「うちの金利は1.5%です」——そう即答できる社長は、数字に強い社長です。
でも、その1.5%だけを見て「うちは安いほうだ」と安心していないでしょうか。
銀行員は、その1.5%だけで会社の借入コストを見ていません。
保証料、手数料、そして「作らされた預金」まで含めた、実質のコストで見ています。このギャップに無自覚なまま毎年を過ごしている社長は、正直、少なくありません。
私は税理士であり、国が認定する認定経営革新等支援機関として、これまで40社を超える会社の資金調達や財務の立て直しに伴走してきました。社会医療法人の監事を務め、複数社の経営会議にも同席しています。その現場で何度も見てきたのは、金利は「言われた条件」ではなく「交渉で動く条件」だという事実です。
この記事では、表面金利の定義をなぞる話はしません。実質金利を、交渉でどう下げるか。その3つの論点だけを、現場の目線で正直に書きます。タイトルの「10%下げる」は保証ではなく、実質金利ベースで1〜2割が動くこともある、という私の体感に基づくモデルの話として読んでください。
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1. なぜ「うちは安い」と言う社長ほど、実質では高く払っているのか?
結論から書きます。表面金利だけを見ている社長は、銀行にとって「話が早くて、コストの上乗せに気づかないお客」です。言葉を選ばずに書くと、そういうことです。
表面金利は、契約書に大きく書いてある1.5%のことです。
でも会社が実際に負担しているのは、その利息だけではありません。
保証協会の保証料。融資実行の事務手数料。「お付き合いで」と作った定期預金や投信。これらは表面金利には一切現れません。だから社長の頭には残らない。銀行員は知っていて、わざわざ言わない——これが現実です。
ざっくり言えば、実質金利とは「借りて自由に使えているお金1円あたり、年いくら払っているか」です。利息に保証料や手数料を足し、拘束されている預金を借入から差し引いて考える。この視点に立つと、表面1.5%の会社が実質では2%を超えている、ということは珍しくありません。
ここで大事なのは、定義を暗記することではありません。実質で見た瞬間、どこに交渉の余地があるかが見えてくる——これが本題です。以下、実質金利を押し上げている3つの論点を、交渉の順に見ていきます。
2. 論点①:保証料・手数料を「込み」で比べないと、なぜ借り換えで損をするのか?
1つ目の論点は、比較の土俵です。金利は必ず「保証料・手数料込みの実質」で横並びにする。これを外すと、借り換えでかえって損をします。
よくあるのが、他行から「金利0.3%下げます」と言われて飛びつくケースです。
ところが、その借り換えには新しい保証料と事務手数料がかかる。
数字を並べ直すと、実質では前より高くなっていた——という話を、私は何度も見てきました。
比べるべきは、次の3つを合算した総額です。
- 利息——表面金利で計算される、いわゆる金利部分
- 信用保証協会の保証料——財務状況に応じて料率が変動する。決算が良くなると下がる余地がある
- 諸手数料——融資実行時の事務手数料、繰上返済手数料、コミットメントフィーなど
保証料そのものを下げる方向も、当然あります。プロパー融資(保証協会を通さない銀行の自前融資)に切り替えれば、保証料はゼロになる。ここが本丸です。保証付きからプロパーへどう移していくかは、プロパー融資への3ステップ|信用保証協会から卒業する道筋で具体的に書いています。保証料率そのものの下げ方は、信用保証協会の保証料を最小化する4つの設計にまとめました。
手数料は、社長が最も見落とす項目です。「他行も条件を出してくれている」と一言添えるだけで、事務手数料や振込手数料が動くことは、実務上よくあります。金利だけを土俵にせず、総額で交渉する。これが論点①の核心です。
3. 論点②:拘束預金や当座貸越の「隠れコスト」を、どう見抜くのか?
2つ目は、いちばん見えにくいコストです。実質的に拘束されている預金——いわゆる歩積両建(ぶづみりょうだて)です。
「融資を出すので、定期預金を作ってください」
「金利を少し頑張るので、投信を1,000万円ほど」
融資の話と同時に、こう言われた経験のある社長は多いはずです。
形式上は別の取引です。でも実質は、借りたお金の一部を銀行に「置いてこい」と言われているのと同じ。手元で自由に使えるお金が減るぶん、実質金利は確実に押し上がります。
5,000万円借りて、1,000万円を定期に固定されていたら、自由に使えるのは4,000万円。同じ利息でも、実質のコスト感は跳ね上がります。
見抜き方の目印
次のどれかに心当たりがあれば、隠れコストを疑う価値があります。
- 融資の実行と同じ時期に、定期預金や投信をすすめられた
- 「解約すると次の融資に響く」といった空気を、それとなく感じたことがある
- 当座貸越の枠を、実質的にずっと使い切ったまま「常時借り」の状態になっている
歩積両建は、独占禁止法上の優越的地位の濫用に触れうる慣行として、金融行政でも問題視されてきました。近年は銀行も慎重です。だからこそ、感情的にではなく「実質金利を正しく計算したうえで、この預金の見直しを相談したい」と、数字を根拠に切り出せば、応じてもらえる余地は十分にあります。
ただし、ここは関係性が絡む繊細な交渉です。どの順番で、どの担当に、どう切り出すか——具体的な進め方には技術が要るため、台本そのものは記事には書きません。個別のご相談で、御社の取引状況を見ながらお伝えしています。
「これって拘束預金では?」と感じたら、まず数字で確かめる
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4. 論点③:複数行の競合と資金使途の整理で、なぜ金利は動くのか?
3つ目は、交渉力そのものの作り方です。金利を動かす一番の源泉は、「他にも貸したい銀行がいる」という事実と、資金使途が整理されていること。この2つです。
メインバンク1行だけに依存していると、交渉力はほぼゼロです。
比較する相手がいないのだから、銀行に値下げの理由がない。
逆に、複数行と取引があれば、それだけで金利の重力が働きます。
私が現場で見ているのは、複数行と付き合っている会社ほど、同じ財務内容でも条件が良い、という傾向です。銀行員も他行の存在を前提に稟議を組む。だから「御社は当行だけで見ています」という会社ほど、実は割高な条件を飲まされている。
もう一つが、資金使途の整理です。「何に使い、何で返すか」の筋が通っている融資ほど、銀行はリスクを低く見積もり、金利で応えやすくなります。使途が曖昧な運転資金の借り増しより、目的と返済原資がはっきりした資金のほうが、条件は動く。銀行融資は”数字の審査”であると同時に、”返済ストーリーの審査”でもあるからです。
公庫と地銀をどう組み合わせて複数行の土俵を作るかは、日本政策金融公庫と地銀の使い分け|年商別の現実的なポートフォリオで整理しています。資金使途を銀行に伝わる形に落とし込む骨格は、銀行が読みたい事業計画書|外せない5要素と作り方が参考になります。
交渉のタイミングは、業績が伸びている、決算が良かった、新規借入を申し込む——この局面が攻めどころです。業績が落ちてから金利を下げてくれ、と言っても、銀行は動きません。晴れの日に、傘の値段を交渉する。これが鉄則です。
5. 「10%下げる」は、現実的な数字なのか?
正直に書きます。「実質金利が必ず10%下がる」と保証することは、誰にもできません。財務状況も、取引行との関係も、会社ごとに違うからです。
そのうえで、モデルケースで考えてみます。あくまで制度上の一般的な試算で、実在の会社の話ではありません。
借入5,000万円、実質金利が2.0%だとします。
ここから論点①〜③を積み上げて、実質を1.8%まで下げられたとしたら。
下げ幅は0.2ポイント、実質金利ベースでは1割の圧縮です。
金額にすると、5,000万円に対する0.2%はおおよそ年10万円。保証料の見直しや手数料の圧縮、拘束預金の解消が重なれば、実質ベースで1〜2割が動くことは、私の体感としては十分にあり得る水準です。
ここで強調したいのは、「一度きり」ではなく「毎年効く」という点です。年10万円でも、借入が続く5年なら50万円。それも、新しい売上を1円も増やさずに、交渉だけで生まれるお金です。成長期に手元を厚く持ちたい会社にとって、この差は小さくありません。
もちろん、下がらない会社もあります。そうしたケースでは、金利より先に手をつけるべきことがある。それが次の章です。
6. どんな会社は、金利交渉より先にやるべきことがあるのか?
ここはきれいごとを抜きにして書きます。すべての会社が「今すぐ金利交渉すべき」わけではありません。順番を間違えると、かえって足を引っ張ります。
1つ目は、財務内容がまだ交渉に耐えない会社です。赤字が続いている、債務超過に近い——この状態で金利だけ下げてくれと迫っても、銀行は動きません。先にやるべきは決算の改善で、金利はその後についてきます。
2つ目は、資金繰りが月単位で詰まりかけている会社です。目先の資金を確保するのが最優先の局面で、0.2%の交渉に時間を使っている場合ではない。順番として、まず資金の目処を立てるのが先です。
3つ目は、メインバンクとの取引を始めたばかりの会社です。実績が浅いうちに強く値下げを迫ると、長い目で見て損をすることがあります。ここは急がないほうがいい。
❌ ここで多くの社長が失敗するパターン
その1:表面金利だけを見て、安いほうへ借り換える。新規の保証料と事務手数料を計算に入れず、実質では前より高くなっていた——という取り違えです。比べるのは必ず「保証料・手数料込みの総額」で。
その2:担当者に、感情的に「金利を下げてくれ」と直談判する。担当者に決定権はなく、関係だけが悪くなります。正しいのは、実質金利を数字で示し、他行の存在と資金使途の整理をそろえて、稟議が通る材料を担当者に渡してあげることです。
言い換えれば、金利交渉は「材料がそろってから動く」もの。焦って動くのではなく、正しく準備してから動く。その見極めこそが、専門家に相談する価値だと思っています。財務の相談先を「増やす」という選択肢については、税理士を変えて、銀行融資が通った話でも触れています。融資そのものを断られた後の立て直しは、銀行融資を断られた次の一手にまとめました。
7. よくあるご質問(FAQ)
Q1. 金利交渉をすると、銀行に嫌われませんか?
準備をして臨むなら、むしろ評価が上がることのほうが多いです。実質金利を計算し、資金使途を整理し、他行の状況も踏まえて話す社長は、銀行から「数字の分かる経営者」と見られます。嫌われるのは、感情的に値下げだけを迫る場合です。材料をそろえてから交渉する、という順番を守れば心配いりません。
Q2. 実質金利は自分で計算できますか?何を集めればいいですか?
考え方はシンプルで、利息に保証料と諸手数料を足し、拘束されている預金を借入から差し引いて考えます。集めるのは、各借入の返済予定表、保証料の明細、融資実行時の手数料の記録、そして定期預金や投信の残高です。ただし、どこまでを拘束預金とみなすかは判断が要ります。数字が集まった段階で、一度専門家と一緒に見ると精度が上がります。
Q3. 表面金利が安い銀行に借り換えれば、実質金利も下がりますか?
必ずしも下がりません。借り換えには新しい保証料や事務手数料がかかるため、金利だけ見て飛びつくと、実質ではかえって高くなることがあります。比較するときは、利息・保証料・手数料を合算した総額で横並びにしてください。表面0.3%の差より、総額での差のほうが本当のコストです。
Q4. 銀行に作らされた定期預金や投信は、解約できますか?
解約を相談すること自体は可能です。実質的に借入を拘束している状態(歩積両建)は、金融行政でも問題視されてきた慣行で、近年の銀行は慎重です。感情的にではなく、実質金利への影響を数字で示したうえで見直しを相談するのが現実的です。ただし関係性が絡むため、切り出す順番には注意が必要で、個別の状況に応じて進め方を設計するのをおすすめします。
Q5. メインバンク1行だけでも、金利交渉はできますか?
できますが、交渉力は弱くなります。比較する相手がいないと、銀行に値下げの理由が生まれにくいためです。すぐに複数行にする必要はありませんが、公庫や別の地銀と接点を持っておくだけで、交渉の土俵は変わります。まずは自社の実質金利を把握し、次の一手として取引行の分散を検討するのが順番です。
Q6. 大阪以外の会社でも、金利交渉の相談はできますか?
できます。当事務所は大阪市淀川区ですが、オンラインで全国対応しています。各借入の返済予定表と直近の決算書を事前に共有いただければ、初回から実質金利の計算と、交渉の余地の見立てまで具体的にお話しできます。
8. まとめ|金利は「受け取るもの」ではなく「動かすもの」
実質金利を下げる交渉の要点を、整理します。
- 前提——表面金利ではなく、保証料・手数料・拘束預金まで含めた「実質」で自社のコストを把握する
- 論点①——比べるときは必ず「保証料・手数料込みの総額」で。プロパー化は保証料そのものをゼロにできる本丸
- 論点②——実質的に拘束されている預金・当座貸越の隠れコストを見抜き、数字を根拠に見直しを相談する
- 論点③——複数行の競合と資金使途の整理で交渉力を作る。攻めるのは業績好調時
- 順番——財務が交渉に耐えない・資金繰りが詰まっている会社は、金利より先に手をつける
多くの社長は、金利を「銀行から受け取る条件」だと思っています。
でも実際は、準備次第で「こちらから動かせる条件」です。
来年もまた、契約書に書かれた金利をそのまま受け入れ、気づかないうちに上乗せぶんを払い続けるのか。それとも、自社の実質金利を自分の言葉で語り、銀行と対等に条件を交渉する社長になるのか。その分かれ目は、会社の規模でも景気でもなく、一度立ち止まって、自社の実質金利を計算してみるかどうかです。
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実質金利の把握、保証料と拘束預金の見直し、取引行のポートフォリオ設計、資金使途の整理と資金繰りの運用——お金まわりの意思決定を、税理士業務の枠を超えて一気通貫で伴走するのが Luxe Partners です。一度金利を下げて終わりにせず、毎年の借入コストが最適化され続ける財務構造が固まるところまで、社外CFOとして毎月の経営会議で並走します。
この記事を書いた人
稲田光浩(いなだ みつひろ)
税理士/稲田光浩税理士事務所 代表
年商1〜10億の成長企業オーナー専門・認定経営革新等支援機関・freee認定アドバイザー
- 顧問先:成長期の中小企業・スタートアップ・医療歯科・飲食等
- CFO顧問の伴走実績あり、新規CFO顧問の受付を再開しています
- 監査役:東京プロマーケット 上場準備中の企業 1社
- 監事:社会医療法人 1法人
- 経営会議・取締役会への参加経験:複数社
- プロジェクト型支援領域:経営ダッシュボード設計・構築/経営計画策定/資金調達伴走/経理業務フロー改善/AI活用設計
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