営計画の策定——3年後どこへ行くか。その数字の裏付けを一緒に作る
- 管理会計の構築——部門別・商品別の利益が見える状態をつくり、社長が判断できる数字を整える
- 投資判断のサポート——採用・設備・出店・M&A。その投資が回収できるかを一緒に検証する
逆に、外注で任せにくいのは、日々の現金管理や、社内の細かい承認フローに常駐することです。ここは社内の経理担当の領域。だから理想は、社内に経理を置きつつ、財務の頭脳だけを外から借りる——という組み合わせになります。
銀行交渉について少し補足します。銀行が見ているのは、決算書の数字そのものではありません。「貸したお金が、どう返ってくるのか」という返済ストーリーです。ここを一緒に設計してくれる相手がいると、融資の通り方も条件も変わってきます。実際に税理士機能ごと見直して融資環境が変わった話は税理士を変えて融資が通った話に書いています。
もう一つ。財務全体を外から見直すと、固定費が削れる余地も出てきます。たとえば信用保証協会の保証料は、設計次第で負担が変わります。具体的な打ち手は保証料を最小化する4つの設計にまとめています。
❌ やってはいけないこと
外部の財務責任者に「丸投げ」して、社長が数字から離れてしまうこと。外注先は社長の代わりに判断する人ではなく、社長が判断できるように整える人です。最終的に自社の数字を自分の言葉で語れるのは社長だけ。銀行も、そこを見ています。財務を外注しても、数字のオーナーは社長であり続けてください。
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よくあるご質問(FAQ)
Q1. 経理担当に財務も兼任させるのは、ダメなんですか?
絶対ダメとは言いません。ただ、経理(記録)と財務(戦略)は求められるスキルが違うため、兼任させると本来の経理品質まで落ちるリスクがあります。資金繰り表を作る程度なら兼任できても、銀行交渉や事業計画の戦略設計まで一人に求めるのは現実的でないことが多い。役割は分けて考えるのが安全です。
Q2. 財務責任者の外注と、外部CFOは違うものですか?
ほぼ同じ意味で使われます。「外部CFO」「社外CFO」「非常勤CFO」「財務責任者の外注」——いずれも、財務の頭脳を正社員で雇わず外部のプロに任せる形態を指します。会社によって呼び方が違うだけで、役割の本質は変わりません。
Q3. 顧問税理士がいても、財務責任者は別に必要ですか?
今の税理士が財務戦略まで踏み込めているなら、別途は不要なこともあります。ただ、税務・決算が中心で銀行交渉や資金繰り設計に関わっていないなら、その空白を埋める意味があります。理想は、税理士と財務機能が一人にまとまっていること。窓口が一つだと判断が速くなります。
Q4. 外注だと、社内に財務のノウハウが残らないのでは?
仕組み化を意識すれば残せます。資金繰り表のフォーマット、銀行への説明資料、判断の考え方——これらを社内に「型」として渡しながら伴走すれば、外注を卒業して内製化する道筋も作れます。むしろ、いきなり採用して育成に苦労するより、外注で型を作ってから採用するほうが失敗が少ないことも多いです。
Q5. どのくらいの年商から、財務責任者を考えるべきですか?
私の体感では、年商1億を超えたあたりが検討の入り口です。銀行と複数行の付き合いが始まり、資金繰りが頭から離れなくなってきたら、財務の空白が痛み始めているサインです。逆に、社長が全部把握できている数千万円規模では、まだ早いこともあります。必要のない会社に勧めるつもりはありません。
Q6. 顧問契約をしないと相談できませんか?
いいえ。スポット相談、セカンドオピニオン、事業計画書の作成のみ——といった形でもお受けしています。まずは45分の無料相談で、「採用すべきか、外注で十分か」を整理するところから始めるのが現実的です。
まとめ|財務の空白は「経理の上乗せ」ではなく「別機能」として埋める
最後に、この記事の要点を整理します。
- 経理と財務は別物——経理は過去の記録、財務は未来の設計。経理がいても財務はカバーできない
- 財務の空白が生むもの——銀行交渉の取りこぼし、資金不安の常駐、黒字なのに金が残らない、勘の投資判断
- 採用か外注か——年商1〜10億ならまず外注が現実的。採用はフルタイム一人分の仕事量が恒常化してから
- 外注で任せられる範囲——資金繰り・銀行交渉・事業計画・管理会計・投資判断。日々の現金管理は社内に残す
- 最も効率がいい形——月次を見ている税理士が、財務機能まで一人で担うこと。窓口が一つだと判断が速い
財務担当がいない、というのは、会社が成長している証でもあります。経理が追いついた次は、財務の番というだけのこと。その空白を「経理の上乗せ」で雑に埋めず、別機能として誰に任せるかを設計できるか——ここで、会社の伸び方は確実に変わります。これは現場で何度も見てきました。
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この記事を書いた人
稲田光浩(いなだ みつひろ)
税理士/稲田光浩税理士事務所 代表
年商1〜10億の成長企業オーナー専門・freee認定アドバイザー
- 顧問先:成長期の中小企業・スタートアップ・医療歯科・飲食等
- CFO顧問の伴走実績あり、新規CFO顧問の受付を再開しています
- 監査役:東京プロマーケット 上場準備中の企業 1社
- 監事:社会医療法人 1法人
- 経営会議・取締役会への参加経験:複数社
- プロジェクト型支援領域:経営ダッシュボード設計・構築/経営計画策定/資金調達伴走/経理業務フロー改善/AI活用設計
〒532-0011 大阪市淀川区西中島4-2-21 ミツフ新御堂筋ビル605







