経営計画を「いつか作らないと」と思ったまま、今期も走り出していないでしょうか。
あるいは、一度は作った。
銀行に出すために、それなりの体裁で。
でもその計画書、今どこにあるか、すぐに答えられるでしょうか。
正直に書きます。中小企業の経営計画の大半は、「作って終わり」で引き出しに眠っています。私は税理士として、東京プロマーケット上場準備中の企業の監査役、社会医療法人の監事を務め、複数社の経営会議・取締役会に出ていますが、計画が「回っている」会社と「眠っている」会社の差は、書類の出来ではありません。作り方の順番です。
この記事では、銀行提出用のきれいな計画書の書き方ではなく、社員が同じ方向を向き、自律的に動き出すための経営計画の作り方を、5つのステップで解説します。結果として、その計画は銀行融資にもそのまま効きます。
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1. なぜ中小企業の経営計画は「作って終わり」になるのか?
結論から書きます。作って終わりになるのは、計画を「誰かに見せるため」に作っているからです。
銀行のため。
補助金のため。
コンサルタントに勧められたから。
読み手が社外にいる計画は、提出した瞬間に役目を終えます。だから引き出しに入る。当然です。
私が経営会議に出ている複数社で見てきた「回っている計画」は、読み手が社内にいます。社長が方針を語るときに開き、幹部が来月の打ち手を決めるときに開き、月次の会議で実績と並べて眺める。計画とは、社員が同じ方向を向くための共通言語です。書類の美しさは二の次でいい。
もう一つ、現場で何度も見てきた失敗があります。数字だけの計画と、理念だけの計画です。売上目標の表だけを配られても、社員は「なぜその数字なのか」が分からないので動けない。逆に、立派な理念を掲げても、数字への道筋がなければ日々の行動は変わらない。理念と数字、どちらが欠けても計画は回りません。
では、両方が揃った計画をどう作るのか。順番はこうです。
ここから、5つのステップを順に解説します。
2. 【ステップ①】なぜ数字より先に「社長の考えの言語化」から始めるのか?
最初にやるのは、エクセルを開くことではありません。社長の頭の中を、言葉にすることです。
具体的には、次の問いに社長自身の言葉で答えます。
- この会社は、何のために存在するのか——誰のどんな困りごとを解決して対価をいただいているのか
- 3年後、5年後、どんな会社になっていたいのか——規模だけでなく、社員がどんな顔で働いている会社か
- 社長自身は、最終的にどうしたいのか——事業承継か、売却か、生涯現役か。出口の考えで打ち手は変わります
「そんな青臭いことより数字だろう」と思われるかもしれません。
逆です。
経営会議の現場で見ていると、社員が動かない会社の多くは、社員が怠けているのではなく、社長の考えが社員に伝わる形になっていないだけです。社長の頭の中にしかない方針は、社員から見れば存在しないのと同じ。言語化された理念と出口があって初めて、「なぜこの数字を追うのか」に背骨が通ります。
完璧な文章にする必要はありません。A4一枚、箇条書きで十分です。ここに時間をかけすぎて先に進めなくなるのが一番もったいない。
3. 【ステップ②】決算書のどこを棚卸しすれば、計画の土台になるのか?
考えを言語化したら、次は現在地の確認です。使うのは、手元にある直近2〜3期分の決算書。新しい資料を作る前に、まず今ある数字を棚卸しします。
最低限、見るべきは次の4点です。
- 売上の中身——どの商品・どの取引先・どのチャネルで稼いでいるか。「売上合計」しか見ていない会社は驚くほど多い
- 粗利の構造——商品別・部門別の粗利率。売上は大きいのに粗利が薄い事業が、会社全体の利益を食っていないか
- 固定費の水準——人件費・家賃・その他経費が月いくらか。粗利がいくらあれば会社が回るのか(損益分岐点)
- 現預金と借入——手元資金は月商の何か月分か。返済は年間いくらか
ここで大事なのは、「忙しいのに利益が残らない」の正体は、ほぼ必ず粗利構造の中にあるということです。これは、経験上、間違いない。売上を伸ばす前に、どの粗利を伸ばすのかを決める。決算書は税務署のための書類ではなく、そのための材料です。
決算書のどこをどう読むかは、経営者のための決算書の読み方で詳しく解説しています。
4. 【ステップ③】目標より先に「やらないこと」を決めるべき理由とは?
現在地が見えたら、目標を置きます。ただしここに、多くの社長がはまる落とし穴があります。
目標を「足し算」で作ってしまうことです。
新商品もやる。新規開拓もやる。採用もやる。DXもやる——。やりたいことを全部載せた計画は、一見立派ですが、中小企業の人員と資金では全部は動きません。結果、全部が中途半端になり、社員は「また社長が何か言い出した」と冷める。計画への信頼が死ぬのは、この瞬間です。
経営計画の核心は、目標を決めることではなく、「やらないこと」を決めることです。
目標は、売上・粗利・営業利益・現預金残高の4つ程度に絞る。そして打ち手は、ステップ②で見えた粗利構造に照らして、今期は多くて3つまで。それ以外は「やらない」と明文化する。
私の体感では、優先順位を3つに絞れた会社ほど、翌期の数字の説明がしやすくなります。捨てる意思決定こそ、社長にしかできない仕事です。
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5. 【ステップ④】計画の数字を、現場の行動にどう分解するのか?
ここが、「社員が動き出す計画」と「引き出しで眠る計画」の分水嶺です。
年間の売上目標を12で割って月次に並べただけの計画は、現場から見れば他人事です。営業担当は「で、自分は何をすればいいのか」が分からない。分からないから、動けない。
やるべきは、会社の数字を、部門の数字へ。部門の数字を、個人の行動へと翻訳していく作業です。
たとえば粗利をいくら増やすなら、既存客の単価改善で何割、新規で何割と分ける。新規側は「月に何件提案すれば、過去の成約率から逆算して届くのか」まで落とす。ここまで来て初めて、目標は社員一人ひとりの「今月やること」に変わります。数字で売上を伸ばすとは、精神論で尻を叩くことではなく、この逆算の設計をすることです。
もう一つ、忘れられがちな点を。分解した行動指標は、社員を管理するためではなく、社員が自分で進捗を確認できるようにするためのものです。自分の行動と会社の数字がつながって見えたとき、社員は指示を待たなくなります。理念(ステップ①)と数字(ステップ④)がここで初めて握手する。私はこの瞬間を、経営会議の現場で何度も見てきました。
6. 【ステップ⑤】月次で計画をまわす仕組みは、どう作るのか?
計画は、作った日がスタートです。回す仕組みがなければ、どんな計画も3か月で風化します。
仕組みといっても、複雑なことは要りません。月に一度、次の4つを確認する場を固定するだけです。
- 計画——今月の目標数字と行動指標は何だったか
- 実績——実際はどうだったか(試算表と行動の実績)
- 差異——ズレはどこで、なぜ生まれたか
- 次の一手——来月、何を変えるか。誰が、いつまでに
大事なのは、差異を「詰める場」にしないことです。計画どおりにいかないのは当たり前で、ズレの原因が早く見えることこそ月次の価値です。未達を責める会議にした瞬間、現場は数字を隠し始め、仕組みは死にます。
そしてこの月次の運用は、社長の時間の使い方も変えます。毎月決まった場で数字と向き合う習慣ができると、それ以外の日々を「数字の心配」に使わなくて済む。社長の脳の余白が生まれ、その余白が未来を考える時間になる。私が計画づくりの支援で最終的に目指しているのは、実はここです。
❌ 経営計画で、やってはいけないこと
- 作って終わりにする——月次で振り返る場を先にカレンダーに固定してから作る。逆順は必ず風化します
- 理念だけで数字がない——道筋のない理念は、社員から見ればただのスローガンです
- 数字だけで理念がない——「なぜその数字か」がない目標は、現場に他人事として扱われます
- 現場に降ろさない——社長と幹部だけが知っている計画は、社員にとって存在しないのと同じです
- いきなり完璧な計画書を目指す——分厚い計画書づくりが目的化して途中で止まるのが、一番多い失敗です。A4数枚から始めて毎期磨けばいい
7. 社内向けの経営計画は、銀行融資にも効くのか?
効きます。むしろ、社内で回っている計画のほうが、銀行提出用に取り繕った計画書より強い。
理由はシンプルです。銀行融資は数字だけの審査ではなく、返済ストーリーの審査でもあるからです。粗利構造の裏付けがあり、行動まで分解され、月次で実績と突き合わせている計画は、そのまま「貸したお金がどう返ってくるか」の物語として読めます。しかも、自社で回している計画なら、社長は自分の言葉で語れる。銀行員が最も評価するのは、この「自分の数字を自分で語れる社長」です。
なお、融資の場面で提出する事業計画書に落とし込む際の型は、銀行に伝わる事業計画書の書き方|押さえるべき5要素にまとめています。社内計画がステップ⑤まで回っていれば、この5要素はほぼ流用で埋まります。また、経営革新や事業計画づくりの公的な支援制度は中小企業庁の経営サポート情報でも確認できます。
正直に書けば、逆は成り立ちません。銀行向けに外注で作っただけの計画書は、社内では一日も回らない。順番は常に、社内で回る計画が先、提出書類は後です。
8. よくあるご質問(FAQ)
Q1. 経営計画書に決まったフォーマットはありますか?
ありません。法律で定められた様式は存在せず、A4数枚の簡素なものでも十分機能します。大事なのは体裁ではなく、①社長の考え ②現状の数字 ③目標と優先順位 ④現場の行動への分解 ⑤月次で見直す仕組み、の5点が入っていることです。融資や補助金の申請時は、提出先が指定する様式に社内計画の中身を移し替えれば対応できます。
Q2. 経営計画は何年分作ればいいですか?
まずは1年分(単年度計画)を月次まで分解して作ることをおすすめします。あわせて3〜5年の中期の方向性をA4一枚程度で持っておくと、単年度の優先順位がぶれにくくなります。最初から精緻な5か年計画を作ろうとすると途中で止まりやすいため、単年度を回しながら毎期磨いていくほうが現実的です。
Q3. 大阪の会社ではありませんが、経営計画づくりの相談はできますか?
できます。当事務所は大阪市淀川区ですが、オンラインで全国対応しています。経営計画の策定支援は、決算書等の資料を事前に共有いただければ、初回からオンラインで具体的な議論が可能です。
9. まとめ|計画は「書類」ではなく「会社の背骨」
経営計画の作り方を、5つのステップで解説しました。
- ステップ①——社長の考えの言語化。理念と出口が、数字の背骨になる
- ステップ②——決算書で現在地の棚卸し。利益が残らない正体は粗利構造にある
- ステップ③——目標と優先順位。核心は「やらないこと」を決めること
- ステップ④——数字を部門・個人の行動へ分解。ここで社員が動き出す
- ステップ⑤——月次で計画→実績→差異→次の一手。回して初めて計画になる
完璧な計画書は要りません。A4数枚でいい。ただし、回す仕組みだけは最初に固定してください。
1年後、また社長一人が数字を抱え、社員の顔色と資金繰りを交互に見る日々を続けるのか。それとも、社員が同じ数字を見て、同じ方向を向いて動き出しているのか。その分かれ目は、才能でも景気でもなく、今期、計画を作って回し始めるかどうかです。
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経営計画の策定と月次運用・銀行融資・資金繰り設計——お金まわりの意思決定を、税理士業務の枠を超えて一気通貫で伴走するのが Luxe Partners です。計画を作って終わらせず、毎月の経営会議で回るところまで支援します。
この記事を書いた人
稲田光浩(いなだ みつひろ)
税理士/稲田光浩税理士事務所 代表
年商1〜10億の成長企業オーナー専門・freee認定アドバイザー
- 顧問先:成長期の中小企業・スタートアップ・医療歯科・飲食等
- CFO顧問の伴走実績あり、新規CFO顧問の受付を再開しています
- 監査役:東京プロマーケット 上場準備中の企業 1社
- 監事:社会医療法人 1法人
- 経営会議・取締役会への参加経験:複数社
- プロジェクト型支援領域:経営ダッシュボード設計・構築/経営計画策定/資金調達伴走/経理業務フロー改善/AI活用設計
〒532-0011 大阪市淀川区西中島4-2-21 ミツフ新御堂筋ビル605



